第九十話
萩野を撃破したその後。光一は、撃破突破のデメリットで失ったスタミナを回復するために深呼吸をして息をととのえると、近くにあったちょうど座れるほどの大きさの岩に座って休憩をとる。
(ふう、やっと落ち着けるな。流石に三連戦となると少々きついものがある、これからも闘うことになるだろうし魔力の温存も考えないとな)
光一はため息ををつくと集中を切る。これは今まででの闘いで、光一はほぼ集中を使い、場合によっては過剰な集中 (オーバーコンストレイション)まで使っており疲労した脳を休ませるのと魔力の回復が目的である。
光一は、岩に座り一息ついていると、ふともう一人のFクラス代表である斎藤謙二のことを思い浮かべる。光一がそんな事を思っていた頃、その当人は
「うーむ、どうするべきか」
木々が生い茂る森のなかで、腕組みをしながらそう唸っていた。謙二はこの対抗戦が始まってから、とりあえず光一と合流しようと森のなかを歩き回っていたのだが、光一は愚か他クラスの影も見えない。
(光一と合流できれば良いんだけどな。……まてよ、ここまで生き残ったんだ、下手に動くより潰しあいを待った方がいいか?)
ふと頭にそんな考えがよぎり、移動すべきか隠れるべきか迷っていると、がさりと数十メートルほど先の茂みが揺れた。謙二は、それを見て直ぐに隠れようとしたが、
「匂う、匂うぞ。おい、そこの奴! 逃げても無駄だぞ、俺にはお前の匂いがハッキリと分かる。逃げたところで直ぐに追い付いてやる」
その声に足が止まった。ハッタリの可能性もなくはないが、本当に謙二の居場所を感知できるのなら、下手に背中を見せるのは危険である。そう判断した謙二は、腰を落とし迎え撃つ構えをとる。そして茂みから現れたのは
「逃げなかったか、俺は勇気のある奴は好きだぜ。たとえ蛮勇でもな」
一言で言い表すなら"狼男"といった外見の男であった。その男は構えという構えこそしておらず、一見隙だらけのようであったが、
「じゃあ早速だが、やられてもらおうか」
「やっべ!」
強化系統のスキルを使っているのか、普通ではなしがたい速度で謙二との距離を詰めにかかる。謙二は気弾を両手から放つことで、男を牽制しつつ距離をとる。気弾が地面へと着弾したことにより、土煙が舞い上がり謙二は一時期に茂みへと身を隠す。そして土煙が晴れ、男の姿を見ると無傷のまま立つ姿がうかがえる。男は一度なにかを考えるような仕草をすると、
「中々やるじゃないか、お前。下位のクラスにも俺の初撃を耐えるような奴がいるんだな」
そう話し始める。謙二は草むらからその声を物音を立てずに聞いていた。
「俺の名は木崎孝太郎。Bクラスの代表の一人だ! さあ俺は名乗ったぞ、次はお前の番だ出てきな!」
大声で名乗りを上げる木崎の声を聞いて、謙二は
(ここまでされたら逃げるわけにはいかねぇな!)
「なら俺も名乗らせて貰おう! 俺の名は斎藤謙二、Fクラスの代表だ!」
そう対抗するように大声をあげながら、草むらから立ち上がる。そして、二人の男は顔を見合わせると薄く笑う。
片方は腰を落として最速で距離を詰める体勢となり、もう片方は気弾を放つために拳へとエネルギーを貯める。
次回 斎藤謙二VS木崎孝太郎