第八十六話
光一が、鳳城と交戦していた頃。他のクラス代表はというと、
「ねえ、花梨」
「どうしたの? 麗」
森の中を進んでいたEクラス代表である藤堂花梨は、自身の斜め後方を歩く、同じくEクラス代表である安室麗にそう問いかける。
「いや、さっきまで私たちが会えたことで忘れてたけど、これからの事についてあまり話してなかったからさ、話したいと思ってね」
今、このクラス対抗戦の参加者のなかで、最も幸運だったのはおそらくこの二人だろう。なぜらなら、二人は偶然にも最初のランダムな転位で、それほど離れた位置に転位されなかったからだ。そのおかげで早々に合流することができた。このクラス対抗戦は、各クラスの代表者が二人づつ参加している。当然、無条件で協力関係が結べている同じクラスの代表者と合流できれば、大きなアドバンテージとなる。しかし、この広いステージで最初はランダムに転位が行われる。そうなればそう簡単には合流ができないのだが、この二人はその障害を純粋な幸運で乗り越えた。それに、この二人の安室麗の近接戦闘と、防御と後方支援を担当する藤堂花梨のコンビネーションは、全力でないとはいえ、あの光一を手こずらせた経験もある。これらのことから、やはりこの二人は最も幸運な参加者だったと言えるだろう。
「っ! 止まって、花梨。誰か来る」
二人がこれからの事について相談しようとしたその時、安室麗は前方から迫る足音に気づく。藤堂は、その麗が発した静止の声に従い立ち止まる。二人はその場で静止すると、いつでも戦闘が出来るような姿勢をとる。本音を言えば、二人はできるだけ闘いたくは無い。元々Eクラスという下位クラスの方に属する二人は、この乱戦形式の闘いで疲弊した他の参加者を早々に合流できた、というアドバンテージを生かして二人で仕留める作戦を企てていた。
それゆえに、こんな序盤で闘い、疲弊するのは好ましくない。しかし、この差し迫る足音が、こちらを明確に狙っているのなら、下手に逃げて無防備な背中を打たれるのは最悪である。よって、二人はこの足音の主がこちらに気づかないなら、立ち去るまで行きを潜める。そうでないならば、闘おう。そう目線で会話する。そして、妙に長く感じる時間のなか、こちらに気づかない事を二人は祈っていたが、そう何度も幸運は続くことはなかった。
「おっ、ようやく誰かに会えた。いやー、この森の広いのなんの。あんたらが初め会った相手だぜ」
森の奥から歩いてきたのは、あっけからんとした表情を浮かべた男。男は、見ればなんとなく警戒を許してしまうような雰囲気を醸し出していた。が、ここは先程から同じクラスの代表以外はすべて敵の戦いである。そんなことで闘う気持ちが揺らぐ藤堂と安室ではない。二人は無言のまま、安室は刀を、藤堂はスモールキャノンを構える。
「へー、俺とやろうってのか。最初に言っとくけど、大人しく降参しておいた方がいいんじゃないかな。……痛い思いはしたくないだろ?」
男は、闘う姿勢を見せた二人を見て、そう促す。遠回しに"お前らでは自分には勝てない"そういった内容を突きつける男に対して、
「そっちこそ、いくらBクラスっていってもあんまりなめてると、足下すくわれちゃうかもよ」
「へぇ、威勢は良いみたいだな。俺相手にして逃げないなんて」
闘う姿勢をとくことはせず、藤堂がそう言い返す。それに対して、男は少し驚いたたような表情をする。この男の名は萩野啓太、Bクラスの代表であり、クラス内の順位はトップである。もちろん安室らも目の前の男がBクラスの代表ということは知っている。知った上で、闘いを挑んでいるのだ。普通なら直ぐにでも逃げの一手に走る状況、しかし二人にはある思いがあった。
「「(確かにこいつは凄く強いんだろう。……でも、二人がかりでこいつに勝てるぐらいじゃないと、あいつに勝つ。ましてや優勝なんて言えやしない)」」
そう、この二人は未だに優勝という大きな目標を諦めてはいなかった。そのためにも、ここで二人の力というものを見せたい。仮に優勝に届かなくとも、モニター前のクラスメイト達にクラスが下位だとしても上位に食らいつけるということを示すためにも。
「ふーん、じゃあ少々早いかもしれないけど、とっとと退場してもらおうかな」
その声と共に萩野は、自身の手に拳銃型のサブアルマを出現させる。そして放たれた銃弾が闘いの合図となった。
「麗! 下がって!」
萩野が銃弾を放つと、藤堂がそう叫ぶと同時に安室の前へ出る。銃弾は、安室の前に出た藤堂の両手の先から展開された透明の壁に阻まれる。堅牢な壁、藤堂のスキルであり、前方にしか生成できない欠点はあるものの、その分驚異的な固さを誇る壁を作り出すことができる。このスキルにより銃弾を耐えきった二人を見ると、萩野の眉が驚いたように少し動いた。
「(ほう、所詮Eクラスと思ってたが、なかなかいいスキルを持っているようだな)」
萩野が、そう感心していると、銃弾が止むと直ぐに安室が刀を構えて迫る。その動きは、安室の身体強化のスキル、一騎当千の力が加わり鋭い。萩野は拳銃の狙いを安室に絞り引き金を放つが、安室が素早く左右へと揺れるため、狙いがなかなか絞れない。それにより、萩野は容易に安室の接近を許してしまう。萩野は、当たらない苛立ちからか拳銃を連射するが、それらの銃弾は当たらず。安室は、もう刀が届く距離まで接近をしていた。
「(いける! もう相手の弾はないはず!)」
萩野が持っている拳銃は、割とスタンダードなサブアルマであり、キャノン系統と比べて威力は劣るが取り回しと連射で優れるといった商品である。そして、特に強化した様子の見えないそれは、弾が六発入る仕組みであり、今の連射ですべての弾は撃ちきっている。それらから、一撃は入ると確信した安室は、刀を一気に凪いで萩野を切ろうとした。が、
「残念」
「なっ!」
ニヤリと萩野が口元を歪ませたかと思うと、すでに弾が無いはずの拳銃の銃口を安室へと向ける。安室は、弾数は確認していた、しかし"何かある"そう感じて銃口から体を逸らそうとするが、もう遅い。萩野の指が拳銃の引き金を引くまさにその時。
「おっと、危ない。……そんなアルマももってたのか」
萩野に向かって拳大の防弾が発車される。萩野に当たりはしなかったものの、萩野がそれを避けたため、萩野の手元がぶれて安室は銃口の線上から外れることができた。そしてやはり、安室の予感は当たり空の筈だった萩野の拳銃からは、弾丸が発射されていた。もし、防弾が飛んで来なかったらいまごろ安室は頭を撃ち抜かれていただろう。
安室は、一度藤堂の所まで下がると、
「ごめん、助かった」
「お礼なんて後、それに助け合うのは当然でしょ、私達は同じチームなんだからね」
「ああ、そうだね」
そう短い会話を交わす。意外なことに、その隙に萩野からの追撃はなく、二人の会話が終わると、萩野が口を開く
「負ける時の相談は終わったか? 終わってないならもう少し待ってやってもいいぞ?」
「いいや、終わったさ。あんたを倒す作戦会議がね!」
そんな皮肉に対して、そう言いながら安室が突進していく。
中途半端に切れてしまってごめんなさい
続きはできるだけ早く投稿します