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第八十三話

 光一は、一瞬中に浮いたような感覚を感じたと思ったら、次の瞬間には森の中に立っていた。上を見上げれば、木々の背は高くだいたい七、八メートルは有るだろう。そう自身の周りを分析していると、突然空中に巨大なディスプレイが表れる。それに映っていたのは、今回の対抗戦の責任者でもある笹山であった。


  『どうやら、全員無事にダイブ出来たようだな。それでは、ただいまからクラス対抗戦を開始する! 皆全力を尽くすように』


 そう言うと、ディスプレイにBATTLE STARTの文字が映し出される。これにより、クラス対抗戦が本当にスタートされた。


  「さて、まずは移動をしないとな。できることなら謙二とも合流したいものだが」


 光一は、そう今後の方針を決めて移動を開始する。光一の本来の目的としては、優勝ではなく主人公に勝てば良いのだが、今下手に主人公と闘えば、仲間を呼ばれたり横槍を入れられる可能性もあるだろう。そのような事態になれば、勝率はかなり下がる。それを避ける為にも、一対一が望ましい。それを実現するために、


  「(序盤はなるべく数を減らしていくか)」


 そう当面の目的を決めて、移動をする。






ーーーーーーーーーーーーーーー


 「(さて、どうする)」


 草木が生い茂る森の中に、一人の男が息を潜めて隠れていた。男は自分の身長程の槍を持ち、木にもたれ掛かりながらそう考えていた。男はDクラスの代表であり、目を引くのはその長い槍と強化された腕のアルマだろう。この男は、槍を落とさないように、そして自由自在に操れるようにと、腕のアルマを強化しており。その鍛えられたアルマは、男の槍に強力な力を加え、槍のリーチも相まって男に代表の座を手に入れさせた。

 そこまでは良かった、しかしこのクラス対抗戦は自身の所属しているDクラスよりも格上が何人も参加している。確かに、クラスメイトからは激励の言葉を貰いはしたものの、恐らく本心から自分の優勝を思っている者は少ないことを男は悟っていた。


  「(確かに俺なんかじゃ優勝なんて出来ないだろうよ……けど、なんも良いとこ無しってのだけは回避してぇな……ん? あれは)」


 そう考えながら、後ろから聞こえた物音に気づいた男は、もたれ掛かかっていた木に体を隠すように、顔だけを出して後ろを見る。すると、後ろにあった道を一人の男が歩いているのが見えた。その男は一目見て異質であった。なぜなら、


  「(あいつは、確かFクラスの奴だったな。片腕しかアルマがない男。噂でしか聞いたことないが、良いところに来た)」


 その男は漆黒のアルマを右腕に着けていた。その男は、少し前に噂となっていた片腕しかアルマのない男。その男はFクラスの代表であり、肩書きを見れば自分より格下の相手。しかも相手はこちらに気づいていないのか、悠々と背中をこちらに見せて歩いている。距離的にはほんの数歩で槍が届く。これほど絶好のチャンスはないだろう。そう判断した男は、足に力を込めて一気に飛び出す。そして、槍を渾身の力で男の背中に突き刺そうとする。


 「(やった!)」


 草むらから飛び出しながら、男はそう思った。明らかにこのタイミングならこちらを振り向く前に突き刺させる。そう思っていた。が、


  「なっ!」


 確かに、相手の男は完全に振り向けはしなかった。しかし、相手の男は半身になるまで振り向くと、左手で自身の槍を掴んだ。まだ槍を掴まれただけならいい。問題はそれを相手の男は、"アルマを装着(インスタリアム)すらしていない左手で行った"という点だ。しかも、男が槍を引き抜こうとしても相手の男はびくともしない。自身の強みは、槍のリーチとそれを操る腕のアルマの力である。それを目の前の男は片腕で、しかもアルマすら着けずに上回る。それを認められず、いや認めたくなかったのか男はさらに槍を持つ手に力を込めて槍を引き抜こうとした。しかし、それがいけなかった。


  「えっ?」


 ぼそりと相手の男が呟いたかと思うと、感じたのは一瞬の浮遊感。それが自身の体が浮いたとは一瞬知覚できなかった。相手の男がしたのは至って単純、ただ力を込めて槍を引っ張った。それにより男の体は槍に引っ張られて、少しばかり浮く。そして、男が最後に見たものは、黒い塊が高速で自身の顔に迫ってくる光景であった。そこまでで男の記憶は途切れた。


  この男が不幸だった点は二つある。それは、槍を手放さないために腕のアルマを強化した点だ。もし、普通程度の力しか持たないのならば、槍を取られるだけで済んだだろう。そこで踵を返して逃げればもしかしたら助かったかもしれない。

 もう一つの点は至って単純なことだ、……ただ男、谷中光一の事をよく知らずに挑んでしまった。ただそれだけだ。





 

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