第八十一話
決戦の日となった今日、光一はいつもよりかなり早く眼が覚めた。枕元に置いてあった安っぽい作りのデジタル時計を見ると、五とゼロが二つ緑の光で表されていた。いつもなら、もう一度暖かい布団に入って二度寝を貪る時刻。しかし、今日に限ってそんな気は光一に起こらなかった。
「……起きるか」
光一は、まだ少しもやがかかったように働きの鈍い頭を動かしながらベットから起きる。寝間着を脱ぐと、クローゼットから一着のジャージの上下を取り出して着る。そして、光一は二階から一階へ降りると、冷蔵庫からオレンジのジュースを取り出して飲む。ジュースの甘さとオレンジの酸味で、ようやくはっきりしてきた思考のまま光一は外へ出る。普段は、休日ぐらいでしかすることのない朝のランニング。しかし、今日ばかりは体を動かしたい。そう思い行動に移した。
「(こんな変な時間に目覚めるなんて、俺も緊張してるのかね)」
暫く走り、人気の無い近場の川の土手へと着いた光一は、足を止めてそう考える。そんな事を考えながら、うっすらと額に浮かんだ汗を首にかけたタオルで拭く。普段のランニングであれば、帰りも走るのだが、光一はなんとなく歩きながら帰ることにした。そして、家まで半分の距離まで歩いたころ、光一は後ろに突然表れた気配を感じとる。確実につい先程まで人は居なかった、しかし今は気配を感じる。そんな不思議な現象に直面しながらも、光一は特に動揺しない。何故なら、
「珍しいね、光一が平日にランニングするなんて」
「たまたま早く起きただけだ」
その気配は自身の命の恩人。いや、恩神のものであったからだ。光一は、リースとともに二人横並びで歩きながら帰路を行く。
「ねえ、光一」
「なんだ? リース」
光一が、自宅のドアに手をかけたその時、リースが光一を呼び止める。光一は、完全に振り返りはせず、その場で半身になってリースの方を向くとそう返す。
「光一は、今日の闘いであの主人公に勝てると思う?」
リースの言った言葉。それは光一が今考えていたことと一致していた。ただ、少しだけ心配そうに言うリースを見て、光一の中で少し変わったことがある。
「俺はあの大人数のテロリスト達を全滅させた男だぞ、そんな俺があんな一介の男ごときに負けたりするかよ」
「ふふっ……そうだったね、心配なんて無用だったみたいだね。じゃあ、帰りの知らせは期待していいのかな?」
「ああ、きっちりと勝ってきてやるよ。それで文句なくこの依頼をクリアしてやるよ」
そう光一が言い切ると、リースの顔に先程の心配そうな表情はなく、安心したような表情となっていた。
「(あーあ、俺らしくもないな。あんな弱気なこと考えるなんて……元々望みが薄いのは分かってる。だからこそ心は強くもたないとな、最初から勝ち気が無かったら勝てる闘いも勝てん。ま、負けるつもりは毛頭ないけどな)」
汗を流すために入ったバスルームで、光一はそう決意を固める。そして、バスルームから出ると、キッチンの方から良い匂いが漂ってくる。それにつられたキッチンへと出ると、
「あ、光一。グッドタイミングだね、今朝ごはんできたよ」
「朝からしっかり取れるのはありがたいな。ありがとう、リース」
「お礼なら、主人公に勝ったニュースを添えてくれるともっと嬉しいかな」
「ああ、任せときな」
リースが朝食を作り終えたところであった。二人は、そんな会話をしながら、食事の用意をする。そして食べ終わると、光一は学校へ行くための用意を終えて、玄関へと向かう。その時、
「あ、光一。ちょっとまって」
「ん? なんだ?」
玄関の扉に手をかけようとした時。リースにそう呼び止められ、光一は振り返ったが、リースは何故かキッチンの方へと行ってしまう。光一が不思議に思っていると、
「はい、これ。神様の贈り物ってね」
「これは、弁当か、いつのまに作ったんだ? そんな暇なかったと思うが」
「光一がランニングに出ていた間さ、下ごしらえは終わってたから、さっきの時間で仕上げをして完成ってね」
リースが布に包まれた四角い箱を持ってくる。光一は、最初は何か分からなかったが、直ぐにそれが弁当であることに気づく。光一はそれを鞄へと大事にしまうと、改めてドアノブに手をかける。
「いってらっしゃい、光一」
「ああ、いってくるよ。リース」
そして、いつもの返すものが誰もいない挨拶ではなく、明確に返してくれる人のいる挨拶を受けて、光一は玄関の扉をくぐる。
すみません、前回クラス対抗戦をやるといったのですが今回ではいけませんでした
次回から本当にクラス対抗戦が始まりますので、どうぞよろしくお願いいたします
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