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第七十九話

  「(さて、いったいどうするべきか)」


 光一はそう考えながら、準備運動を始めた笹山を見る。正直なところ、闘いたくはない。実際、笹山は強い。その上、下手に手を抜けばあっさりと看破されるだろう。

 確かに、ただ倒すだけなら光一にもできるかもしれない。しかし、気付かれないように手を抜く。そういった技術や経験からくる差は"自身操作"でもどうしようもない。光一は元々一般人であり、神様からの贈り物のお蔭でここまでの戦闘能力を有しているに過ぎないのだから。


  「(まあ、ショップに行く前に引き止められたら危なかったな)」

  「あのー、笹山先生。実は、今アルマを持ってないんですよ。だから闘いはまた今度に……」


 光一は、もしカスタムショップでアルマを預けていなかったら、断れなかったかもな。そう思いながら、笹山との闘いを回避しようとした。が、


  「ん? ああ、そういえば言ってなかったな。今回はお互いこれだけを付けて闘うぞ。流石にアルマの差がどうのとかは言われたくないからな」


 そう言って、笹山は光一にあるデータを飛ばす。光一が襟章に触れ、そのデータを回覧すると、


  「これは、トレーニングアルマ?」

  「それなら純粋な技能の勝負になるだろ?」


 そこに書かれていたのは、"トレーニングアルマ"の文字。その文字を見た光一は、それについて書かれていた教科書のページを思い出す。自身操作により思い出された教科書のページに書かれた内容は、このアルマはサブアルマの一つである。そして付けるのは腕だが、効果範囲は全身に及ぶ。さらに同調(シンクロ)率がゼロパーセントでも装着(インスタリアム)可能。最後に、このアルマ自体に攻撃力や防御力などはない。ただ、同調(シンクロ)率に比例して自身の身体能力を上げるのみである。

 目の前のトレーニングアルマに対する情報を、一瞬で引き出しながら光一は目の前の笹山を見る。笹山は既に装着(インスタリアム)を終えており、光一が用意をするのを待っている。


  「(なるほど、これなら頼れるのは自身の同調(シンクロ)率と武術的な知識のみ。……葉波先生が俺の同調(シンクロ)率を漏らしたのか? まあ、どっちにしろやるしかないみたいだな)」

  「……装着(インスタリアム)


  「ようやくやる気になったか。そうだな、こんなことに付き合わせたんだ。もし、私に勝ったらそのトレーニングアルマをお前のものにしてもいいぞ」


  「随分太っ腹ですね。そんなことして良いんですか、ばれると不味そうですが」


 光一は、そう皮肉めかして言う。もし、一人の生徒に無料でアルマを上げるなど、監督教師としてばれたらまずいだろう。しかも、トレーニングアルマはCクラス以上のショップでしか売られていない商品。それらを踏まえて、光一は皮肉めかしていったのだが、


  「別に構わないさ、だって…………負ける気は毛頭無いからな」

  「!? ッ!」


 そう言い終えた瞬間。笹山は、まるで一瞬消えたかのようなほどの踏み込みで光一に接近。その勢いのまま、光一に蹴りを放つ。

 光一はいきなりで、面を食らったせいで反応が一瞬遅れる。それでも辛うじて防御しながら、後ろに跳んで衝撃を緩める。


  「(最初は様子見をしてくるかと思ったんだけどな)」


 距離をとりながら、光一は追撃のために突撃してくる笹山を見ながら思考を回す。


  「(こいつ、全く温存とか考えてない。最初から全力できてやがる)」


 とりあえずは、集中(コンストレイション)同調(シンクロ)率を七割ほどまで引き上げながら、笹山の連撃を捌き、受ける。光一も、攻撃後の隙を付いて攻撃するが、笹山もあっさりとそれをいなす。

 そうして、しばらく近距離で闘いながら互いに全く攻撃が当たらない、膠着状態が続いた。


  「(やはり強いな。いまでもFクラスにいるのが不思議に思えるよ。だから、もう少し全力を出させてもらおう!)」


 笹山は、内心喜んでいた。笹山は才能があった、それこそアルマを使う軍からスカウトされるほどに。同調(シンクロ)率八十台と常人では考えられない値を出したせいで、最近は闘って楽しい相手がいなかった。同調(シンクロ)率は、上がれば上がるほどその部位の能力が上がる。しかし、同調(シンクロ)率は上げれば上げるほど、単純な比例ではなく"Y=X^2"の二次関数的に難易度と能力の上昇率が上がる。それを八十台まであげられるのだ、そう簡単にかなう相手ではない。

 たから、自分と同等かそれ以上の相手と闘う機会がほぼなかった。しかし、今目の前にいる光一は、それを超える同調(シンクロ)率を叩き出す。自身と同等かそれ以上の相手。笹山は、生徒と教師ではなく、純粋に今の闘いを楽しんでいた。


  「(同調(シンクロ)率、最大!)」

  「ぐっ!」


 笹山は、最大同調(シンクロ)率で劣るのを知った上で、短期決戦を挑んだ。だからこそ、今自身の出せる最大の同調(シンクロ)率を出し、一気に責める。

 光一は急に重くなった打撃に、一瞬顔を歪ませたが、直ぐに同調(シンクロ)率を上げて対処する。


  「(速いな、しかも武術の経験があるのか、攻撃が鋭い。仕方ない、こっちも少し手札を切るか)」

  「魔力強化、部位"視覚"」


 光一は、さらに速くそして鋭いなった攻撃に対処するために、魔力強化で目を強化する。元々集中(コンストレイション)により、強化された感覚に強化を重ねたお蔭で、常人には見ることすら難しい笹山の攻撃を余裕を持って捌く。

 そして、また笹山の連撃を光一が捌く膠着状態が続いていた。が、


  「(ああ、やっぱり同調(シンクロ)率じゃ敵わないな。……光一、お前になら今出せる私の切り札を切ってもいいかもな)」


 そう笹山は考える。そして、攻撃を急に止めると、バックステップで大きく距離を取る。


  「(なんだ? ……力、いや"気"が表に出て来てるのか?)」


 目の強化により、多少魔力や気が見える状態である光一は、笹山の体から普段は体の内を巡っている気が体の表面に出てくる。という異常を目の当たりにする。


  「さて、ここまでやらせたんだ。耐えてくれよ!」

  「(不味い! 同調(シンクロ)率、九十パーセント!)」


 今までより数段速く、笹山は今度こそ消えたようなスピードで光一に突撃する。光一は、同調(シンクロ)率をさらに引き上げた。しかし、


  「(これだけの同調(シンクロ)率の差があって、腕が痺れるか)」


 それでも光一の腕にダメージは残っていた。


  「(いける、ダメージは通っている!)」


 それを看破した笹山は、さらに連撃を加える。光一はその高速の連撃を辛うじて防ぐ。今までのどの攻撃よりも重いそれは、


  「(確かに、笹山先生は強いな。恐らく仮に普通の奴が同調(シンクロ)率で上回れていても、武術的な経験で負ける。仮に経験で勝ってもこの"気"による強化で負ける。か)」


 光一の想像通り、この学園でも笹山はかなりの実力者である。並の人間ならあっさりと本気すら引き出せずに負けるだろう。お互いにしっかりとしたアルマで闘えばもっと違った結末もあっただろう。しかし、


  「(残念だな。このトレーニングアルマ、俺と相性が良すぎる)」 

  「過剰(オーバー)集中(コンストレイション)!」


 普通、魔力によって強化された思考に光一の体はついてけていない。魔力強化や火事場(オーバー)馬鹿力(ドライブ)は時間に制限があり、それら単体ではまだ遅い。

 しかし、光一の高水準の同調(シンクロ)率と、このトレーニングアルマの同調(シンクロ)率によって身体能力を上げる性質は、光一の思考速度と相性が良すぎた。

 高速思考によって引き伸ばされた体感時間と、それに見合った身体能力。それらが噛み合わさった結果。


  「(? なんだ? この圧倒的な圧力は……しまっ!)」


 光一は、笹山の高速攻撃のをあっさりと弾く。それにより笹山の体制は大きく崩れる。笹山は後ろに飛んで距離を取ろうとしたが、


  「(なんだ? この反応速度は……)」


 それよりも速く、光一は笹山の腕を掴み、バックステップを停止させる。そして、そのまま地面へと叩きつける。これにより笹山の意識は暗い世界へと落ちていった。


 







 




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