第七十五話
遅くなって本当にすみません
最近筆の進みが悪くなってしまいました
目の前で宙に浮かび、こちらを見ている二人を見て天河は、
「なあ、あのバリアみたいなのはいくつまで張れるんだ」
「同時に張れるのは二枚までですね。でも、半径二十メートルぐらいまでなら好きな場所に出せますよ」
隣のアリエノールに小声でそう話す。天河と国崎は、アリエノールのスキルを確認する。そして一歩前へ進むと、空中に浮かぶ二人の男子生徒に、
「どうしたの、早くかかってきたらどう?」
「上からしか攻撃することしかできない臆病者には、難しいかな?」
国崎は剣を、天河は拳を向けてそう言い放つ。それに対して二人の男子生徒の内、黄緑がかった色の髪色を持つ、風気連は、
「……よっぽど早にリタイアしたいみてぇだな。いくぞ、氷!」
そう隣の青みがかった頭髪の、風間氷に言う。
「了解!」
そう短く返事をすると、手を天河達に向ける。すると、風間の回りに氷の塊がいくつも現れる。そして、拳ほどの大きさの氷の塊が何個も天河達に向かって射出される。
「展開」
アリエノールは箱状のバリアでその攻撃を防ぎ、天河と国崎はその場から猛スピードで離れながら、風間達の近くまで走る。
「ほらほらどうした! そんな下にいたら攻撃当てられねぇぞ!」
風間達は宙に浮く自身の下で、必死になって風の刃と氷の塊による攻撃を凌ぎ続けている二人を見て、そう煽る。それを受けてながら、二人は機会をうかがっていた。そして、ほんの一瞬。風間が氷の塊を新たに生成する際に、少しだけ生まれる攻撃の頻度が少なくなる隙を風間達が見せると、
「今だ! 凛!」
天河はそう言い国崎の方を向いて、両手をバレーのレシーブをするように合わせて片膝をつく。そして、そこ向かって凛が走る。そして、
「なにっ!?」
「空はあんた達だけのものじゃないのよ」
天河は自身の手に乗った国崎を、腕を思い切り振り上げることによって打ち上げる。それにより、自分達と同じ高さまできた国崎に驚く。国崎は驚き動きが止まっているのも容赦なく、剣を振り抜く。しかし、
「させるかぁ!」
「氷!」
正に風気に剣を振り抜こうとしたその時。二人の間に風間が割り込む。風間は剣を受けた衝撃で、胴体と片腕のアルマが全壊する。風気は国崎に暴風を浴びせ、地面へと送り返すと、風間を受け止める。
「だ、大丈夫だ。まだ……やれる」
語気は弱々しいが、そう言いながら強く天河達を睨み付ける風間。すると、風間がさらにこんな事を言う。
「連、あれをやるぞ。少し辛いかもしれないけど、確実に勝つにはあれしかない」
「あれか……分かった。やろう」
そう言って二人は天河達に向き直る。すると、二人を浮かせていた風が、だんだんと強くなり、最後には遠くからでも視認できるほどの土煙を巻き上げながら、竜巻となる。そして、
「「くらえ!! 氷の暴風嵐!!」」
最終的に風の刃と氷の塊を凄まじいスピードで打ちながら、進む竜巻となる。
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「……大丈夫か、風気」
「ああ、むしろ氷の方がダメージは大きいだろ」
そう気丈に返す風気であったが、
「(連、やっぱ無理してるな。そりゃそうだ、元々二人を浮かせるので精一杯だってのに、こんな攻撃。だからこそ、これで決める!)」
元々、風気のスキルは風を操る。ただそれしか出来なかった、普段は風の刃による戦いをするのが精一杯であり、人を二人も持ち上げるのはかなりの負担となる。しかも今回は、これほどまでの大規模な竜巻に、風気と風間を浮かせている。
風気の額には玉のような汗が浮かび、息も荒い。だからこそ、風間は自身の傷も顧みず氷弾の連射速度を上げる。
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「くっ、あんな奥の手を隠してやがったのか」
「どうする? 智也」
「簡単さ、真っ正面から打ち破る。それだけだ」
「あんたらしいわね」
「あいにくさま、俺のスキルは身体能力が上がるだけなんでね」
そう会話しながらも、二人は迫り来る風の刃と氷の塊を避け続ける。そして二人が一度離れ、再び近づくその時、二人は更に加速する。下手をすれば、ぶつかってしまうような程の速度で二人は交差したかと思えば、
「行って、来なさい!」
二人が手を繋いだかと思えば、国崎は自身を中心に一回転。そのまま天河を竜巻の中心へと投げる。二人分の加速を乗せた天河は、竜巻の中心に向かって一直線に進む。途中の氷の塊は拳で砕き、風の刃は耐える。それによりついに、
「やっと対等だな」
風間と風気の二人と相対する。天河は拳を振りかぶり、放とうとしたが、
「残念、あんたらに出来るのは跳ぶだけ、飛べるわけじゃない」
風気がさらに力を振り絞り、自身らを上へと押し上げる。それにより天河の拳は空振りし、空を飛ぶ手段がない天河は落ちていく。…………はずだったが、
「そうだな、じゃあ。もう一回跳ばせてもらうぜ」
「展開!」
「なっ!」
アリエノールが生成した四角型のバリア。それが生成されたのは、天河の足元。それを足場にして天河は足に力を込める。
「これに、二人の思いを乗せる!」
そう強く願ったその瞬間。天河の足のアルマが勇気の欠片の金色のアルマに変わる。それによりさらに上昇した跳躍力で、天河は跳ぶ。風気らよりも高く。
「もう、上には逃げられねぇぞ」
「ま、まだだ! まだ、負けてない! いくぞ、氷!」
風気達よりも上からそう宣言する天河だったが、風気達はまだ諦めていなかった。
「「暴風氷壁!!」」
風と巨大な氷の塊による障壁。それを目の前に出現させられた天河は、空中に新しく作られたバリア型の足場で、足に力を最大限に込めると、足場のバリアが壊れるほどの勢いで、一気に飛び出す。そして、風の障壁を飛び出した勢いで突破し、拳を思い切り氷の塊の壁に向かって振り下ろす。
その一撃で氷の塊は粉々に砕け、天河はその勢いのまま風気を掴むと、地面に向かって衝突する。それにより、風気は気絶し、暴風は止む。天河は風気のハチマキを取ると、後ろを振り向き、
「で、まだやるのか」
後ろに立つ風間にそう言う。それに対して風間は、自身のハチマキに手をかけると、
「いや、ギブアップだ。俺は連を保健室に連れていくよ」
ハチマキを天河に渡し、気絶した風気を背負って森の外へと向かって歩きだす。
「……勝ったな」
天河は、小さくなっていく二人の背中を見て、そう呟くと二人の反対方向。自身の仲間の方へと向き直って歩きだす。