第六十八話
「ちっ、所詮Fクラスと思ってたが、思ったより厄介なスキルを持ってやがるな」
光一は、舌打ちをすると、飛んでくる砲弾から離れるために跳躍する。はた目から見れば、ただの砲弾を避けるにしては跳びすぎだと思うほど飛び退くと、次の瞬間。地面に落ちた砲弾を中心に爆発が起こる。
「なんの、この程度で俺はやられん!」
「くそっ、そのスキル便利だな。よこせ」
その数メートルほど隣では、斉藤謙二が大声を上げながら飛んでくる砲弾を拳から放たれる光弾を使い、空中で相殺する。
光一は動きながら傍目でそう言い、それを聞いた謙二は、
「あいにくこの最強弾は先着一名のスキルでね、渡せるものじゃないんだな」
「なんだそのダサいスキル名。確か気弾じゃなかったのか?」
そう返す。光一は、謙二のセンスの感じられないスキル名の改竄に突っ込みを入れながら、飛んでくる砲弾を捌く。
「ダサいとはなんだ、ダサいとは。強そうな名前じゃないか」
「いくらなんでも安直すぎるだろ、中学生でももう少し捻るぞ」
ここで、二人が言い合いをしながら砲弾を捌くのをもっと引いた目線で見てみると、光一と謙二の後方にもう一人の人物がいた。その人物は、二人の言い争いを軽く流しながら数歩前に出る。
「はいはい、言い争いはそこまでにしときなよ。はい、再使用時間来たから付加かけるわよ。何がいい?」
「じゃあ俺は攻撃で」
「俺は敏捷を頼む」
二人の後ろから出てきた女生徒、山崎詞乃は、二人から要望を聞くと手を二人の方に向ける。
「付加、攻撃&敏捷」
そう詞乃が唱えると、謙二の腕に淡く赤い光が纏われ、光一の足に同じく淡い緑光が纏わりつく。
「そんじゃま、反撃開始と行きますかね」
そして、三人は砲弾の飛んでくる方向を向いてそう呟く。
少し時は遡り、四十分ほど前。
「皆もう既に分かっているとは思うが、今から代表決定戦を行う」
アルマ学の授業で生徒達は森の演習場に集められた。そして笹山が生徒達の前でそう言うと、ゴクリと緊張からか生唾を飲み込む音が生徒達から聞こえる。それほど生徒達の顔は固くなり、笹山の説明を真剣に聞いていた。
「今回の決定戦の内容は………これだ」
そう言って笹山が取り出したのは、生徒達にとっては三度目の対面となる、あのハチマキであった。
「今回もお前達にはこのハチマキを着けてもらう。だが、今までと違う点が一つある」
笹山は人差し指を立てるジェスチャーを交えながら説明をし、生徒達は今までとの相違点があると言われ、少しざわめく。そして、
「それは、今回はハチマキが外れた時点で失格とする。そして最終的に残った二人が代表だ」
その言葉を聞いて、ざわめきが止まる。"ハチマキが外れた時点で失格"今まではたとえハチマキを取られても、失格にはならず時間いっぱいまで活動できたが、今回は違う。その厳しいルールに不安を感じつつも、生徒達はその後の笹山の指示で森に散らばり、開始の合図を待っていた。
『これより、Fクラス代表決定戦を開始します』
スピーカーから流れる笹山の声を合図に生徒達は一斉に行動を開始する。序盤は隠れて時間を潰すために隠れ場所を探すもの、積極的に動くもの。様々な動きを生徒達は見せていた。
その中で光一はというと、そうそうに集中を使い周囲を警戒ながら森のなかを歩いていた。
光一は、他のクラスメイトからすれば、アルマを片腕しか装着していない格好の的である。勿論それを狙はない通りはなく、
「そのハチマキ貰ったぁ!」
今まさに、光一の後ろからナイフ型のサブアルマを構えた男が光一を襲う。が、
「なっ、!?」
光一はナイフが降り下ろされる寸前に振り返り、右足でハイキックを男の手首めがけて繰り出す。ナイフを狙ったのでは、下手を打てば足を傷つけられる可能性があるが、(実のところ、男と光一の実力差ならほぼないが)手首ならその心配もなく、さらにナイフを手放させることで相手の無力化も同時に行える。
光一は右のハイキックを繰り出した後、すぐさま左のフックを男の顔めがけて放つ。男は来る衝撃に目を瞑ったが、衝撃はこない。
不思議に思って目を開けると、そこには地面に落とされた自身のハチマキがあるだけで、光一は既にその場を悠々と去っていくところであった。
男はあの額を撫でるような紙一重のコントロールをされたフックでハチマキを奪われていたのだ。
男はスピーカーから流れる自身の名前と失格の言葉を聞きながら、がっくりと肩を落として森を出るのであった。
ーーーーーーーーーーー
山崎詞乃は茂みに身を隠していた。開始の合図と共に隠れやすそうな茂みを見つけ、身を潜めていたのだ。
「(私のスキルじゃ、戦闘には向いてない。だったらギリギリまで隠れて奇襲をするしかない)」
そう考えていた矢先、爆発音と共にズシンと地面が揺れる。驚いた詞乃が音のした方を見ると、
「あれは、谷貝恭二だっけ? あいつあんなアルマ持ってたんだ」
目線の先にいたのは名目上Fクラストップの谷貝であった。谷貝はスモールキャノンのアルマを携え、一人の生徒を倒したようであった。
詞乃が、もっとよく見ようと体を動かしたいその時。
「っ!?」
「!? そこに誰かいるのか」
ペキリと枝を踏み折って音を出してしまう。しかも運悪く谷貝にそれを聞かれたらしく、スモールキャノンの砲身を詞乃いる辺りに向けてそう言い放つ。
「………」
「いいだろう。出てこないなら、こうするまでだ」
谷貝はそう言うと、スモールキャノンの砲弾を発射する。
「(この軌道。直撃する!)」
運悪く砲弾の軌道上にいた詞乃は、自身の持つ盾に防御の付与をかけてその砲弾を防ぐ。しかし、
「(! 駄目。なにか嫌な予感が…)」
弾を弾いた刹那。そう詞乃の感覚が告げるが体は動かない。妙にゆっくりとなった視界の中、砲弾が爆発するように膨れたと思った瞬間。
「よっと」
「必殺! 最強弾!」
詞乃は後ろから勢いよく誰かに引っ張られ、砲弾から遠ざかり、それと同時に砲弾にどこからともなく飛んできた光の弾が直撃し、砲弾を遠ざける。
「あれ、謙二じゃないか。奇遇だな」
「おっ、光一か。相変わらず凄い反応速度だな」
詞乃が何が起きたのよく理解できず、混乱しているなか、詞乃を助けた二人の男はそんな会話をしていた。
その会話で人物を特定出来たのか詞乃が振り返ると、
「やっぱり、あんた達か。助かったわ、ありがとう」
「おう、怪我なくて良かったな」
「何となく助けちまったけど、この惨状はあいつが原因か?」
お礼を言う詞乃に、そう訪ねた光一に対して詞乃は、
「ええ、あの谷貝のスキルのせい見たいね。単純だけど威力は結構高いわよ」
「うーむ。そうだなぁ、ならいっそ少しの間共同戦線でも組むか」
「おっ、それいいな。その案乗ったぜ」
どんどん話が進み、いつの間にかこの光一、詞乃、謙二の三人で共同戦線を組むことが決定し、光一達は谷貝の方を向く。
「それじゃ、いっちょやりますか」
謙二が、そう言うと同時に拳から光弾を射つ。それが闘いの合図となった。
こうして、冒頭のシーンへと続く。