第六十七話
ある場所にランニングウェア姿の男が一人走っていた。その男が居る場所は自身の家の近所にあった川の土手であった。
今の時刻は夜の八時頃。こんな時刻にこんな場所で居た男は、ふと走るのを止める。立ち止まったことで今までの疲れが吹き出すように出てきた汗が顔を濡らす。男は首からかけていたタオルで汗を吹きながら呟く。
「あー、わっかんねぇな」
ため息と共に出た、その少し弱気な呟きをした男は、暫く何かを考えるように虚空を見つめていたが、
「(一体どうすゃいいんだ? あの学年最下位のレッテルを貼られている光一だって合同授業で根性見せたんだ、俺だって何もしてない訳じゃない)」
男こと齋藤謙二は、そんな暗い思考に一瞬囚われる。しかし、一度うつむくように地面を見たかと思うと、次の瞬間夜空を見上げる。
「ふっ、俺らしくもないな、あんなこと考えるなんて。うっし、気合い入れるためにもう十本ダッシュだ!」
そう力強く宣言すると、夜空をバックに謙二は力強く走り出す。その顔は先ほどまでの暗い顔ではなかった。
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ある場所で運動着姿の女が一人居た。その場所は、アルマトゥーラ学園の敷地内にある、訓練所の一つであり、女は手に棒を一本持った姿勢で目を閉じて精神集中をしていた。
「ふぅ、こんなところかしらね」
そう息を吐くように言い、女は目を開ける。女が持っていた棒はうっすらと発光しており、アルマの知識がある者なら、その棒に何らかの強化付加がかけられていると分かる外見をしていた。
女こと山崎詞乃は、ちらりと時計を見て時間を確認する。
「(五分か、少し時間が延びたけど、もう少し付加の時間を伸ばしたいな)」
既に時計の短針と長針は七時を指していたが、それでも山崎はこの訓練所の閉館時間ギリギリまで、自身のスキルを磨くための特訓をしていた。
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それぞれが多様な思いを胸に秘めた代表決定戦。その時刻は刻々と迫ってきており、
「えー、今日は皆さんお気づきの通り」
教室内の生徒達の顔には緊張の色が浮かぶなか、教師が連絡を続ける。
「ーークラス代表格決定戦があります」
遂にその時となった。