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六十三話

  「さて、街まで来たのはいいけど、何処に行くんだ?」

  「うーん、どうしよっか。……そういえばさ、私達はあんまりこの辺に詳しくないし、適当にぶらつくなんてどうかな」

  「それいいな。じゃ、そうと決まれば行くか」

  「よーし。レッツ、ゴー」


 光一とリースはこれからの行き先について話すと、適当にぶらつくという行き当たりばったりな計画に決定する。そして、元々人間界に興味のあったリースは、期待からか移動中もいつもりよりテンションが高かった。


  


  「ねえねえ光一、ここは何かな。」

  「水族館だな、気になるなら入ってみるか?」

  「うん!」


 道中見つけた水族館にリースが興味を示したので、光一とリースはその水族館に入館する。入り口でチケットを買い、中に入るとそこはざっと見ただけではいたって普通の水族館であるが、細かなところに目を向けると光一のいた世界とは異なる点がいくつかあった。


  「おー、ここが水族館か。話には聞いていたけど、本当に魚がいっぱいいるんだね」

  「まあ、俺もこの世界の水族館は始めてなんだけどな」

  「そういえばそうだったね。だったらもっと見て回ろうよ、私ももっと色々見てみたいしね」


 リースが初めて見る水族館の様子に興奮しながら奥に入っていき、後ろを歩いていた光一を手招きする。光一はその様子を見て、リースを追いかけながら横目で水族館内を見ると、普通の魚の生態系などを紹介する展示パネルかと思えば、光のディスプレイが飛び出す近未来的な物であるなどのところも見受けられる。

 中でも近未来的なものとしては、


  「ねぇ、光一。あれ見ていこうよ」

  「あれは大形水槽か。そうだな、見ていこうか」


 リースが指差したのは、館内にある広場と大形水槽が一体となったような場所で、そこには何人かの人だかりができていた。その水槽を見ると大量の小魚の群れや大形の魚などが展示されていた。しかし光一は、それらの魚よりも水槽の表面に目を奪われていた。


  『こちらは、ジンベイザメとなっております。ジンベイザメは学名をwhaleshake(直訳で鯨鮫)といい、まるで鯨のような迫力のある外見が特徴となっております』


  「へー、凄い大きいいんだね」

  「ああ、世界最長の魚類だからな」


 光一はリースの感想に一応答えるが、それの目線は大形水槽の画面に写し出された解説役のキャラクターにいっていた。そのキャラクターは水槽の画面を自由に動き回りながら様々な魚の説明をし、時には画面から飛び出し、立体映像となって説明をすることもある。光一はそのもとの世界ではあり得ない技術力に驚いていた。

 光一がその技術に驚いていると、隣から軽く袖を引っ張られる。隣を見ると、リースが次の場所に行こうと提案したので光一達は移動を開始したのであった。





  「いやー、楽しかったね」

  「そうだな、水族館なんて久しぶりだったが楽しかったな」


 水族館をある程度見て回り、今光一達は中庭にあたる場所に出ていた。そこは中庭兼フードコートのようになっており、様々な出店が出ており、そこらから良い匂いや出店で買ったものを食べながら歩く人々の姿が見える。すると、ちらりとリースの視線が目の前を通った女性たちの持つクレープにいったことに光一は気づく。それを見て光一は、


  「なあ、クレープでも食べるか? ちょうどあそこに出店も在るみたいだしさ」

  「クレープ! 私、初めて食べるよ。でも、いいのかい?」

  「別に構わないさ、むしろクレープ一つでそこまで喜んでくれるなら喜んで買うよ」

  「ありがとうね、光一。それじゃあどれにしようかな」


 期待に満ちた表情でクレープを選ぶリースを傍目に見ながら光一は、


  「(こうして見ると、本当に普通の女の子みたいだよなぁ。実際可愛さなら女神かもしれないけれど、もし何も知らずにリースの事を"神様です"って言われたら信じられないんだろうな)」


 そんな事を考えていた。すると、何やらリースが悩んでいるようなので声をかける。


  「どうしたんだ? そんなに頭抱えて」

  「いや、この"チョコクレープ"にするか"イチゴクレープ"にするかを迷っていてね。……ああ、どっちも美味しそうだ」


  どうやらクレープの種類で迷っているようで、光一は思わず"神様もそんな事で頭を抱えるのか"と微笑む。光一はそれを見ると、


  「なら、俺はチョコクレープにするかな」

  「え……あ! だったら私はイチゴクレープだね」


 リースは光一の言ったことの意図が一瞬理解できなかったが、直ぐに理解すると注文を決める。そして、二人は互いのクレープを注文しようとすると、


  「イチゴクレープとチョコクレープ下さい」

  「あいよ。なんだ、随分可愛い子を捕まえたな、お前さん。彼女さん彼氏と仲良くしなよ。……ほれ、クレープ二つ。彼女さんが可愛いから少しサービスしといたよ」

  「おだてが上手いね、店主さん」

  「冗談はよして下さいよ、店主さん」

  「なんだ、彼女じゃないのか。まあ、こんな可愛い子ちゃんお前さんみたいな普通そうな男には少し高値の花かね」

  「ええ、それでは。サービスありがとうごさいました」


 ねじりハチマキを着けたクレープ屋の店員にクレープを注文すると、同時に冷やかしを受ける。その冷やかしを受けて顔を赤くするリースに、軽く流す光一と二通りの反応を見せたあと。二人は近場のベンチに腰を下ろす。

 するとリースが少し落ち込んだようにため息をつく。


  「どうしたんだ? リース。そんなため息なんてついて」

  「ねえ、光一」

  「なんだ? リース」


 ため息について聞くとリースは光一の方を向き、尋ねる。


  「光一はさ、私みたいなのが彼女だったらどうするよ」


 その質問を聞いて、光一はむせかえりながら答える。


  「か、彼女!? ……彼女かぁ、俺なんかと女神様じゃ到底釣り合わなそうたが、やっぱ嬉しいんじゃないか。俺はその辺の経験が薄くてよく分からないけど」

  

 その言葉を聞いてリースは今までの少し落ち込んだ、悲しそうな表情は消え、いつもの余裕ような笑みへと変わる。


  「……ありがと、光一」

  「? なんか言ったか」

  「ううん、なんでもない。さっ、早く食べよう」


 リースは小さく呟くと、光一に追及されたがなんでもないと打ち消してクレープに口をつける。そのクレープに口元は隠されてあまりよくは見えないが、その口元はいつもより少し弛んでいた。








  時刻は夕方、赤くなっていく空をバックに二人は最初の待ち合わせ場所に戻って来ていた。


  「じゃあ、今日の遊びはこれまでかな。私ももうそろそろ時間だし」

  「そうだな、もう時間も遅いし今日はこれでお開きだな」

  「またね。光一」

  「ああ、また明日。リース」


 二人はそう言ってお互い反対方向へと歩いていた行く。光一はふとリースのいた方を振り返ったが、そこには既にリースはいない。


  「代表決定戦も頑張りますか」


 光一は今日見たリースの笑顔を思いだしながらそう呟くのであった。 





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