第六十二話 からかい上手の女神様
「ねえ、光一。明日は休みだし、何処かに出掛けない?」
光一がその日学校から帰ると、リースが夕飯を作って待っていてくれていた。なので、二人で夕飯を食べている時にそうリースが提案する。
「そうだな、じゃあ明日は八時にここを出ようか」
「うーん、それもいいんだけどさ」
「? なんだ」
光一が明日の出発の予定を話すと、リースは少し考えるように唸る。光一はそんなリースを不思議に思っていると、リースが口を開く。
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「確か、ここで待ち合わせだったよな。……よし、時間も過ぎてない」
次の日、光一は七時三十分を指す駅にある時計の下で待ち合わせをしていた。光一は到着してから駅の時計を見上げ、まだ約束した時刻の三十分前であることを確認すると、手持ちぶさたになったのか辺りを見回す。
何故光一がここで待ち合わせの約束を取り付けているのかというと。
(普通に家から出発したらいいんじゃないかな。……その辺の感覚はよく分からんな)
昨夜、リースと外出の予定を話していると、このようなことを言ったからである。
「明日は待ち合わせにしない?」
"待ち合わせにしない?"その一声により、今日の外出の最初の予定は待ち合わせとなったのである。
光一は"何故お互いに会えるのに待ち合わせをするのだろう"と思ったが、その辺の女心的な感覚はよく理解が出来ないのでその提案を呑んだのであった。
(しかし、こうして女子。いや、女神か? と待ち合わせして出掛けるとかデートみたいだな……いかん意識すると緊張してきたぞ)
光一がそう思考を巡らしていると、今の状況を客観的に見た時の事を想像し動揺する。
(いや、落ち着くんだ俺。こういう状況の時はどうすればいいか過去の経験から見つけるんだ)
少しでも落ち着くために光一は、今までの人生経験からこの状況と似た状況を思いだし、落ち着く方法を思い出そうとするが、
(……駄目だ、そんな経験俺にはない)
そんな経験が無いことに気づく。
(そういえば、俺ってこういった経験が一度も無いんだよなぁ。智也は凛の買い物に付き合ったり、湊会長と出掛けてたりしてるみたいだけどな)
そう自身の恋愛系統の思いでのなさに少し遠い目をしながら黄昏ている。暫くすると暇になったのか、光一は携帯を取りだし電源を入れる。黒い二つ折り型のボディにキーホルダーが一つついた携帯を開き、画面を操作する。電話帳の項目を見れば、親族と思われる人物の名前以外の名は"リース"の一つしかない。
それを選択し、メール欄を開くと一つだけメールが保存されていた。それはこの携帯を買い、リースとメールアドレスを交換した時に確認のために送ったメール。"これからよろしくねっ"という女の子らしい返信メール。そのメールを見た頃、光一の耳に聞きなれた声が聞こえてくる。
「ごめん、待たせちゃったかな」
「いや、俺が勝手に早くきただけだし。リースは悪くないよ」
謝罪するリースにそう光一が話す。今の時刻は七時四十五分と約束の時刻より十五分早く、リースが遅れた訳ではない。ただ光一が緊張感から早く来すぎただけのことである。
「じゃあ、行こうか。……どうしたの? 光一」
揃ったことで、何処かに出掛けるために移動しようとしたリースであったが、何故か自身の方を見て立ち止まっていた光一を見てそう問いかける。
「ん? ただ、そのワンピース、似合ってるなと思ってな。じゃ、早く行くか」
その答えに、リースは立ち止まり、半歩振り向きながら
「ふふ、ありがと。……見とれた?」
口元に人差し指を当て、そう答える。
「……少しな」
光一は、顔がやや赤くなるのを、見栄をはって自身操作で抑えながらそう答える。
しかし、リースのまるでイタズラが成功したような顔を見るに、赤面をごまかしているのはバレバレのようであったが。