第五十八話
「ちくしょう! 壊れやがれ!」
「だから無駄だってのに、あんたはおとなしく連れがやられるのを見る事しか出来ないのよ」
傷一つ付かないのを分かっていながらも、天川は拳を三角包囲陣の壁に打ち付ける。その光景を見て、女達は自分らが有利になったことで余裕を取り戻したのか、先程までの危機迫った様子は無くなり、挑発的に天川に話しかける。
「フン、智也が居ないからっていきなり強気になったわね」
「そりゃあAクラスすら凌駕する不確定因子が居なくなれば、少し闘い慣れてるCクラス相手に三対一で遅れをとることは無いからな」
「じゃあ、その身で確かめるといいわ!」
その掛け声と共に国崎は三人の女の方へ駆ける。確かに国崎は家が武道を教えているだけあって闘い慣れてはいる。しかし、三対一に相手の方がアルマの質も上。そしてコンビネーションもよいとなれば国崎が勝てる道理は無かった。
「ふう、少しは歯応えがあったけれど、所詮Cクラスってわけよ」
「くっ、……(もっと私に力が有れば……)」
国崎は数分の闘いの後に三人の女に敗れ、今は蓄積されたダメージからか、立っていることが出来ず木にもたれ掛かるように地面に座り、その目の前には武器を構えた三人の女がいるといった状況であった。天川はその光景を見ることしか出来ず、歯噛みをしていたが、事態はなにも好転しない。
「さーて、さっさと気絶させてハチマキを奪うとするかな」
そう言いながら一人の女が国崎に向かって近づく。国崎はその光景を見て、
「(ああ、私って智也がいないとこんなに弱かったんだ……)」
そんなことを考えていた。その考えは走馬灯のように様々な光景を国崎の脳裏に映し出す。
今まで習っていた武術のこと、天川に出会ったこと、理由は覚えてないが小学生の頃ガキ大将と天川と共に喧嘩をしたこと。
色々な思い出がフラッシュバックするなか、女の手はゆっくりと国崎の頭へと延びてくる。それを見ながら国崎は、土を握り混むのも気にせず拳を握る。
「(もう守られてばかりは嫌だ! 智也の横に立って闘っていきたい! お願い! まだ出し切ってない力が有るなら私に力を貸して!)」
そう自身の願いを込めて強く願う、すると。
「な、なんだ!? この光は! め、目がぁッ!」
国崎の体が一瞬強く光る。その光に思わず女達は手で顔を覆う、そして光が収まり国崎の方を向くと。
「い、居ない!? 探せすのよ、まだそんなに遠くまで行ってはいないはずーー」
「私ならここに居るわよ」
「「!?」」
一人の女が国崎を探すために大声で叫んだかと思うと、その叫びは最後まで言うことはなく、その女は背後から聞こえてきた声に驚く暇すらなく気絶させられた。
二人の女は仲間を気絶させた人物を一瞬目にとらえた、しかしそれも一瞬のこと。次の瞬間には視界からその人物は消えていた。
「後ろよ、後ろ。そっちを探しても居ないわよ」
その女を見つけ出そうと二人の女は辺りを見回し、怪しい茂みなどにも目を通したが見つからない。すると後ろから声が聞こえてきた。その聞き覚えのある声に振り向くと。
「なんで……お前がそこに?」
「さっきまで此処にいたのに、それになんなの。その、"騎士のような鎧"は」
震えるような、何か信じられないようなものを見るような目で二人はその人物を見る。
その人物とは、
「これ? これは、私の新しい力。名前は、そうねぇ……音速の戦乙女 (ラディカルヴァルキュリー)なんてどうかしら」
兜の無い騎士のような鎧を纏い、手には一振りの剣を持った国崎凛の姿がそこにあった。
「フン、姿が変わったくらいでいい気にならないほうがいいわよ。二人相手に勝てるなんて、夢は見ないほうがいいんじゃないかしら」
一人の女が"ねえ?"と、同意を求めるように隣の女を見たその時。そこにあったのは、
「二対一? 一対一の間違いじゃないかしら?」
後ろに回り込まれ、国崎によって気絶させられた仲間の女の姿だった。
女はその光景に絶句していたが、自棄になったのか武器を大きく構えて国崎に向かっていく。勿論そんな攻撃を国崎は受ける訳がなく、一瞬二人が交差したかと思えば、女の方はあっさりと気絶した。