第五十七話
「こうなっちゃあんたも形無しだね、精々足掻くといいさ」
全身に紫色のアルマを纏った三人の女の内、一人が天川を見て言う。天川は光るピラミッド型の檻にとらえられていた。天川は三人の女に対して睨みつけることしか出来ず、歯噛みをした。
「智也を離せ! 正々堂々勝負しろ!」
「おいおい、これはこう言った勝負じゃないか。乱戦に不意打ちに騙し討ちもあり。それともあんたは本当の戦場とかでも"正々堂々勝負しろ"なんて言い分が通ると思ってるのかい?」
大声で宣言する国崎に、天川に話していた女と同じ人物が振り返りながらそう言い返す。国崎はその言い分に反論が出来ず口ごもってしまう。
今の状況は三人の女に天川が捕らわれ、それらに国崎が立ち向かっているといった構図である。何故こんなことになったかと言うと、それは数十分前に遡る。
遊撃を言い渡され、ハチマキの数を増やすために天川と国崎が森のなかを歩いていると、数十メートル先に人影が見えた。どうやらあちらも天川らに気づいているらしい動きをする。人影から見るに人数は三人と人数の利はあちらにあったが、お互いに気づいているこの状況では下手に逃げて背中を見せるより迎え撃った方がよい。
そう考えた天川は目線で国崎に伝え、二人で迎え撃つ姿勢をとる。あちらもその旨に気づいたのか、近づきすぎず離れすぎずの場所から、お互い自分達が有利となる位置を探るために膠着状態が続いていた。
暫くはそれが続いていたが、痺れを切らした相手が一気に突撃してくる。ナイフ型のサブアルマを構え、飛びかかってきた相手に対し、
「凛! 俺の後ろに」
その言葉に頷いた国崎は天川の後ろに回る。そして飛びかかってきた二人のナイフによる降り下ろしを、勇気の欠片 (ブレイブハート)により装着したアルマで受けることで防ぐ。
「馬鹿め、私が残っているぞ!」
ナイフが防がれていなかった最後の一人が、そう言いながら無防備になっていた天川の頭部を狙う。しかし、
「させると思う?」
それは横から国崎によって放たれた蹴りによって止められる。蹴られた人物は、なんとか体勢を立て直し地面に激闘するのは避ける。残りの二人もその一人の周りに集まり、一瞬の静寂が訪れる。
「いつも通りいくぞ」
一人の女がそう小さく言うと、残りの二人も頷き天川達に向かっていく。それにより闘いの火蓋は切って落とされた。
結論から言うと、闘いは天川達が優勢であった。ある時は国崎が素早い動きで相手を撹乱し、天川が重い一撃を放つ。または、天川が高い防御力を活かして相手の攻撃を受け、その隙に国崎が攻撃をする。と、この戦法に相手は苦しみ、三人の女は防戦一方であった。しかも、
「!? っと危ない、まさか武器を投げてくるとはね。 でも二回目からは流石に予測できるさ」
途中一人の女が手持ちのナイフを投げて天川を攻撃した際に、一度目はギリギリで防御したのものの、二回目は少し驚いただけで余裕を持って回避する。それにより女達の武器はナイフ一本となり俄然天川達が有利となる。
それにより女達はより一層攻撃が出来ず、回避を主にしていた。暫くして女達が一ヶ所に固まり、天川と国崎はそれから数メートル離れた位置で警戒の意味をこめて立ち止まり口を開く。
「あんたらは連携も上手いし確かに強かったよ、でも運が悪かったな。俺達はCクラスだけど、普通のBクラスレベルなら人数で勝られても勝てるんでね」
そう天川が話すと、唯一ナイフを持っていた女が言い返すように話し始める。
「確かにお前は強い、Bクラスの私たちでは手に負えないくらいにな。でも、手に負えないのは男の方だけだ!」
途中までは普通に話していた女がいきなり大声になり、ナイフを頭上に降り下ろすように掲げる。そして、
「……! 智也! 何嫌な予感がする、直ぐに其処から離れて!」
「もう遅い! お前は運が悪かったといったが、其処は立ち位置が悪いんだよ!」
「くらえ! 三角包囲陣!」
何かに気づいた国崎が天川に叫ぶがもう遅い。女がそう叫ぶと、先程弾かれたナイフが強く光だす。さらに女が同じく眩く発光し始めたナイフを地面に勢いよく降り下ろす。すると、
「な、なんだこれは!」
「これが私達のスキル、三角包囲陣よ。壊そうってのも無駄よ、それは私達が解除するまで絶対に解けない」
まるで透明なピラミッドの様なものに閉じ込められた天川は、拳をその壁に何度も打ち込むが、その壁はびくともしない。
これが冒頭のシーンの訳である。