第五十三話
「でも、本当に強いわよね。そのスキル」
天川達が歩いていると、凛が金色となっている天川の腕のアルマを指差しながら言う。天川は歩を止めず、自身のアルマに目線を向けながら話す。
「確かに感情によって左右される上に、腕しか装着できないとはいえ、今でもAクラス上位レベルのアルマに変化するなんて強いよな」
「あれ、たしか入学試験の時には全身に装着できてなかったっけ?」
天川のスキルは、この金色のアルマを強制的に装着させるといったものだ。そのアルマの性能は自身の感情に大きく左右される。通常時ならAクラスの上位レベルのアルマと同等の性能を発揮するほどの力を有する。だが、天川はこの金色のアルマを普段は両腕しか装着できない。
しかし、一度だけ全身に金色のアルマを装着出来たことがある。それが入学試験の時に凛が数人の男たちに囲まれ、それを必死に助けようとした時だ。その時を思い出すと天川は、
「うーん、多分だけど。俺のスキルは気持ちに左右されるされるんだろ」
「そうだね」
「だからあの時は凛を助けようと必死になったお陰で、感情が高ぶって全身に装着できたんじゃないないかな」
「え、それって……(私のことを助けようとして)」
凛が天川の説明を聞いて顔を赤くしているなか、凛の声が小さくなったことを不思議に思った天川が凛の方に目を向ける。
「? どうしたんだ、凛。そんなに顔赤くして」
「べ、別に!? 大したこと無いよ。さあ速く次の相手を探そう!」
「……どうしたんだ?」
天川は顔を赤くしながら、前を先導していた自身を追い越して行った凛にそう思いながらその後ろに着いていく。
天川達が散策をしている頃、一之瀬はというと。
「いたぞ! Aクラスの首席だ、あいつを倒せれば大金星だ!」
他のクラスの生徒達に見つかり囲まれていた、回りを囲む生徒の数は六、七人ほどであり。皆今にも飛びかかろうとしていたが、そんな中でも一之瀬は一つも動揺を見せない。
そんな状況で回りを一瞥した一之瀬が口を開く。
「やめておいたほうがいい、"君達じゃ僕には勝てないよ"」
その言葉が闘いの合図となった。生徒達は「学年一位だからって、なめてんじゃねぇぞ!」などの暴言を吐きながら一之瀬に四方八方から襲いかかる。一之瀬は軽く右足で地面を踏む動作をすると、
「鋭利な刃 (シャープエッジ)ver 剣の森」
「「「な!?」」」
そう言うと同時に一之瀬を中心に、数メートルの円形範囲の地面から無数の刃が生えてくる。その刃は今まさに一之瀬に襲いかかろうとした生徒達に刺さるギリギリで止められており、生徒達は冷や汗を流しながら、この状況を作り出した一之瀬の方を信じられないといった顔で見る。
「さて、今の僕は機嫌が好くてね。君達が今すぐハチマキを置いて個々から去っていくってなら止めはしないけど。どうする?」
そう言いながら一之瀬はスキルを解除する。すると生徒達は先程の威勢はどこにいったのか、無言のまま自身のハチマキをその場に置い一目散に逃げていった。
一之瀬は生徒達が置いていったハチマキを回収し終えると、上を見上げて、
「天川君だっけ、彼と闘うのが楽しみだよ」
そう呟く。その後一之瀬はまた森のなかを宛もなく歩き始めるのであった。