第四十八話
結果として各クラスの総ハチマキ数は、Fクラスが60本、Eクラスが34本、Dクラスが26本と言った具合になり、最下位のDクラスには校庭二十周が課せられた。
罰ゲームを回避したことによりFクラスの面々は歓喜に包まれたが、それと同時に詩野は当然の疑問を持つ。それは、
「ねぇ、ちょっといいかしら?」
「なんだ、そんな神妙な顔して。折角一位になったんだもっと喜んだらどうだ?」
「はぐらかさすのはやめてくれない。私はなんで¨アルマ学学年最下位¨のあんたが、あんなにハチマキを持っていたのかが知りたいんだけれど。教えてくれないかしら」
Fクラスが最下位どころか一位になった要因、谷中光一についてだ。クラスのメンバーからすれば、光一の印象はアルマ学の学年最下位。言い換えれば最弱といわれれも文句は無い筈である。しかしたった今四十本ほどのハチマキを獲得し、Fクラスを一位にまで押し上げた光景を見てはとてもではないが、最弱とは呼べない。しかも詩野は光一が格上であるはずのEクラスとDクラスと対峙して、相手が光一に怖じ気づいて逃げていった様まで見ている。
これらの事から生じた疑問への答えを求める質問に対して、光一は一言。
「断る」
「理由を聞かせて貰えるかしら」
「クラス対抗戦の代表決めだってあるんだ、そう易々と手の内を見せるやつがあるか」
「……確かにそうね、分かったわ。この質問は忘れて」
そこで詩野は会話を打ちきり、去っていく光一の後ろ姿を見ていた。詩野はもっと詰めよって光一の強さについて聞きたかったが、クラス対抗戦の為に手の内を晒したくない。この当たり前の理由を崩せる気がせず、そのまま光一の背中を見送っていた。
しばらくして学校も終わり、光一が自宅へと帰る。
「ただいま」
どうせ誰も答えてくれないけどな。そう思いながら玄関の扉を開けると。
「ああ、おかえり光一。今日は随分と激しい闘いだったね」
「あのテロリストのボスほどじゃないさ」
「それもそうだね」
肩の後ろまで伸びた白い髪に、青い瞳。そんな特長的な外見の神様、リースが光一を出迎える。光一は荷物を片付け着替えを済ませてからリビングへと向かうと、リースが何やら光で出来たディスプレイとにらめっこをしていた。
「何してるんだ?」
「あ、光一。ちょうどいいところに来たね。今光一の従者カードを作っているんだよ」
「従者カード? なんだそりゃ」
「まあ、神様の従者として登録するためのカードだよ。そっちで言うエントリーシート見たいなものかな」
そう言ってリースは光一の横に座り、光で出来たディスプレイを見せてくる。そこには色々な事が書いてあったが、¨編集中¨の文字が浮かんでいる項目に自然と目が行く。その項目には、肩書きと書いてあった。
「なあリース。肩書きってなんだ?」
「ああ、そこは光一がしてきたことに対しての肩書きだね。ほとんどは意味がない、文字通りただの肩書きだよ」
「ほとんどってことは意味のある肩書きもあるのか」
「うん、例えばドラゴンスレイヤーなんて肩書きだとドラゴンに対して少し力が上がったりするよ」
「へぇ、俺の肩書きはなんかあるのかね」
そう言いながら光一がディスプレイを見ると。そこには、¨高校生¨に¨元脇役¨¨異常¨といった肩書きが書かれていた。
「(元脇役、現異常ってとこか。俺にぴったりだな)」
「そういえば晩御飯どうする? 何かリクエストあるなら作ろうか?」
「そうだな、でも今日は俺も手伝うとするよ」
光一が考え事をしていると、リースがそう提案してくる。光一はその提案に乗りつつ、一緒に夕食を作ることとなった。光一も自炊経験はあるが、料理は特段得意ということも無くいたって普通の腕前である。光一は、夕食の副菜であるほうれん草のソテーを作りながら、リースの手際の良さには少し驚いていた。
「光一、ちょっと味見してみれくれないかな?」
「お、どれどれ……うん、美味いよ。リース」
「ありがとう光一。そろそろ出来るからごはんをよそってくれるかな」
「分かった、こっちも出来たからよそっておくぞ」
そんな会話をしながら夕食は完成し、二人で食卓を囲む。¨いただきます¨の挨拶を済ませると、光一はよそったカレーライスを口に運ぶ。
「美味い」
「こっちのソテーも美味しいよ」
最初に口に運ぶ際に食欲をそそる匂いが鼻をくすぐる。咀嚼をすれば最初マイルドな辛さが口の中に広がり、飲み込めば少し辛さがました後味が口内に残る。その辛味がさらに食欲をそそる。
それこそ、¨世界で一番美味い!¨と万人が言うものではないが、ほとんどの人が家庭的かつ美味いと答えるそんな味のカレーライスであった。
その後、自身で作ったほうれん草のソテーも食べてみたが、やっぱりリースのカレーの方が美味しく感じた。
第三話の健司対宗一の部分をやや変えました