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第四十五話

  光一が花梨と麗達率いるDクラスと闘いを繰り広げていたその頃、光一以外のFクラスはというと。


  「覚悟しやがれ! この最下位クラスどもが!」

  「テメーらもたいして変わらないだろうが!」

  「田中がやられた! 援軍頼む!」

  「そんな余裕あるかぁ! そっちで何とかしろ!」


 そんな怒号が飛び交う中、Eクラスと全面戦闘を繰り広げていた。

 戦況はつい先程まで互角だったが、少しずつFクラスが押されているといった状況である。しかし、互いのクラスの保有するハチマキ量はFクラスの方が有利であり、Eクラスはハチマキの量を減らしていくばかりであった。それはなぜか? なぜならFクラスがとった作戦はというと、


  「くそう! こいつらハチマキ着けてねえ!」

  「何処かに置いてきやがったんだ!」


 そう、たまり場に人を残しそれらにハチマキを全て預け、捨て身で特攻するというものである。(誰かが持っていないとハチマキはカウントされないので、地面に埋めることは出来ない)この作戦ならばFクラスはハチマキを取られる心配をせずに戦闘することができる。だが、この作戦には一つ欠点があった。


  「おい! だれかFクラスがたまり場にしていた所に行ってこい! 多分そこにハチマキを隠してるはずだ!」

  「分かった!」


 それは、この闘いを抜けてたまり場に行かれてしまうと全てのハチマキを容易に失ってしまうことである。元々奇襲気味の特攻だったので暫くは均衡を保っていたが、それも崩れ少しずつ押され始めていた。そのため空いた戦力をEクラスはハチマキを取るために向かわせる。


  「そいつらを止めろ! さもないと俺達の敗けが確定しちまうぞ!」


 Fクラスの指揮を取っていた谷貝恭二がそう叫び、自身のアルマであるスモールキャノンを撃つがもう遅い。すでにハチマキを奪いに行ったEクラスの背中は見えなくなってしまった。






  「私も行けたらな……」


 倒れた木の幹に座り、ハチマキを管理する役目を担わされた山崎詩野はそうぽつりと呟く。確かにFクラスのハチマキは他の二クラスに少しずつ奪われ、今回のように大きな戦闘にでなければ最下位は確定するだろう。だからこそ戦闘にはあまり向かない自身の力に憤りを感じてそう呟いたのだ。


  「せめてスキルが攻撃系統なら良かったんだけど」


 そう言いながら詩野は自身の手のひらを見る。確かに詩野はFクラスには珍しいスキル持ちである。だが、今回の戦闘に参加していないのには訳がある。それは、


  「ッ! 誰!」

  「おい! 防がれたぞ、どうすんだよ」

  「どうするもこうするもないさ、相手は一人だ、この人数なら余裕だろうが」

  「それもそうだな」


 詩野が枝を踏み折る音を聞いて、その方角を向くと砲弾が跳んで来る。詩野は右腕に着いている盾でそれを防ぎ、砲弾の放たれた方角を見る。すると、五人ほどの男がぞろぞろと出てくる。


  「何よ、あんたら」

  「何ってことはないだろ、もう分かっているんだろうが。俺達はEクラスとDクラス、そっちはハチマキをたんまり持ったFクラス。何をするなんて分かり切っているじゃないか」


 なぜEクラスとDクラスが手を組んでいるかというと、実はこのDクラスの生徒達は、先程の光一の戦闘を見て逃げ出した内の数人であった。そして逃げている最中にFクラスのハチマキを取りに行く途中のEクラスの生徒達を見けると、


  「手を組まないか? 最下位にさえならなければいいんだからよ、俺達でFクラスを最下位にしちまえばお互いのためになるだろ」


 そう言って手を組み詩野を襲ったという訳である。




  「そうかしら? 私だってみすみす最下位になるような真似はしないわよ」

  「(付加(エンチャント) 敏捷(アジリティ))」


 言い返しながら詩野は自身のスキルを発動させる。詩野のスキルは付加(エンチャント)系統のスキル、敏捷・攻撃・防御などの能力を一時的に引き上げるスキルである。今回の戦闘でも何人かの生徒に付加をかけてから戦闘へ行っている。

 詩野は目の前の男が女一人ということもあり、油断を見せたその隙を付くと。


  「あ! まちやがれこの女!」


 強化した敏捷で一気に逃走する。当然男達は詩野を追うが、特にスキルを持たないためにどんどん離されていく。詩野は¨これなら逃げられる¨そう思ったその時。


  「くそ! あと一発しかないってのに」


 男の一人が簡易スモールキャノンを構えると、詩野に照準を合わせて砲弾を発射する。


  「え (ダメ! 避けられない!)」

  「付加(エンチャント) 防御(ディフェーザ)


 詩野は避けられないと直感で感じとると、盾を構えて盾に防御の付加(エンチャント)をかけて受け止める。付加(エンチャント)のかかった盾は簡易スモールキャノンの砲弾を易々と防ぐが、その盾を支える詩野自身が強化された訳ではなく、砲弾の衝撃によろめいた拍子に木の根につまづき転倒してしまう。詩野は直ぐ様立ち上がって逃げ出そうとしたが、


 「おおっと、どこに行く気だい?」

 「逃げるならせめて出すもん出してからにしな」


 男達は詩野の隙を見逃すはずがなく、詩野は周りを男達に囲まれてしまう。詩野はもう一度敏捷の付加(エンチャント)で逃げたしたかったが、


  「(駄目ね、まだ最使用まで時間がある。どうすれば……)」


 それは出来ない。何故なら詩野の付加(エンチャント)は一度使うと強化したひと項目は数分間強化出来ないという制限があるからだ。(上位のスキルでは最使用までのラグが無いものもある)

 詩野はせめてもの抵抗と思い切り男達を睨み付けると、


  「なんだ、その目は」

  「チッ、なんだかその目を見っとムカついてきたぜ」

  「そういやFクラスの奴に生意気な男がいたな、俺達Dクラスに単身で乗り込んできた奴が、お前とはクラスが同じってことぐらいしか接点無いだろうがちょっと憂さ晴らしに付き合ってもらうぜ」

  「ああ、あの右腕だけにアルマをつけてたやつか。そうだな、俺もそいつにはムカついてたんだ、ちょっと理不尽かもしれんが運がなかったとでも思いな」


 俺達の内のDクラス生徒がそんな事を言い出す。実はこの男子生徒、最初に安室麗と共に光一を襲った内の一人でもあり、はっきり言ってとばっちりもいいとこなのだが、それもお構いなしに一人の生徒が拳を詩野に向けて振りかぶる。これから来るであろう様々な痛みや衝撃に耐えるため詩野が目を閉じたその時。


  「なぁ、お前らがさっきから話してる右腕だけにアルマを纏っていた男ってこんな奴か?」

  「あ? こんな奴ってどんな奴___」


 詩野に向かって拳を振りかぶっていた男は、声をかけられ振り向くと絶句した。いや、その男だけではない、それ以外の男もその声の主を見て言葉を失っていた。

 ただ一人、衝撃が来ないことを不思議に思い恐る恐る目を開けた山崎詩野を除いて。詩野は目の前の光景が信じられなかった、先程まで男達に包囲され絶体絶命の状況であったのに、今目の前に広がっている光景は、¨全校生徒でアルマ学の成績が最下位、つまり最弱と言っても差し支えない男。谷中光一が、二人の女子生徒を一人は背中、もう一人は前で抱えた状態で詩野を包囲していた男子生徒の顔を右手で掴み持ち上げている¨といった光景であった。


  「光一!」

  「大丈夫か? 詩野」

  「私は大丈夫だけど、なんで光一が?」

  「いや、こいつらを医務室辺りにでも連れていく途中に、なんか見覚えのある後ろ姿を見つけてな」


 そう言って光一は右手で顔を掴んで居たEクラスの生徒を投げ飛ばすと、詩野に拳を振りかぶっていた男子生徒の方を見る。見られたDクラスの男子生徒は恐怖からか後退りしてしまう。周りを見れば他の生徒たちも同じように恐怖の表情を浮かべて後退りしていた。


  「な、なにビビってるんだ! 数ではこっちが勝ってるんだぞ、この人数なら勝てるはずだ!」


 一人の生徒がそう空元気でも出すように大声を上げると、光一は静かに抱えていた女子生徒、安室麗と藤堂花梨の二人を下ろすと、


  「一つ聞きたいんだが」

  「な、なんだ」

  「お前ら、一ミリでもこの俺に¨勝てるとでも思っているのか¨」


 そう抑揚の無い声で告げる。男子生徒達はその声だけで今にも逃げだしたかったが、Fクラスよりも上位クラスのプライドか無様に背中を見せて逃げる事だけはしなかった。

 山崎詩野は地面に座り込んだまま、そんな光一の後ろ姿を見ていた。その最弱である筈の男の背中はとても大きく、今はとても頼もしく見えた。


 



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