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四十一話

 時は流れ、生徒達が待ちに待った合同アルマ学の時間となる。生徒達の中には心配そうな顔をするもの、躍起になってはしゃぐものと多様な反応をしながら授業場所である第ニグラウンドへと向かう。

 第ニグラウンドは以前光一達がアルマ学の授業で使った土ばかりのグラウンドとは違い、二次試験開場の運動場を小さくしたような場所である。


  「みんなよく集まったな、これよりD~fでのクラス合同アルマ学の授業を始める」


 笹山がそう集まった生徒達の前で宣言すると、生徒達の顔は引き締まる。だがDクラスやEクラスの中には時折Fクラスの方を見ると、まるで¨こいつらには負ないな¨と言った顔をするものもいた。


  「今回の訓練についてだが。代表戦も近いことだし今回は実践に近い授業を行う。その内容は__これだ」


 そう言って笹山が取り出したのは、生徒達の見に覚えがある布切れ。そう、二次試験で使ったハチマキだった。

 生徒達はあの半分近くが落ちた二次試験を思い出し、緊張からか動きひとつしない。


  「察しのいいやつはもう気づいていると思うが、今回の授業は二次試験と似ているぞ。ただ一つ違うのはこれがクラス単位で行うってことぐらいだ」


 生徒達が固唾を呑んで見守るなか、笹山は説明を続ける。それを要約するとこうだ、


  ・クラス全員で所持しているハチマキの本数が最も多いクラスが勝利

  ・連絡用にトランシーバーを各クラス七台支給する。なお、このトランシーバーは奪って使うことは出来ない(破壊は弁償)

  ・最下位クラスは校庭二十周

  ・スタート場所は各クラス別

  

 笹山の説明が終わると、それぞれのクラスは別々にされて森に入れられる。


  「おい、お前はこっちだ。速くこい」

  「足引っ張るなよ」

  「囮くらいにはなれよな」

  「ったく、なんで俺がこんなやつと」

  「こっちくんじゃねぇよ」


 光一達のクラスはまず、トランシーバーを均等に行き渡らせるためにクラスを六つの班に分けることになった。光一は四十人というクラス構成状どうしても余る者となり、適当な班に押し付けられたが、班のメンバーからの視線は冷たい。(もう一人の余りは普通に他の版で溶け込んでいた)


  「で、どうするよ」

  「相手が五人以下ならいけるんじゃね」

  「まあ人数的にもそれが一番だろうな」


 光一の班のメンバーは、そんな会話をしながら森を歩く。


  「(ナチュラルに俺が人数に数えられていないのは置いといて、こいつら本当に闘う気あるのか?)」


 光一は先行するメンバーを見てそう思った。メンバーが普通に喋りながら歩く様子から、戦力的にはこっちが劣ってるんだから、奇襲成功の確率を上げるために気配を消そうとする努力をしないのか?そんな事を考えていると、


  「おい、お前前歩けよ」


 メンバーの一人がそう光一に言ってきた。残りのメンバーも目線でそう言ってくる。光一は無言のまま指示に従い、装着するとメンバー七メートルほど先を歩く。

 しばらく歩いていると、光一はある視線に気付いた。


  「(下手な隠れかただな、まあ素人に足跡まで消せとは酷な要求だけどな)」


 不自然な足跡が木の裏に延びているのを見て、光一はそう考える。普通の人ならそうそう気づかないだろうが、自身操作で五感を強化できる光一なら気づくような足跡。光一はこれが他クラスの人間だとあたりを付けると、


  「(ほら、お目当ての獲物だぞ)」


 自身の後ろを歩くメンバーの方を、振り向かずに親指で指差した。すると光一の目の前に一人の気の強そうな黒髪の女が表れると同時に、後ろの方でメンバー達の悲鳴と怒号が聞こえる。


  「お前の目的はなんだ? 仲間を売った上に罠もなしとは。先に言っとくが仲間にしてくれという願いはNGだぞ」

  「そりゃ残念だな、だったら見逃してくれないかね。俺は痛いのも辛いのも嫌いなんでね」

  「断らせてもらおう、私も校庭二十周は回避したいのでな」


 いつの間にか光一を取り囲む人影は三つに増えていた。そして光一と話していた女が目線で合図を送ると、二人の男が光一に左右から飛びかかる。


 「校庭二十周を避けたい? 同感だね」


 光一はそんな事を言いながら集中(カンセントレイション)を発動すると。少しだけゆっくりになった視界の中、バックステップで攻撃を回避し、


  「!?」


 片方の男に右拳を食らわせると男は声もあげずに吹き飛び気絶した。もう一人の男は仲間が気絶した事に驚いた隙をつかれて、光一の右腕に捕まる。光一は右手で男をつかんだ状態で腕を挙げる。男の足は宙に浮き、必死で抵抗するが光一は意にも介さない。


  「加減はしてやる」


 その状態で男を地面に叩きつけると、男はあっさりと気絶した。


  「次はあんたか?」

 

 光一がそう言って最初の女の方を向いたが、


  「もう逃げちまったか」


 女は一目散に駆け出していた、その背中を見ながら光一は足元の石を拾うと思い切り投げる。石は女の背中に当たり、女はその場で痛みからうずくまって倒れる。光一は倒れた女にあっさりと追い付くと、


  「よお、なんで逃げるんだ? 俺は最下位のFクラスだぜ」


 光一はそう言って女に話しかけるが、女は答えず光一を恐ろしいものでも診るような目でみる。


  「おいおい、そんな目をするなよ。俺はただあれを出してほしいだけだって」

  「わ、分かった。ほら、これだ」


 女は少し震える手でハチマキを外すと光一に差し出す。女は光一がそれを受け取った事に少しだけ安堵すると、


  「ほら、もう一つあれ出してくれないかな?」


 光一の更なる要求に一瞬頭を捻ったが、直ぐに理解すると疑問から思わず声がでる。


  「まさか、トランシーバーを出せと? だがこれは私たちEクラスしか使えないぞ」

  「ああ、それそれ、それを出してほしかったんだよね」


 女は自身では使えないトランシーバーを要求した光一対して疑問を持ったが、その疑問は直ぐに解決した。


  「じゃあ、今すぐそのトランシーバーを使って貰おうかな」

  「は?」

  「聞こえなかったか? そのトランシーバーを使ってくれって言ったんだが」

  「馬鹿を言うなそんな要求飲めるわけが__」

  「要求? 可笑しなこと言うな、これは要求じゃない。ただの¨お願い¨だよ、場合によっちゃ¨命令¨になるかもな」


 そう言って女の後ろにあった木を光一が殴ると、その木はあっさりと倒れる。女は一度光一を睨んだが、うつむくとなにも言わずにトランシーバーの電源を入れた。


  







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