第三十六話
光一を含む新入学生達は、入学式を終えると教師の指示にしたがい各教室へと移動を開始する。そして一年生の教室のあるフロアに着くと、
「凄いな、やはりアルマ学に力を入れているだけあって優等生への待遇が他の生徒と比べて桁違いだ」
光一はAクラスと呼ばれる教室を見てそう呟いた。Aクラスとは第二次試験とスキル検査の結果を総合して、上位の者だけが入れるクラスである。この世界でアルマは戦争の道具にすら成りうる者であり、国も力を入れている。そのため、優秀なAクラスにはそれ相応の待遇が容易されるのだ(それ目的で入学するものもいる)
そのAクラスを通り過ぎ、次に設備の豪華なBクラスも通り過ぎる。その次もそのまた次も通り過ぎ、最後に光一が立ち止まったのは。机と椅子は廃校あたりから持ってきたのかぼろぼろで、他の教室がホワイトボードやプロジェクターが設置されているのに対し、黒板を使っている落ちこぼれの行き着く場所Fクラスであった。
『アルマトゥーラ学園より、貴方のクラスは貴方のスキル、試験結果を考慮して ¨Fクラス¨ とさせて頂きます』
そう書かれていたクラス分けの手紙を思い出しながら光一はクラス内に入る。すると黒板には座席表が貼ったので、それに従って自身の席へと座る。
「(窓際の一番後か、何を基準に席を決めたんだ?)」
普通最初の席順は名前の五十音順だと思ったが、とそんな事を思っていると、光一の隣の席に一人の女子生徒が座る。
「……よろしくお願いします」
背中まで伸びる長い黒髪を持った女子生徒は、そんな素っ気ない返事をすると光一と目も会わせず頬杖をついて窓の外を見る。
「(なんか素っ気ないな、……いや、まてよ。長い黒髪に素っ気ない態度、まさかな」
「なにがまさかなの?」
どうやら光一の考え事は途中から声に出てしまっていたらしく、そう隣の女子生徒に声をかけられる。
「ちょっと聞くが、君の名前はもしかして山崎詞乃じゃないか?」
「……なんで? もしかして貴方のストーカーってやつ」
「違うよ、たまたまそんな名前で長い黒髪の子の事を顔見知りが話しててね、ストーカーと言うならそいつの事を呼びな」
光一はストーカー疑惑を掛けられたことで少し焦るが、すぐさま会ったこともない架空の知り合いに疑惑を擦り付ける。
「まあ、いいけれど。確かに私の名前は山崎詩乃よ」
「俺は谷中光一、よろしくな」
挨拶を終えたところでガラリと教室前の扉が開き、担任らしき人物が入ってくる。
「皆さん、おはようございます。私はこの一年Fクラス担任の渡辺辰次です、これから一年間よろしくお願いします」
そんなテンプレートな挨拶を担任が済ますと、これを制服の首もとに着けてくださいと言って袋を配る。
「これは、校章となんかの襟章か?」
袋を開けてみるとアルマトゥーラ学園の校章と、Fを型どった襟章が入っていた。(襟章 校章や弁護士バッチのように襟元に着け、所属等を表すもの)
「それはあなた方の身分を表し、それがないと購買が使えないので注意してください。では、全員着け終わった様なので席順に自己紹介をしてもらいましょう」
担任の指示により光一から一番遠い席から自己紹介が始まる。
「谷貝恭二だ、ちなみに二次試験では三本のハチマキを持って合格した」
一番最初の生徒がそう言うと、光一以外の生徒は驚いたような顔をして、¨今回はあいつが代表だな¨と言ったひそひそ話が聞こえる。
しばらくして光一の番となり、光一は軽く名前だけを言って自己紹介を終わらせる。自己紹介が終わり、今日は入学式とオリエンテーションだけなのでこのまま帰りのHRとなる。HRが終わる直前に担任が¨最後に何か質問はありますか¨と聞くと一人の生徒が¨どんな基準で席を決めたのですか?¨と聞く、その質問に担任は、
「試験の点数順ですよ」
そう答えた瞬間光一はクラスの大半からの視線を感じる。その半分ほどは¨こいつには勝てるな¨と言った視線であった。そんな中光一は、
「(こいつらくらいならそうそう負けないな)」
そんな事を考えていた。