第三十一話 好敵手VS異常その二
この世界にはアルマとの親和性が高く、通常以上の性能を引き出せる者がいる。人はその力をスキルと呼ぶ。
「(確かこんなことがアルマ学の教科書に書いてあったな)」
光一は昨夜記憶した教科書の一説を思い出しながらさらに思考する。この世界の特徴であるアルマは、¨同調¨と¨スキル¨この二つにより兵器としての軍事的価値を高めている。光一はそこまで思い出していたところで、颯真の追撃を避ける為に一旦思考を中断する。
「ほらほら、もっと他にないのかい? もし君もスキルが使えるのなら早く使いなよ、そして僕をもっとワクワクさせてよ」
颯真はそのようなことを叫びながら、光一への攻撃の手を休めようとしない。光一も普通の攻撃はほぼ掠りもしないのだが、颯真の体から生える刺や、いつのまにか手にしている剣などの攻撃により少しずつ体に傷が刻まれていく。
「(見たところあいつのスキルは特殊系のようだな)」
光一はこの状況からの活路を見出だす為、さらに教科書の内容を思い出す。記憶したアルマのスキルについての内容は大雑把に纏めるとこうだ。
・スキルは数人から数十人の割合に一人ほどいる。
・その殆どは¨通常系¨と呼ばれる身体強化が主のありふれたスキルである。
・だがまれに肉体強化では説明のつかない能力を持ったものがいる。それを総称して¨特殊系¨と呼ぶ。
これらの情報から目の前の男は、どう見てもただの肉体強化とは言えず、特殊系と判断できる。そう光一が思考を纏め目の前に迫る颯真の刀を右腕のアルマで打ち砕く。
「(一つ一つはそこまで耐久力は無い。自身操作で同調率を最大まで引き上げたアルマなら砕ける)」
光一がそう考えるように、颯真のスキルにより生み出された刺や剣は、同調率を最大まで引き上げた光一のアルマなら破壊が可能である。しかし、問題はそこではなく。
「無駄だよ、僕のスキル鋭利な刃 (シャープエッジ)はそのくらいの武器なら直ぐに生成できる」
颯真が言うように、いくら光一が破壊しようと直ぐに再生されてしまうところにあった。そのせいで光一はじり貧となり、だんだんと体に傷を増やしていくことになってしまっている。
「(仕方ないな、あれ使うか)」
「!? なにする気か知らないけれど、隙だらけだよ」
光一は腕を乱雑に振るい、颯真がそれを回避する為に距離を置いた隙に武道で言う自然体の立ち方をとる。
「(何するのか知らないけれど、僕が接近戦しか出来ないと思ったら大間違いさ)」
「くらえ! 鋭利な刃 (シャープエッジ)、一斉発射!」
颯真がそう叫ぶと、身体中に生えていた無数の刺が光一目掛けて発射される。颯真は何かを呟き立ったまま防御もせず、刺の弾丸を受けた光一を見て¨やった¨と思い、思わず笑みが浮かぶ……が。
「随分と嬉しそうな顔してるな、何かいいことでもあったのか?」
刺の弾丸をモロに受けたのにも関わらず、そこにはほぼ無傷の光一が拳を構えて突っ込んできたことにより、颯真の表情は一転して恐怖と驚愕が入り交じった表情を浮かべる。
「う、うあああああああああ!!!!」
「シャ、鋭利な刃段幕ver (シャープエッジバレット)!」
颯真は目の前の光景に激しく動揺し、刺の段幕を張るが。光一はその段幕を紙一重で回避し、どうしても避けられないものは蹴りや突き等で刺を粉砕することでやり過ごす。
「な、なんなんだよお前! なんでスキルの攻撃をアルマすら無い腕や足で壊せるんだよ!」
光一は恐怖で尻餅をつき、木を背にして座り込み顔に恐怖の表情を浮かべた颯真を見下すと。
「そうだな、しいて言うなら。これが俺のスキルだ」
そう言って右拳を颯真の顔の横に叩きつける。ズシンと重い音を立てて木は光一と反対方向に倒れ、颯真はその光景を何も出来ずただ呆然と見ていた。
「俺は試験監督のところに行く。お前が誰に闘いを挑むのは勝手だが、少なくともこの試験中はもう俺に勝負を挑んでくるな」
「もし、これを反故にするようなら」
そこまで言うと、颯真の眼前に右拳を突き出し。
「こいつをお前の顔面に叩きこむぞ、あの木みたいになりたくないならそんなこと考えるなよ」
そう念を押すと、颯真は恐怖の表情のまま首を素早く縦に振る。
それを確認すると光一は試験監督の元を目指し、その場所を後にする。
鋭利な刃は、シャープエッジと読んで下さい
鋭利な刃段幕もシャープエッジバレットでお願いします