第三話 転機
「さて、次は誰じゃ?」
健司が天河らのもとに戻り、宗一が智也達に目線を向けたその時。
「おっと、危ない。隙を突くのもいいが、もう少し老人を労って欲しいの」
宗一が智也達に目線を向けた隙を突き、光一が肘を当てようとするが、宗一に手のひらを肘に添え受け流される。
しかし、光一は肘を受け流された勢いを利用し、回転を加えた上段蹴りを宗一の顔めがけて放つ。が、
「クッ……」
「まだまだじゃの」
宗一も同じく上段の蹴りを光一に繰り出していた。しかし両者に蹴りは入っていない、それは光一の蹴りを宗一は腕でガードし、宗一は自身の蹴りを光一に当たる寸前で止めていたからである。
「俺の負けだよ、じいさん 」
そう言って光一は健司が休んでいる横に座る。
「さてと、残り二人は別々でもいいんじゃが、少しばかり遊んでやるかの。二人まとめてかかってきなさい」
そう言い宗一は天河と凛に向けて手招きをして軽く挑発をする。
「なら、遠慮なく行かせて貰うよおじいちゃん」
「手加減はしませんよ、お爺さん」
その挑発にそう言い返し、凛が飛び出し助走を付けた突きを宗一の顔面に見舞おうとする。しかし、宗一はそれを難なく避け、カウンターで手刀を凛の顔面に降り下ろそうとしたその瞬間。
「俺を忘れて貰っちゃあ困るぜ」
「ぬっ!」
「ッ! 隙あり!」
智也が宗一の後ろから飛び蹴りを見舞おうとし、それに反応しようとした宗一が一瞬硬直する。その隙を突き凛も掌底を宗一の顔目掛けて打つ。
「まだまだ爪が甘いの」
「「ッ!」」
二人の攻撃は宗一に決まったように思えたが宗一は勢いのある分凛よりも早く技を出してい天河の足を掴むと、久崎に向かって投げ飛ばす。
「今回もわしの勝ちじゃな」
天河を投げ飛ばし、久崎と天河を同時にKOすると、宗一はそう言って道場から出ていった。
「やっぱ凛のじいさんは強ぇな」
「そうだな、まさか二人がかりで敵わないなんてな」
「やっぱりおじいちゃんは強いね、私ももっと頑張らないと」
「俺ももう少し視野を広く持てるように頑張るか」
光一達はそんな会話をして、道場を出てそれぞれの家へと帰っていく。
光一が夕飯の買い物を凛の道場から帰る道すがらに済まし、今日の組手の反省をしながら歩いていると。
(もう少し視野を広くするのと、イメージ通りに体を動かせるようにならないとな)
そんなことを考えながら歩いていると。
「…………」
白髪青目の少女が七メートル程先の交差点でキョロキョロと辺りをみまわしていた。光一は、道に迷った外国からの観光客かな? といった疑問を思い浮かべ、助けになれるのならなろうと声をかける。
「どうしましたか?」
そう話しかけた時、光一は日本語分かるのかな?という疑問が頭をよぎったものの、それは杞憂に終わる。
「え、ああ、実は道に迷ってしまって」
「それなら道を教えましょうか?」
「あ、ありがとうございます、えーと、この近くの本屋に行きたくて」
目の前の少女は流暢な日本語を話し、会話にも不自由しない。光一が近場の本屋を教えると、ありがとうございました、と頭を下げて少女がそこから立ち去ろうとしたその時。
「危ない!!!!!」
どこかからそんな大声が聞こえた瞬間、光一の目には少女の後ろから自分と少女に向かって突っ込んでくるトラックが見えた。少女はトラックが死角だったため、ほとんど動けなかったが、光一は声が聞こえた瞬間、少女を横に思い切り突き飛ばす。
「…………!!」
光一が最後に見た光景は、突き飛ばした少女がこちらを見て驚いた表情で見ている光景だった。
そして光一は、なすすべなくトラックに引かれ撥ね飛ばされた。