第二十五話
光一は一度その携帯電話らしきものを置くと、部屋の捜索を開始しようとする。が、ズボンの右ポケットに何かが入っていることに気づき、それを引っ張り出す。
そうして出てきたのは二枚の紙。それらには女の子らしき丸みを帯びた字体で、こう書いてあった。
『光一へ、異世界に行くにあたって役に立つ能力が支給されたから渡しておくよ』
『 谷中光一
称号 神の従者 元一般人
能力 自身操作
神様召喚
new 完全翻訳 』 どうやら新しく完全翻訳とやらを得たみたいだな。と、光一は考えて、早速この能力を試してみようと部屋の中に使えそうなものはないかと捜索する。
「こいつでいいかな」
そう言って光一が机の上の本棚から取り出したのは中学生向けの英語の教科書。普段なら単語の意味を拾いながら英文を読むので、日本語のように読むことなど、到底出来なかったものだが。
「! これは凄いな」
適当に教科書を開き、出てきた英文を見ただけで光一はまるで日本語で書かれた文を読むかのように、意味を理解することができた。確かにこれがあれば他の世界に行ったとしても言葉で不自由することはないだろうな、と光一は心の中でリースへの感謝をしながら部屋の捜索を再開する。
「ふむ、どうやらこっちの俺はまだ中学生のようだな」
ひとしきり捜索を終えると、光一はそう結論付ける。なぜなら、部屋の中をいくら捜索しても出てくるのは少、中学生の教科書のみ。さらに机の上に放り出してあった高校の受験票からそう断定する。しかし、その事実と同時に、光一はある疑問を抱く。
(だが、これはなんだ? アルマ学なんてのは聞いたことないぞ)
そう、今回の捜索で一番の気がかりとなったのはこの¨アルマ学¨と呼ばれる教科書の存在だ。さらに受験票にも¨国数英理社ア¨を受験すると書かれていたことから、アルマ学とはこの世界独特の学問なのだろうと光一は仮定する。
(こういう時はいつもならネットで調べるのだけれどな………まてよ、ネット?)
元の世界なら、こういったことはインターネットで調べるのにと思った所で光一はあることを思いだし、先ほどからポケットに入れっぱなしだった携帯電話? を取り出す。
電源を入れ、空中に浮かぶディスプレイが浮かんだところで光一の動きが止まる。
(どうやって操作するんだこれ)
だが、そんな悩みは直ぐに解決する。
『何をしますか?』
空中に浮かぶディスプレイにその文字が浮かび上がると同時に、光一のもつ機械本体にも入力ボタンが浮かび上がる。
光一はすぐさまアルマ学の検索と入力する。すると様々な説明が浮かび上がり、要約すると。
・アルマ学とはその昔、人が身に纏う兵器アルマを学び、使う学業である。
・今ではそれを用いたスポーツも盛んである。
・そのアルマ学で有名な高校、アルマトゥーラ高校が俺の受ける高校である。
光一はそのアルマトゥーラ高校にリースの言う¨主人公¨とやらが来るのだろうと推測したところで、ある疑問が頭に浮かぶ。
「あれ? アルマトゥーラ高校の試験日っていつなんだ?」
そう口にすると、携帯がその音声を読み取りその疑問の答を表示する。
『明日です』
その表示を見るとともに、光一の視線はゆっくりと時計へと動く。時計は午後十二時三分前を指していた。
「………まじかよ」
この携帯音楽入力も出来るのかよ、という思いも直ぐに消え去るほどの事実に、光一の口からはそんな声しか出なかった。
谷中光一、二度目の高校受験。準備期間一日での挑戦をすることが決定した瞬間である。