第二十四話 新たなる任務と異世界転移
光一は、形容しがたい模様の壁面をした穴から落ちきると、見知らぬ部屋に着地した。
(どこだ? ここ。___だが何故か安心感がある)
見たことのない部屋であったが、不思議と光一は不安感を覚えず、むしろ安心感すら感じていた。光一は、この部屋の情報を少しでも得ようと、机の上に乱雑に置かれてあったノートを手に取る。そしてそこに書いてあった名前を見て驚愕の声を上げる。
「な!」
何故なら、そのノートには紛れもなく自分の筆跡で¨谷中光一¨と書かれていたのだから。
「おーい、光一ー聞こえてるかい?」
「あ、ああ、聞こえてるぞ」
「良かった、無事に送り届けられて。じゃあ早速依頼についての詳しい内容を説明するよ」
見知らぬ部屋に見知らぬノート、さらに覚えのない自分の字に少し混乱しながらも、光一はリースの説明に耳を傾ける。
「今回の依頼は、簡単に言うと¨主人公を倒せ¨だね」
「主人公?」
またも飛び出た突拍子もない言葉に、痛んできた頭を押さえながらも光一は必死にリースの説明を理解しようとする。
「光一の世界にもいたろ、その人を中心に世界中とまではいわなくても、仲間内や学校、町単位で中心となる人物がね」
主人公。その単語にある友人の顔が一瞬思い浮かんだが、光一はそれを口に出すことはせず、リースの説明に耳を傾ける。
「それでだ、この世界にも主人公という存在が居る。その主人公は、それこそ物語のように一度の敗北から這い上がり、最後にはライバルのような相手を打ち負かすまでに成長する」
「それに何か問題でも?」
「それが、そのライバルに勝つ出来事が早すぎるみたいなんだ。だから光一には、一度大きなイベントで主人公を倒して貰いたいんだ。それが今回の依頼さ」
光一はその説明を聞くと、数秒目をつぶって考える。そして、聞きたかった事について質問を開始する。
「もし俺が失敗したら?」
「他の神の従者に依頼が移るだけさ、でも気に病むことはないよ。だって主人公相手だから毎回数回、数十回単位で失敗してるんだ」
「もう一つだけ教えてくれ、何故ここに俺のノートがある」
正確には俺の記憶にはないノートだけどな、と心の中で付け加えて光一はリースに質問する。その返答は光一としても信じがたいものとなって返ってきた。
「それは、簡単さ。この部屋は君の部屋なんだからね。いや、厳密には¨平行世界の谷中光一の部屋¨と言うべきかな」
「そういうことかよ………ようやく納得がいったぜ」
平行世界。例えば光一がリースに初めて会ったときに、道を教えず無視した未来もあるかもしてない。その場合は光一はここには居ず、テロリストに殺されていたかもしれないが。
とにかく、このように無数の選択により無限に分岐世界があるという考え、これが平行世界といったものである。もっとも今の科学技術では平行世界の存在すら認知できないのだが。
「そして、今回の依頼で倒してもらう¨主人公¨の名前は___天川智也だよ」
やっぱりな、そう心の中で思いながら光一はため息をつく。自身が平行世界の谷中光一になったのなら、倒すべき主人公も自分の身の回りの人物だろうと予想できる。そして、自分の身の回りで主人公になりそうなのは自ずと絞られる。
「じゃあ、頑張ってねー」
その声を最後にリースの声は聞こえなくなった。光一はこの世界の情報を集めるためにとりあえず部屋の散策を始める。
「なんだこれ、携帯か?」
ノートを見つけた机の上を見ると、なにやら黒くて四角い物体を発見する。その物体は元の世界での二つ折り式の携帯電話に似ていた。
「はは、異世界ではまだ、この携帯が支流なのかもな」
既にスマートフォンが支流となっている元の世界を思いだし、案外科学力は元の世界の方が上なのかもな、と思って携帯らしきものを開くと。
「うおっ!」
それを開いた途端、携帯から光が放出されて光一は目を閉じてしまう。
「………さっきの考えは撤回だな」
目を開けた時に光一の眼前に広がっていたのは、光により形作られたディスプレイが二、三個空中に浮かんでいる光景だった。