二十一話
「ようやく戻ってこれたな、もう取り調べと病院はこりごりだ」
「医者もびっくりしてたね、さすが神の従者だよ」
「そりゃ、普通の人があんだけの傷を受けてたった四日で退院できたら医者は商売上がったりだ」
まだ撃たれた腹には包帯を巻いているものの、退院できるほどに回復した光一は、脳内に聞こえてくるリースの声と会話をしながら登校していた。
こんなに早く光一が退院できたのは自身操作による力が大きい、何故なら撃たれた傷を回りの筋肉を操作し、ぴったりと閉じることで出血を押さえていたからである。さらに入院中も体の治癒力を魔力を使いながらも高めていたおかげで医者もびっくりの回復力を実現したのである。
「おお! 光一、もう傷はいいのか?」
「ああ、もう大丈夫だ、それに今日はあれがあるからな。あまり休みたくなかったんだよ。ちゃんと医者からも許可は貰ってきたぜ」
「そうだな、あれは今回も俺が勝たして貰うぜ」
「俺だってあっさり負けるつもりはないぜ」
「言ってろ」
そんな軽口を光一と健司は喋り、教室へと向かう。そして、教室のドアを開けると。
「………」
「光一! 大丈夫そうで良かった!」
「その様子じゃ心配なさそうね」
クラスの大半は、信じられないものを見るような視線を光一に向けていた。それもそのはず、生徒の間では光一は『マシンガン相手に無傷で勝利した男』『身体中を撃たれてもテロリストを殲滅するまで闘った男』と、かなり誇張された噂が流れていたからだ。
しかし、信じられないものといっても恐ろしいものを見るというよりは、奇妙なものを見るような視線の方が多かった。実はあの事件はボスを追い詰めたのは光一とはいえ、止めを刺したのは豪であるため、光一はあくまでもその場に居合わせ、正義感にかられて突っ込み、撃たれた止めをさされていたという報道がなされたため、光一の位置付けは¨テロリストを撃破した¨ではなく¨ヒロイズムに溢れた変人¨といったところに落ち着いていた。
「さて、智也。今日はあれがあるからな、体調は整えてきたか?」
「勿論さ、健司こそ大丈夫か?」
「あったりまえよ、光一だって大丈夫っていってるし今日の放課後が楽しみだぜ」
そう智也と健司が話していると担任が教室に入り、ホームルームの準備を始めたので、生徒達は皆自身の席に着く。
「あー、最近色々あったが。今日は¨体力テスト¨を行う、みんなはホームルームが終わったら、着替えてグラウンドにいくようにな」
担任はそう簡潔に今日の予定を話すと、教室を出ていった。先ほどから光一達が話すあれ、とは¨体力テスト¨のことである。
光一、健司、智也の三人は昔からこういったことで勝負をしてきていた。今回の勝負内容は体力テストであり、最も最下位の回数が多いものは一位に何か奢るといった賭けをしていた。ちなみに、今までの戦績は、ほとんどが健司の勝ちでたまに光一がいいところまでいくといったところか。(智也の運動能力が低いわけでなく、健司と光一の運動能力が高いのが原因である)
「うっーし、最初はハンドボール投げだぜ」
「いきなり健司が有利なやつかよ」
最初の競技はハンドボール投げであり、野球部に所属している健司には一番アドバンテージがある種目といえるだろう。
「三番、天川智也」
「はい」
出席番号の都合でトップバッターは智也となる。智也は脱力した状態の静から入り、全身に力を込めて一気に動の動きへと転換する。そして智也の手から放たれたボールは放物線を描き。
「三八メートル」
「よし、なかなかだな」
結構な飛距離を出して止まった。
「やるな、智也」
「俺だっていつまでも最下位じゃないさ」
智也にそう声をかけた健司も、少しすると呼ばれる。
「こりゃ、負けてらんねぇな」
健司はギリギリまで助走をとると、全身の力を使いボールを投げる。その力を入れることで力強く盛り上がった二の腕は、余すことなくその力をボールに伝え、ボールは智也の時よりも大きな起動を描き。
「四十六メートル」
「よっしゃあ!」
智也の記録を大きく上回った。クラスメイトが健司の回りに集まり、凄いとはやし立てる中で、最後の方に呼ばれた光一はボールを投げる準備に入る。
(記憶復元、思い出すのはハンドボールの選手。それを投方を模倣する!)
光一は昔テレビで見たハンドボールの選手の記憶を完全に思い出と、その投げ方を自身操作の力により再現する。ハンドボール選手の効率的な力の伝え方をかなりの精度でコピーした光一に投げられたボールは。
(あ、やっべ)
「四十五メートル」
クラス最高記録の少し手前に落ちた。