第二十話
光一が寝ていた頃、天川達はというと
「さて、言いたいことは色々あるが何故ここにいる?」
「おいおい、せっかく見舞いに来たのにそりゃないだろう」
「普通の見舞いは差し入れを無断で食ったりはしねぇよ」
「いいじゃねぇか量はあるんだし」
智也と凛は強い打撲で一日検査入院することになっていた。なので健司は見舞いとして来ていたが、健司は智也の病室に入り、¨一本貰うぜ¨というと、智也への見舞いの品として送られた果物盛り合わせからバナナをとって食べていた。
「それで? 調子はどうだ?」
「特に異常は無いかな、俺や凛も強い打撲くらいだから明日には退院できるよ」
「それは良かったな。会長や山崎が心配してるから速く学校こいよな」
「ああ、分かってるって。それに、見舞いの品をくれた鳳条にもお礼をおかないとな」
そんな会話をすると、智也は一息置いてこう切り出す。
「で、光一はどうなんだ? まさか………死んでないよな」
「いや、あいつがそんなタマじゃないのは俺らが一番知ってるだろ。医者も腹を撃たれた割には出血も少ないし、三日もあれば退院できるってよ」
「なら、良かった。目の前で倒れるからまさかと思っちまったよ」
「ああ、そうだな。まさか、お前ら二人でも敵わなかった奴にほぼ互角とはな」
そうして智也と健司は話に華を咲かせ、数十分後に。健司が部活があるからと帰っていった。
健司が帰ってから一時間ほど過ぎ、暇をもて余していると、病室のドアが開く。
「「智也! 大丈夫!」」
病院で出すには少し大きな声と共にやって来たのは、心配そうな顔をした湊紗江花と山崎詞乃であった。
「ああ、大丈夫だよ。二人とも」
「そうか、良かった………」
「………良かった」
二人はその声を智也から聞き、安堵の声を漏らす。
「ん、見舞いの果物か。よし、私が林檎を向いてやろう」
「いいですよ、会長。会長にやってもらうのは………」
「病人が遠慮をするな、キミは安静にしてな」
そう言って紗江花は林檎を手に取ると、包丁で手早く皮を向いていく。
「ほら、出来た。結構速いだろう」
「ほんとだ、凄い会長」
「そうだな、隣の凛にも向いてきてやろう。凛も退屈してることだろうしな」
そう言って紗江花は剥き終わった林檎を天川に差し出すと、病室を出て、隣の凛の病室へと向かう。そして、取り残された詞乃と智也の間で気まずい空気が流れる。
「………」
(き、気まずい。いったい何話せばいいんだ!)
しばらく無言が続き、今日はいい天気だな、というベタベタな切り出しで会話を試みようとすると。
「あの、その、………今日はありがとう。でももうこんな無茶はしないで」
「お、おお。分かったよ、心配してくれてありがとな」
「ば、バッカじゃないの! これは心配じゃなくて………ええと、その、あれよ! 前私の胸を触ったときのお詫び! あれをしてもらうまでは勝手に居なくなったり死んでもらっちゃ困るからよ!」
そう若干支離滅裂となりながら捲し立てると、顔を赤くした詞乃は病室から出ていってしまう。病室を出る時に小さな声で「………カッコ良かったよ」そう呟いて。
「ふぁ……ちょっと早いけど、もう寝るかな」
詞乃と紗江花も帰り、面会時間を過ぎると。とたんに暇になった智也は、いつもより大分早いが、闘いで疲れていたのか直ぐに重くなった瞼を閉じて眠りについた。