第二話 普通の日常
「どうしたんだ? あいつ」
「大体予想はつくけどな」
そう言って教室に二人が入ると、横顔に大きな手形をつけた少年が挨拶をしてきた。
「おはよう光一、健司」
「おはよう智也。大体予想出来るけど一応その手形の理由を聞こうか」
「どうせまたセクハラでもしたんだろ」
「いや、違ぇよ! しかも"また"って何だよ、それだといつも俺がセクハラをしてるみたいじゃないか」
「じゃあ山崎に何をしたんだ?」
「そ、それは……」
「やっぱりお得意のラッキースケベか」
「はぁ、それは不可抗力だっての、それにそんなラッキーはいらん。もしここに凛が居たら今頃俺はミンチになってたよ、……早いとこ詞乃に謝ってこないとなぁ」
そんな会話をしながら、少年こと天河智也が自身の席に座る際に、光一が一言。
「言い忘れてたが、さっきからお前の後ろに凛が居たぞ」
「え?」
天河はその光一の言葉に顔を青くしながら、油が切れかけたロボットのような動きで振り替える。
「あんた詞乃ちゃんの胸を揉みしだいたらしいわね?」
「ご、誤解だ!触りはしたが、揉みしだいたりなんてしてない!……あ」
「ふーん、触りはしたんだ?」
「まて、話を聞いて……」
「問答無用!」
智也は、光一達の会話の一部始終を聞いていた天河の幼なじみの久崎凛により。鉄拳制裁を食らうと、横顔の真っ赤な手形をもう一つ増やした天河を横目に光一は、自身の席に座り窓の外を見ながら担任教師が来るのをおとなしく待っていた。こうして光一達の朝は始まる。
「光一も今日は道場寄ってく?」
今日の授業も全て終わり、生徒達が¨早く部活行こうぜー¨等話をするなか、光一が帰り支度をしていると、凛がそう訪ねてくる。
「ああ、寄らせてもらうかな」
「分かった、ほら智也行くわよ」
「うわっと、引っ張るなよ凛」
光一はそう返すと、凛に手を引かれ先に教室を出た天河を追って教室を出る。そして道場へ行く道中で健司と合流し、古めかしい雰囲気を醸し出す凛の道場へと入る。
「遅かったわね、あんたら」
「そっちが速いんだろ、智也を引っ張って先に行くからだ」
そんな会話をして光一らは靴を脱ぎ、胴着に着替えて道場へと入る。
光一達はこうしてたまに凛の家が営んでいる道場で軽く武術を学んでいた。
「おお、これは久しぶりに元気のある子供らがきたな」
光一達が準備体操や軽い組手等をしていると、袴姿の老人が道場の扉を開けてそう言う。
「おじいちゃん、今日は智也達が来るって連絡したじゃない」
「そう言えばそうじゃったな、どれ久しぶりに相手をしてやるからかかってきなさい」
凛の祖父である久崎宗一は、そう言って凛と会話を切ると、光一達から五メートルほど離れて構えをとる。
「凛のじいさんと組手するのは久しぶりだからな、前回のリベンジも含めて最初は俺にやらせてもらうぜ」
健司はそう言って宗一の前に立つ。
「最初はお主か、先手は譲ってやるから全力で来るといい」
「それじゃあ、お言葉に甘えて全力で行かせてもらうぜ!」
健司は構えたまま動かない宗一に向かって、助走をつけた右の正拳突きを繰り出す。
「力に頼り過ぎじゃよ、そんな突きじゃ老人一人倒せやせんよ」
宗一はそんな助言を言う余裕を見せ、健司の突きを最小限の動きで右に回避する。健司は直ぐに追撃の左フックを出すがそれも避けられる。宗一郎は左フックを避けると、攻撃後の隙をついて掌底を健司の顎に向かって打つ。
健司は防御姿勢を取ろうとしたが、間に合わずまともに掌底をくらい倒れる。
「お主は力がある分攻撃ばかりに目がいっておるの、もう少し防御にも気を配らんといかんな」
「ああ、次はそこを直してリベンジしてやるからな、じいさん」
健司はそう言って起き上がり、久崎や天河達が待機してる場所に戻る。