番外編
短いです、本当にすみません
これは、天川智也と鳳条灯の出会いの場面です
一般人が見れば間違いなく豪邸と判断する家の、大きな門の前でスーツ姿の女性と高校の制服姿の少女が言い合いをしている。
「もう! 何度も言ってるでしょ! 大丈夫だから送り向かえは要らないと」
「しかし、お嬢様に何かあったら………」
「大丈夫よ、それにお父様も言っていたでしょう。¨人の上に立つものは下の者の気持ちを理解せよ¨と」
「ですが………」
「だから庶民の気持ちを理解するために、普通の高校に進学したのでしょう。それなのにいきなり庶民離れした車で乗り入れたら意味が無いわ」
「はぁ、わかりました。ですがもし、何かあったら直ぐに連絡を下さいますようお願いします。では、いってらっしゃいませ」
「相変わらず心配性ね、じゃあいってくるわ」
背中まで届く金髪を揺らし、制服に身を包んだ女子生徒は、スーツ姿の女性との話を打ち切ると、その女性に背を向けて歩きだす。
その足取りは軽快で、耳を済ませば美しい鼻歌が聞こえてくることから、その少女の機嫌のよさが見てとれる。
(こんな風に護衛も無しに歩くのなんて久しぶりだわ、これからの生活が楽しみ………)「きゃ!」
上機嫌過ぎて前をよく見ていなかったせいで、丁字路を曲がる際に直進していた人とぶつかり、尻餅をついてしまう。
「ご、ごめん。大丈夫? どこかケガしなかった?」
「え、ええ。大丈夫ですわ。こちらこそ前をよく見ていなかったもので………」
「避けれなかったこっちも悪いよ、さ、手を貸すよ」
「え、あ、ありがとうございますわ」
その男も軽く尻餅をついていたが、素早く起き上がると、少女に手を差し出して立ち上がらせる。手を握る際少女の、顔は夕焼けにでも照らされたように赤かったが男は気づかない。
「わ、私ちょっと用事があるので失礼しますわ」
いまだに顔を赤くしている少女は、その男に一礼すると直ぐに走って行ってしまう。
「なんなんだった、あの子。俺の学校の制服着てたけど、あんな子いたかなぁ?」
そんなことを考えながら男、天川智也は通学路をまた歩き始める。
(お、男の人に手を握られてしまいましたわ)
走りさった少女、鳳条灯はそのことで頭をいっぱいにし、顔を赤くしながら光一達の通う高校へと向かっていた。
なお、ここまで鳳条が取り乱しているのは何故かというと。彼女は今まで鳳条グループの一人娘として大切に育てられ、小学校に中学校と女子しか居ない学校に通っていたため、男など父親か年老いた執事くらいしか話したことがなく。そんな同年代の男と話したことすらほぼない鳳条には、異性への体勢が低い。そんな彼女が、いきなり智也と出会い、さらに手まで握られたとなればここまで顔を赤くするのも自然である。