第十五話
ーーー時は少しだけ遡る。
「ふむ、少し退屈だな。このままずっと待っていると言うのも、体が固まりそうだな……」
そう言いながらボスは智也達の辺りを見渡し、智也達に体ごと視線を移す。そして腕組みをして、顎を触りながら話し始める。
「ちょっとゲームをしようじゃないか」
「ゲーム?」
「ああ、そうだ。もし勝てたらお前らを無傷で解放してやる」
「……ゲームのルールは何だ」
「簡単だ、二体一で俺に素手の喧嘩で勝てたら解放。どうだ?」
「もし、負けたらどうなる」
「特になにもしないさ。ここまで良心的なルールにしてやったんだから受けなきゃ男じゃねぇよな」
「くっ……」
智也は内心歯噛みした、確かにこのゲームは良心的だ。しかし、あのテロリストが大人しく約束を守るとも限らない。なら、このまま沈黙していたほうがいいんじゃないかと、そんな考えが頭をよぎる。すると智也の横から思いもよらない声が上がる。
「そのゲーム、私が受けるわ。まさか女は認めないなんて言わないわよね」
「……クックック、中々骨のある娘だ。そこらの男よりよっぽど強そうだ、いいぜ認めてやるよ、もう一人の挑戦者を選びな」
智也の隣にいた凛の縄をほどき、ボスは話す。凛はそのボス相手に一歩も引かず堂々と立っていた。その姿を見て智也は、
(俺だってやってやる!)
「俺がもう一人の挑戦者だ!」
智也がそう大声で宣言し、他の皆に視線を送ると。
(頑張れよ、智也。もし、お前が無理だってなら何時でも俺が変わってやるよ)
(勝手に負けることは許しませんわよ)
(……頑張れ)
そう視線で智也に語りかける。そして智也の縄がほどかれ、凛の隣に立ち、ボスと向かい合うと。
「行くわよ、智也」
「分かってるよ、凛」
そう言葉を交わし、ボスに向かい合う。
「どうやら腹は決まったようだな。こいよ、二人同時でもいいぜ」
その言葉を聞くと、返事すらせずに凛と智也がボスに向かって飛び出す。最初に仕掛けたのは凛だった。凛は助走により、勢いの着いた拳をボスの胸に食らわせようとすると。ボスはその拳を左の手のひらでガードしようとする。が、凛は突き出した拳がボスの手のひらに当たる直前に腕を曲げて、肘をボスのガードを掻い潜るようにボスの腹に突き刺す。ボスは一瞬顔を歪ませるも、右腕で凛を凪ぎ払うように乱雑に振るう。
「俺を忘れるなよ、二体一って言ったのはそっちだろ」
「!」
凛とタイミングをずらして飛び出した智也がボスの右腕を下からアッパーを当て、起動を逸らす。ボスは上に逸らされた右手の拳を握りしめて智也達に向かって振り降ろす。
((スピードも結構速い、パワーもある))
((でも、宗一さん(お爺ちゃん)ほどの脅威はない!))
凛と智也の二人は振り降ろしの拳を避ける。確かにこのボスは一般人を凌駕する筋力を持っているのだろう。しかし、宗一という¨達人¨の元で稽古をした二人にとってはボスの攻撃は単調で回避できないものではなかった。
((これなら、いける!))
「何だよあいつら、本当に高校生か?」
思わずそんな独り言を呟いたのは、スコープからボスを見張っていた豪だった。指示された時間まではまだ時間がある。もし、あの二人がボスを倒すようなことがあれば突入隊が突撃し、自分の出番はないだろうと考えるも、あの二人が負けて手をかけられそうなら自分の出番だ。と考え、豪は今まで以上にライフルを持つ手に力が入っていた。
実際、智也と凛は優勢であった。二人のスピードとコンビネーションの前にボスは攻撃をほとんど当てられずにいた。しかし、智也と凛もボスとの体格差によるリーチの差により決定打が不足している状況にあった。
(あのパワーの前じゃ、一発貰えば戦闘不能になる可能性もある。だったら早く勝負を決めたいが、体格差のせいで決定打になりやすい首から上に攻撃が通りにくい。なら)
智也は、凛に目線で意図を伝えると。智也が凛より少し前に出る。そして、ボスがパンチを繰り出したその瞬間。
「!!」
智也は、パンチを出したボスの腕を掴み、引っ張る。当然パンチを出すために重心が前に行っていたボスは、前のめりに倒れそうになるが、足を出して踏みとどまる。しかし、踏みとどまるために頭が下がったのを凛は見逃さなかった。
「これで、終わりよ!」
智也の膝を踏み台にし、ボスの頭上に飛んだ凛は全体重をかけた飛び蹴りをボスの首もとに向かって繰り出す。その飛び蹴りは、ボスの延髄に吸い込まれるように入り、ぐらりとボスの体が揺れる……が、そこまでだった。
「「!!!」」
「良い蹴りだった。礼を言うぜ、良い運動になった」
「……が、遊びは終わりだ」
ボスは、凛の蹴りを耐えきり。着地寸前の凛と素早く距離を詰めると、握った拳を凛に叩き込む。凛は、そのまま健司らが居るところまで飛ばされ、気絶してしまった。
「凛に何しやがる!!!」
智也はその光景を見て、すぐにボスに向かって拳を突きだす。が。
「言ったろ、遊びは終わりだって」
ボスはあっさりとその拳を避けると、凛と同じように拳を叩き込んだ。
(ちく……しょう……)
智也は薄れゆく意識の中、そう心の中で思いながら気絶した。
ーーーその直後のことだった、豪がスナイパーライフルの引き金を引いたのは。
(は?)
引き金を引いた豪は、スコープから目に飛び込んできた光景を見てそんな感想しか出てこなかった。その光景とは、¨屋上に入る直前に、ライフル弾がまるで見えない壁に阻まれるように静止し、そして下に落ちていく¨と言った光景だった。




