第百話 闘いの終わりと物語の終わり
「……っ、はぁ。戻ってきたか」
クラス対抗戦が終わり、ようやく仮想空間から戻ってきた光一はパルスギアを外すと、これからの予定を思い出そうとする。
「確か……講堂で表彰式だっけ? ならさっさと行くか」
記憶復原のお陰で、忘れることの無かった予定に遅れないよう光一は行動を開始する。それこそ、何も特別なことが無かったかのように。
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モニター前は静寂に包まれていた。生徒も教員も皆、ポカンとした表情を浮かべて動きを止めてしまっていた。
それもその筈、クラス対抗戦が天川の優勝で締め括られると思ったその時、光一の後ろからの一撃によって天川は気絶してしまったのだから。しばらく状況が飲み込めていないせいで、生徒達の動きは止まっていたが、
「はい、では皆さん。これから表彰式を行うので講堂に移動してください」
もっとも早く事態を飲み込んだ教員の声により、未だ信じられないと言った表情をする生徒もいるなか、とりあえず全生徒は講堂へ移動し始める。
「……第三位、Aクラス。第二位、Fクラス。第一位、Cクラス」
表彰式が始まり、まずはクラス単位での表彰となる。Aクラスが一位ではない。これだけでもかなり衝撃的な事態であるはずなのだが、生徒達の小さな話し声は、それよりも衝撃的な珍事についての声が大多数であった。
「続いて、個人記録の発表とします。第三位、Cクラス国崎凛」
クラス単位での表彰が終ると、今度は個人単位での表彰となる。これは、単純に優勝が決まるまでに生き残っていた順に順位が決まる。
「第二位、Fクラス谷中光一。第一位、Cクラス天川智也」
今度はAクラスが三位以内にすら居ない、このクラス対抗戦の映像を見ていない者からすれば、かなり驚くべき事態。しかし、もっと驚くべき事態がある。
表彰を言い渡す笹山は、個人成績の一位を言い渡した後。一度苦虫を噛み潰したような顔をすると、
「ーーー最終勝者、Fクラス谷中光一」
そう言って、光一に表彰状を手渡す。
皆が何とも言えない微妙な顔をし、乾いた拍手の中、光一だけはやりきったという顔をして表彰台から降りる。
これにより、本当にクラス対抗戦は終結した。主人公に真っ正面から正々堂々と勝った。とは言えないかもしれない。しかし、どんなに後味が悪かろうとも勝利は勝利である。
なぜ、こんな結果となってしまったのか。それは、このクラス対抗戦のあるルールのせいであった。
『・A~Fクラスの代表各二名づつ、計十二名で行う。
・場所は全員パルスギアを被り、仮想空間で行う。
・アルマを全て破損などで失うと、脱落。(サブアルマはアルマにカウントしない)
・気絶した場合もリタイアとする。
・最後の一人以外、全員リタイアした際にリタイアしていなかった者が優勝。
・最後に一人残った勝者には、五万ポイントを贈呈する』
この最後の二つのルール、一見可笑しなところは何もないように見える。しかし、よく見ると『優勝者は、一人を残して全員が脱落した時の生き残り』と書いてある。それに対して、最後の一文は『最後まで舞台に残っていた者が、商品を受け取れる者である』と、書いてある。
そして、今回は気絶の場合はショック症状を起こさないよう、即脱落。普通のアルマ破損では、サーバーの負荷を抑えるために、少しずつ光の粒子となって脱落するという仕組みをとっている。
ここで、クラス対抗戦の最後の場面を思い返してみると、光一が上半身を残したまま放った砲弾が、天川を一撃で気絶させている。
つまり、天川以外の脱落が確定した後に光一が、消える前に天川を仮想空間からログアウトさせたせいで、優勝者と最終的に商品を受け取れる者がずれてしまったということである。
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無事に表彰も終わり、本日の授業は元々クラス対抗戦で全て潰れていたので、生徒達は続々と解散していく。中には、残念会と言ってクラスで食事に行くクラスの姿も見受けられる。
光一もFクラスを第二位にまで引き上げた立役者として、クラスに凱旋すると、
「今日は祝勝会だぜ!」 『俺、いい店知ってるから行こうぜ! 予約もとったぞ』
などの会話が繰り広げられており、光一もその祝勝会へ強制参加をさせられてしまった。
(さて、さっさと帰って着替えてくるか)
光一がそう考えて、帰宅しようと教室を出て廊下を歩いていると、
「ちょっといいかい? 谷中さん?」
「何だ? 優勝者さん」
そう、声を後ろからかけられる。そこにいたのは、
「お前は最終勝者だろうが、俺は肩書きだけで商品なんて一っつも貰えなかったんだぞ」
クラス対抗戦の優勝者であり、光一が苦難の末勝利をもぎ取った主人公であった。
「それはルールに言いな。それで? どうして俺を呼び止めたんだ、優勝者の立場から二位を笑いにきたのか?」
「記録では俺の勝ちになってるかもしれないけど、俺はお前に負けたんだ。そんな事しないよ」
光一は少し皮肉を込めた返しをすると、天川は苦笑いを浮かべながら返す。
「勝ち負けねぇ。俺は勝負に勝った、お前は試合に勝ったそれでいいじゃないか、一勝一敗のイーブン。引き分けってことでいいだろ」
「そうだな、だから次は負けない。俺がお前を呼び止めたのは、その次の事でさ」
「次? 言っとくが次闘う予定なんて組む気は無いぞ、他の事なら答えてやるがな」
光一はもうこの世界にいる理由がない、だからこそ無責任な予定は組まない。元々この、返答は「今回は闘えなかったから、次闘わせてくれないかい?」と言ってきそうな一ノ瀬相手に用意したものであったが、光一の予想が外れて天川相手に使うこととなった。
「そうか……なら闘う予定はいいよ。だけど、なんでお前はそんな強いんだ? その強さの秘訣というか、秘密のような物が俺は知りたい」
しかし、天川から来た返答は、光一の予想の斜め上を言っていた。別に、光一がこの質問に答える義務はない。しかし、先程光一は他の事なら答えると言ってしまった。その言葉が、光一の口を開かせた。
「強さの秘訣……か。そうだな、神様にでもお願いすることだな」
「神様? 何を言って……って、ちょっと待ってくれ!」
「俺が教えるのはここまでだ、後は自分で考えな。お前なら、多分答えを出せるんじゃねぇかな」
それだけ言うと、光一は天川の制止を無視して歩き出す。天川も諦めたのか、少しのあいだ光一の背中を見ていたが、制止が無駄だと分かると追うのを諦める。
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時は既に夜の十一時を回った頃。光一は騒がしくも楽しく、そして少しだけ寂しい祝勝会を終えて、帰宅していた。
光一がこの世界にいたのはほんの二、三ヶ月程である。それでも、少しぐらい愛着は湧く。光一は、祝勝会やクラス対抗戦の興奮からか、少し火照った体を冷やすため、家のベランダで何となく夜空を眺めていた。すると、
「やあ、光一。おかえり」
「ああ、ただいま。リース」
ふわりと、開けっぱなしの窓に吹き込んだ風が、カーテンを揺らしたと思うと、そこには光一が闘った理由であるリースがいた。
「まさか、初仕事でいきなり主人公を倒すなんてね」
「リースは俺が負けるとでも思ってたのか?」
「冗談、自分の従者を信じないわけないだろ」
二人、いや、一人と一神はベランダに横並びで話す。しばらく話していると、光一は体を回転させて背中をベランダの策に寄りかからせて空を見上げる。そして、
「そろそろタイムリミットか」
「うん、あと二分くらいだよ」
そんな会話をする。その言葉を最後に二人の間には言葉は無くなった。しばらくすると、リースも光一と同じ体勢となって空を見上げる。そして、
「あんまり星、見えないね」
「曇ってるからな」
そう光一が口にすると、光一の体が淡く光る。そして、段々と光の粒子となっていく。
「光一、もう時間だよ」
リースが隣でそう言ったが、光一は無言であった。だが、光一はポケットに手を入れると、携帯を取り出す。そして、手早くある操作を二十秒ほどすると、携帯をしまう。
そして、体のほとんどが消え、あと少しでこの世界から消える間際に、光一は口を開いた。
「星」
「え?」
「あっちなら見れるだろ」
その言葉に、リースは一つ笑みを作ると
「そうだね」
それが、光一がこの世界で聞いた最後の言葉であった。
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ピロリンと、デフォルトのままの音が携帯にメッセージが届いた事を知らせる。
「ん? なんだ」
その音を聞いて、謙二は携帯を開くと、SNSサービスの内、クラスで利用しているアプリを開く。そこには、今日の祝勝会のコメントが数多く並ぶなか、これまで殆どコメントを投稿していなかった男、光一が、
『ありがとう』
そう短くコメントをしていた。
これで第二章扱いのアルマ編は終了です
そして次の話なんですが、新しい話として投稿しようかと思っています
具体的な予定は今週の金曜日か土曜日には投稿します
もし、この光一の話にまだ付き合ってくれるのなら、どうか次の作品も宜しくお願いします
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