第十話 魔法
テロリストとのファーストコンタクトを無事に切り抜けた光一は、小走りで校舎内を移動しながら現状について思考する。
(あいつらの目的は資金と魂の調達……魂の調達にも疑問は残る、その上資金調達はどうするんだ?)
確かに資金は人質を使い、身代金でも要求すればいいだろうが、身代金がらみの犯罪は、不可能な犯罪と名高い。さらに言えば、人質が智也達数人と言うのも不可解だ。普通の身代金目当ての犯罪であれば人質は身軽になるために数人、というのは理解できる。
だが今回あのテロリストの目的は金と魂、魂が欲しいのなら人質を数人と言わずにグラウンドに避難した生徒全員を連れていくだろう。しかし、外の様子を見たところ、どうやらテロリスト達は生徒や教師達に外に出ないように指示を出し、見張りの数人を除き、全て校内に入って来ているようだ。
そこまで思考したところで光一は、先ほどから気になっていたことをリースに質問する。
「なあ、リース」
「なんだい? 光一」
「大したことじゃないかもしれんが、さっきから気になってたんだが、俺の体を覆っているこの光は何だか分かるか?」
「これは驚いた、もう魔力を感じ取れるのか」
「やっぱりこれが魔力ってやつなのか」
「そうだよ、それを使って人や神は魔法を使う。まあ、普通は魔力を感じ取れるようになるだけでも、結構な時間がかかるのだけれどね」
リースの説明を聞き終えた光一は、ある考えをリースに話す。
「リース、何か俺に魔法を教えてくれ」
「今の説明聞いていたかい? 光一」
「もちろん、それに脳内に聞こえているんだから、嫌でも頭に入るさ」
「それもそうだけど、無理だね」
「その理由は?」
「確かに神は魔法を使うけれど、神にとっての魔法は身近過ぎてどう教えたらいいか分からないってのが理由かな」
「身近過ぎる?」
「例えば、光一達人間にとっての手を動かす動作や物事を考える、なんて動作と同じように身近すぎて教えかたが分からないんだ」
リースの言葉に光一は、がっくりと肩を落としたが、あることに気づいた。
「リースがそんなに簡単に魔法を使えるのなら、俺がリースを召喚して、リースがあのテロリスト達を倒すってのはどうだ?」
そう、神がまるで手足を動かすように魔法を使えると言うなら、その神に魔法を使ってもらえばいい。そう思ってのことだったが、
「残念だけど、基本的に神は人間界じゃ力をほとんど出せないんだ。そういう制約をつけないと、人間界色々問題が起きかねないからね」
「そうか……なら仕方ない」
返答は芳しいものではなかった。光一は、すぐにでもこの問題を解決できる良い案だと思ったが、そんな事情があるのなら仕方ないと、気持ちを切り替る。
「強化魔法なら人間や神でも方法は同じだけれど……」
光一が気持ちを切り替えて、いざテロリストの散策を始めようとしたその時、ため息混じりでリースがそう呟く。もちろんそれを光一が聞き逃す訳がなく、リースに懇願する。
「それでいいから教えてくれ、頼む」
「別にかまわないけど……やり方は簡単だよ、強化したいところに魔力を込めるだけ。でもさっきも言った通り、人が魔力を感じ取るだけでもかなりの修行が必要なんだ。それなのに魔力を動かし、集めるなんて結構な時間と修行が必要なんだよ?」
そこまでリースの説明を聞くと、光一は足を止める。
「確かに普通の人がそんな事をやろうとすれば、かなりの努力と時間が必要なんだろう」
「だけどな、¨神と関わった時点で俺は少し普通じゃなくなってるんだよ¨」
そう言って光一は、近くにあった掃除用具入れのロッカーに拳を打ち込む。普通ならロッカーがへこむ程度だが。
「!……やっぱり光一は面白いね、君を従者にして正解だったみたいだ」
そのロッカーは、光一の拳を受けて大きな穴を開けていた。




