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ぬいぐるみの影

作者: をはち
掲載日:2026/10/04

焼け跡に残ったのは、三つの骨と、一人の孤独だった。

秋田の街はずれに、古びた平屋の一軒家がひっそりと佇んでいた。壁は雨風に晒されて黒ずみ、屋根瓦はところどころ欠け落ちている。


文学部の青年・笹森たすくは、はじめて親元を離れてその家を借りた。大学までは自転車で十五分。安い家賃とその佇まいが何よりの魅力だった。


入居して間もなく、白い野良猫が迷い込んできた。雪のように真っ白な毛並み。たすくはそれを「ゆき」と名づけた。


夜になると、ゆきはたすくの膝の上で喉を鳴らし、薄い布団の端を自分の場所のように占領した。


狭い部屋に二人分の息づかいが満ち、たすくは初めて「一人ではない」と感じた。半年が過ぎたある朝、ゆきは帰ってこなかった。


裏手の草むらで、たすくは彼女を見つけた。喉が深く抉られ、白い毛は赤黒い血で固まっていた。野良犬の仕業だと近所の者は言った。


たすくは死体を段ボールに納め、近くの空き地に埋めた。その日から彼の口数は極端に減った。


学友たちが心配して声をかけても、彼はただ小さく頷くだけだった。笑顔は、まるで消えたように見えた。


秋の終わり、学友に誘われて骨董市へ行った。露店の片隅に、二つの猫のぬいぐるみが並んでいた。


アニメのキャラクターらしい、丸々と太った愛嬌のある姿。たすくは無言でそれを手に取り、そのまま買い求めた。


その夜から、彼はぬいぐるみを抱きしめて眠るようになった。


「こいつ、ゴロゴロとのどを鳴らしてる」


誰に言うでもなく、たすくはそう呟いた。学友たちは安堵した。たすくが以前と同じように笑うようになったからだ。


ぬいぐるみを膝に乗せ、優しく撫でる仕草も、どこか穏やかだった。冬の初め、夜半に火が出た。古い建物の電気系統のトラブルだと消防は結論づけた。


たすくは煙に気づいて外へ逃げ、命に別状はなかった。焼け跡の整理が進む中、奇妙なものが発見された。動物の骨が三体。


一つは巨大な鼠の骨格で、大きさは普通の猫と変わらなかった。残る二体は、明らかに猫のものだった――


焼け跡の片づけの中、消防の隊員が黒く焦げた布の塊を持ち上げた。中から、白く乾いたものがこぼれ落ちた。細い肋骨。丸い頭骨。二つ。


それは、たすくが毎晩抱いていたぬいぐるみの中から見つかった。


前の持ち主が、亡くした猫を供養するために骨を縫い込んでいたらしい。二体のぬいぐるみは、ただの玩具ではなかったのだ。


家に棲みつき、静かにたすくを見守っていたのだ。


巨大な鼠の骨格が見つかった場所は、ぬいぐるみがいつも置かれていた居間のすぐそばだった。


たすくは何も言わない。


ただ、焼け残った布の切れ端を見つめていた。


そこには、ゆきが好んで眠った布団の匂いが、まだかすかに残っていた。

読んで頂き有り難う御座います。

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