6.毒島
才華はアイスティーが空になったので、氷を口の中で舐めている。徐に携帯を取り出すと、「ドゥームズデイ」という単語を調べ始めた。もともとはキリスト教の最後の審判の日(生前の行いが裁かれ、運命が決定する日)に由来しているそうだ。
(うーん、私たちの最後の審判の日って訳だ)と才華は妙に納得した。
携帯を機内モードに切り替えると、人々を観察していた。ニヤニヤしている人、大声で話をする人、俯きながら下を見ている人など、千差万別だった。手鏡を取り出すと、薄くメイクを施した。何やら騒がしいと思ったら、誰かが喧嘩をしている。
才華はその様子を眺めていた。二人の男は殴り合っている。痛そうだな、と才華は思った。
「はーい、そこまで」
声を張り上げた男は、二人の男を一瞬で倒した。二人とも地面に転がりながら腹の辺りを押さえている。
男は赤いジャケットにアフロヘア、顔にはピエロのメイクを施している。手には拡声器を持っていた。
「続きは本番でお願いしまーす」拡声器から男の声が響いた。
「皆さん、こんにちは。私は毒島と言いまーす」
「ドゥームズデイの進行実況役を務めていまーす。宜しくお願いしまーす」
毒島は変な口調だった。
「締め切りの時間が過ぎたので、皆さん、バスに乗って貰いまーす」
「そこから飛行機に乗って会場まで行きまーす」
「それでは移動しまーす。宜しくお願いしまーす」
厚く塗られたピエロの化粧で毒島の表情が分からず、才華は気味が悪かった。
毒島の誘導で大勢の人たちが成田空港内を歩いている。まるでハーメルンの笛吹きだ。才華はバスに乗り込むと窓を開けた。何だか息苦しかった。
バスから飛行機までは、そんなに時間が掛からなかった。
飛行機の搭乗ゲートを歩くと、毒島が立っていた。
「こちらの書類にご記入をお願いしまーす」才華は毒島と目が合った。毒島は軽く会釈すると、後ろの人に書類を渡した。
才華は書類を眺めた。中身は契約書だった。才華はあまり中身を読まなかった。どうせ死んだら終わりでしょう。ただ、賞金は税金が免除されるという項目だけ読んだ。最後の方にアンケートが書いてあった。
(どうしてお金が欲しいのか?)才華は「妹の心臓移植のため」と書き込んだ。
契約書に名前を書くと、才華は考えた。本当に後戻りはできない。みんなの顔が浮かんだ。両親、夢佳、美和、浩二。まぁ、浩二は要らないか。あいつは腐れ縁って奴だから。
飛行機の座席に座ると、隣に女性が座った。二十代くらいのメイクの濃い女性だった。その人は鼻歌を歌っている。聞いたことのあるメロディーだったが、何の曲かは分からなかった。
飛行機が飛び立つと、才華は窓から空を眺めていた。実は生まれて初めて飛行機に乗った。雲の上を眺めるのは、とても心地が良かった。
才華は少し眠ることにした。少しでも休憩を取った方が良いと判断したからだ。才華はすぐに眠った。だが、突然、機内で大きな声が聞こえた。
「皆さーん、書類は書きましたか」毒島がマイクで喋りだした。
「今から書類を受け取りまーす。では、前の方から」別のスタッフが書類を集めて回った。
「今から大事な話をしまーす」
毒島はテンションが異常だった。才華はうるさいなと思ったし、睡眠の邪魔だった。
「大事な、大事な、ルールを説明しまーす」毒島の目が冷静になった。
>>登場人物
鈴木才華17歳
毒島?歳
>>設定資料
DoomsDayその①。ドゥームズデイは大規模な賭け事であり、様々な事柄が賭けの対象となる。誰が優勝するのか、誰が最初に死ぬのか、誰が最初に逃げ出すのか、など状況に応じて賭け事が成立する。一日に動くお金は三兆円とも言われる。
DoomsDayその②。ドゥームズデイの運営は絶大な力を持つ。世界中の権力者、セレブや富豪が後ろ盾になっている。




