17.優しさ
才華は息を切らしながら大田の後ろを走っている。大田は後ろを振り返ると、走るのを止めた。腕時計を見ながら才華のもとへ歩み寄った。
「歩こうか」
「はい」
「疲れた?」
「はい」
才華は座りたい気分だった。体中が悲鳴を上げている。しかし、歩みを止めることはなかった。
「人が死ぬところを見たのは初めてか?」
「はい」
才華は再びあの時を思い出し、気持ちが悪くなった。青白い男の顔が目の裏に焼き付いていた。才華はなるべく考えないようにと空を見た。
空を眺めていると、才華は少し気分が良くなった。(みんなは今頃、何をしているかな?)(私は家出少女になっているんだろうな)
才華は笑った。
「お、笑ったな」
「私、やれるのかな? 迷惑じゃないですか?」
大田は考えた。才華は優しい子だ。だが、問題はそこにある。人を殺せるのか。この子には無理なんじゃないのか。俺は選択を誤ったのか。考えても答えは出なかった。
大田は無言だった。
「そうですか」
才華は落ち込んだ。私は邪魔なのかもしれないと思った。
「まぁ、まだ序盤だ。考える時間はある」
「はい」
才華は上の空だった。
大田は地図を眺めた。学校までかなりの距離がある。(まだ十七歳の少女だ。どうすれば良い?)(妹のことがなければ、この子は普通に学校へ通っていたはずだ)(俺が十七の時なんか鼻水を垂らしてたぜ)
大田は悩んだ。
「才華ちゃん。スナイパーライフルの欠点が分かるか?」
「そうですね。大きくて扱いづらいとか?」
「そうだな。女性には扱いづらいかもしれないが、まず一つは連射が利かないことだ。二つ目は、近距離戦では戦いづらいってことだ」
「だが、欠点を補えばとても強い武器になる。三つ練習しよう。一つ、すぐに弾を込める。二つ、常に相手と距離を取る。三つ、風を読む。質問はあるか?」
「私、弓道部なので風読みは得意です」
「弓道部なのか? それは良い話だ。試しにあの建物の窓を狙ってみろ」
「はい」
才華はスナイパーライフルを構えると、スコープ越しに窓を狙った。ゆっくりと引き金を引いた。タンという音とともに建物の窓が割れた。才華は急いで次の弾を込めた。
「合格だ。でも、才華ちゃんの一番の問題はメンタルだ」
「十七歳の君に人を殺すことができるのか?」
人の命か。才華は人を殺すのが嫌だった。何を言われようとも、殺すのは嫌だった。しかし、考えを改めないと優勝するのは不可能だった。(大田さんはなぜ簡単に人を殺すんだろう? いや、大田さんも簡単ではないのかも。私には大義名分がある。だけど、そのために人を殺しても良いのだろうか?)
「大田さん、私はどうすれば良いのでしょうか?」
「俺には分からないよ。でも、才華ちゃんは優しいんだ。それは本当のことだ」
大田は才華から目をそらした。
「ここが分かれ道だ。人を殺せないのなら家に帰るんだ」
>>登場人物
鈴木才華17歳
大田六三郎49歳
>>設定資料
L115A3。ボルトアクション式の大口径スナイパーライフル。射程距離は1,500m。弾はマグナム弾。




