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拠点

「この神社のご祭神でもある天照大御神(アマテラスオオミカミ)は神々の中でも少し特別なんです」

手水舎(てみずや)から拝殿へ向かう途中に椿嬉が言った。

参拝の途中でよくこうやって神話に関する話をしてくれる。


天照大御神(アマテラスオオミカミ)伊耶那岐命(イザナギノミコト)伊邪那美命(イザナミノミコト)の子の一人であり、高天原(たかまがはら)を統治しています。

私達がいるこの地上は葦原中国(あしはらのなかつくに)と言い、高天原(たかまがはら)は天上にあるとされています」


葵亥は古事記の内容を思い出しながら聞いていた。

高天原(たかまがはら)とは神々の国で、そこを統治するのが天照大御神(アマテラスオオミカミ)だ。

また我々のいる世界が葦原中国(あしはらのなかつくに)と呼ばれ、死者の国は黄泉(よみ)の国と呼ばれる。


「そして葦原中国(あしはらのなかつくに)の神は(くに)(かみ)、高天原の神は(あま)(かみ)と言います。

天照大御神(アマテラスオオミカミ)高天原(たかまがはら)を統治する天つ神の中でも特別な神なのです。

太陽神や皇祖神などとも呼ばれています。

天照大御神は天岩戸(あまのいわと)隠れの話でも有名ですね。

太陽神である天照大御神が岩に隠れてしまったとき、光がなくなり世界は闇に包まれたということです。

光が無くては作物も育ちませんから、太陽や恵みの神としても天照大御神を祀る神社は多いんです」


葵亥と菊守は椿嬉の話を黙って聞いていた。


普段は普通の女の子らしい椿嬉だが、國造りの儀の時の語りには巫女らしい雰囲気があった。


仕事と私生活でオンオフを切り替えられるタイプのようだ。


「神社でのお祈りの基本は感謝と祈りです。

与えられた恵みに感謝して、これからもその恵みが与えられる事を祈ります。

平和や健康、豊作などでも良いです。

さあ、話しているうちに拝殿へ着きました」


椿嬉、葵亥、菊守の順にお祈りする。


「お二人とも、参拝するの慣れてきたみたいですね」


椿嬉の言葉に葵亥が頷いて応えた。


「最初は参拝の作法に気を取られていたんですけど、最近はしっかり体で覚えてしまったので、いちいち考えなくてもできるようになりました。

そのおかげで、色々なことに気が向けられるようになってきました。

正直、初めの頃はただ形式的にお参りしていたという感じでしたけど、今はもう参道の真ん中は歩く事ができないくらいになってます」


「ふふっ。真面目ですね」椿嬉が微笑んで言った。



社務所に行くと導仁と五姫婆が中で茶を飲んでいた。

今日は雪笹は居ないようだ。


「五姫婆、私たち葉香園に行ってくるわね」

椿嬉が声をかけた。


「あ、そうそう。

あの拝殿前の池のところに生えている細い竹みたいな草、あれは五姫婆が植えたのですか?」菊守が五姫婆に尋ねた。


「あぁ、あれか。あれは砥草(トクサ)って言うんだよ。

あたしがここに来たときにはもう池の周りに生えてたんだよ。あれがどうかしたのかい?」


「いえ、変わった草だなと思っただけです。

でも池と太鼓橋にぴったりでいいですね。

見飽きないです」菊守が言った。


「かわいい草だろう?」

五姫婆の言葉に思わず葵亥と菊守は顔を見合わせた。


「こっちだったか」葵亥は思わず呟いた。


「何だい?」


「あ、いえ。葉香園に行ってきます」



◇◇◇


葉香園につくやいなや茶を飲んでいた義巳が葵亥達に手招きした。


「菊守殿、導仁殿、椿嬉殿、お久しぶりです。

葵亥、ちょっとこっちに来てくれ」


葵亥たちは義巳と一緒に席に着いた。


「義巳叔父さん。

この間の件ですがあの男たちの事は何か分かりましたか?」


「少し分かってきた。尊皇派の真朝隊(しんちょうたい)と名乗る者達だ。

私たちに夜襲を仕掛けてきた者と同じだ」


「あの男達は葉香園を手に入れたいようでした。

目的は何だったのですか?」


「そこなんだが、あの三人組は目的を知らなかったようだ。

つまり上からの命令でこの建物を奪いに来た下っ端だった」


「では真朝隊がなぜ葉香園を買い取ろうとしていたのか分からないままなんですか」


「そういうことになる。

しかし色々と調べてみて分かったこともある。

京の都の建物は古いものが多いんだが、この建物も百年前には既にこの場所に有った事が分かっている。

そしてその頃、この建物は真朝隊の拠点として使われていた。

とは言ってもその頃真朝隊は一度ほぼ壊滅している。

それが近年また再結集したようだ。

当時の拠点としていたこの場所をまた手にしたかったようだが、なぜここにこだわるのか、それは分からない。

とにかくまだ調査中ということもあるし、葉香園の警備は引き続き行うことになる。

葵亥も用心してくれ」


「分かりました」


「それと、お前に一つ仕事を頼みたい」


「どんな仕事ですか?」


「月に数回、道場で剣術指導の仕事を任せたい」


「剣術指導?…義巳叔父さん、それ需要あるんですか?」


「もちろん。この間の件が噂になってあちらから声をかけてきたんだ。

それに京の都では将軍家の事をよく思っていない人も多いからこれはいい機会だ。

明日の午後、一度ここへ話を聞きに行ってくれ」


義巳が道場への地図を差し出した。


「分かりました。とりあえず行ってみます」


葵亥が地図を懐にしまうと、義巳は茶を飲み干し出て行った。


「葵亥殿は一人で三人組を相手にしたんですか。

葵亥殿の勇姿、私も見たかったです」

菊守はとんでもない事を言う。

そんな場面に皇族がいて良いはずがない。

居なくて幸運だった。


「菊守様、とんでもないです。私はあんなのはもう御免ですよ」

椿嬉が腕組みをして少し怒ったように言った。

「葵亥様ったらドヤ顔でしたよ」


「それは本当ですか?

椿嬉殿、そこのところもう少し詳しくお願いします」

菊守が面白がって椿嬉に言う。


「⋯してないです、ドヤ顔」

困ったことに菊守も冗談が上手くなってきたようだ。



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