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変な草

架橋神社の木々は葉も散らないくらいもうすっかり裸になっている。

掃き掃除も必要ない。


参拝者のほとんどいない神社で、葵亥はまた座り込んで絵を描いていた。


池とそこに架かる太鼓橋を描き終えた頃、丁度後ろから砂利を鳴らして誰かがやって来るのが聞こえた。


葵亥が振り返ってみると菊守だった。


「おはようございます。導仁殿は社務所ですか?」

葵亥が声をかけると菊守が横に来てしゃがみ、絵をのぞき込んだ。ふわりと白檀の香りがした。


「ええ。導仁殿は寒いからとさっさと社務所に入ってしまいました。

今日は太鼓橋の絵ですね」


「太鼓橋がただの飾りではないと知ったら急に気になってきてしまったんですよね。

それでとりあえず絵に描いてみたんです」


「分かります。

私も今まで気にもとめていなかったいくつもの物が、最近では視界にくっきりと見えてきた感じがします。

今までただの景色の一部、というより、背景の一部だったものが、ちゃんと役割を持って前に出て来たというか」


葵亥は菊守の上手い言いように感心した。

「上手い表現ですね。本当にその通りです」


「ところで、これは何でしょうか。面白い草ですよね」


菊守が池のすぐ脇に生えている細く真っ直ぐ伸びた緑色の植物を指さして言った。

竹をすごく細く小さくしたような、スギナにも似た見た目の草だ。


「竹に似てますけど、細すぎますし、葉っぱも付いてないし、なんだか変な草ですね」葵亥が言った。


「これはわざわざここに植えてある感じですよね?

もしかして、太鼓橋のようにこの草にも何かの意味があるでしょうか?」


「確かに、意味があるのかもしれませんね」


「椿嬉殿ならこの草を可愛いと言いそうじゃないですか?」

菊守がくすくすと笑いながら言った。


それを聞いて葵亥も確かにそうかもしれない、と思った。


椿嬉は四角い百度石とか、ずんぐりした栗きんとんとか、厳つい狛犬の顔を可愛いと思っている。


葵亥にはよく分からない感性だ。


「ははっ、確かに言いそうですね。

椿嬉殿の可愛いの基準は謎ですからね」

葵亥も思わず笑ってしまう。


「何か私の悪口言ってる人いませんか?」


葵亥と菊守の背後から急に椿嬉の声がして二人とも飛び上がった。


「「椿嬉殿!」」


葵亥は眠っていても侵入者に気が付く程人の気配に敏感なのに、椿嬉が近づいて来た事に全く気が付かなかった。


こういう時には感覚が鈍くなってしまう謎の力が働いているのではないかと思うほどだ。


「悪口では無いです、決して」菊守がとても言い訳がましく聞こえるセリフを言った。


「そうです、噂してただけですよ」葵亥は何とか誤解を解こうとして余計な事を言った気がする。


「それで、私が何なんですか?」

椿嬉も葵亥の横にしゃがんだ。


ふわりと爽やかな、それでいてほのかに甘い香りがした。椿嬉の持っている香袋の香りだろうか。


「あ、太鼓橋の絵を描いていたんですね」

椿嬉が絵をのぞき込んだ。


「はい、それで、この竹みたいな草が気になりまして。

もしかしてこれにも何か意味があるのでは無いかと葵亥殿と話していたんですよ」


「意味?意味なんてないですよ。

ただ池の近くにあるといい感じに見えるから植えてあるだけでしょうね」


「なんだ、ただの鑑賞用ですか」葵亥はなぜか少しだけ残念な気がした。


「ふふふ、お二人とも深読みしすぎですよ」


「では椿嬉殿、この草を見てどう思います?」

菊守が最後の期待を込めて椿嬉に聞いた。


「どうって、何がですか?」


「この草、かわいいと思いますか?」

今度は葵亥が単刀直入に聞いた。


「この草ですか?」


椿嬉はその細く伸びた竹のような草に手を伸ばして触ってみた。


その様子を葵亥と菊守が固唾をのんで見守る。


すると椿嬉は草からさっと手を引っ込めて立ち上がった。


「変な草!」


葵亥と菊守は期待していた反応と違いお互いに顔を見合わせた。


「さて、参拝行きましょう」

椿嬉はそう言うと葵亥と菊守を置いてすたすたと鳥居の方へ歩き始めた。


葵亥と菊守はのそのそと立ち上がった。


「変な草、か」

菊守が椿嬉の背中を見つめながらぼそりと呟いた。


「これは違うのか…。難しいですね」

葵亥もまだ納得がいっていなかったが、菊守と一緒に椿嬉の後を追った。



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