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架橋神社

翌朝、義巳(よしみ)に連れられて葵亥(あおい)がやってきたのは、都の東の端の方にある小さな神社の前だった。


架橋(かきょう)神社』という看板が立っている。


鳥居の横の木は見事なほど赤く色付いて、地面にもその葉を落としていた。


京の都での滞在先である屋敷から神社までは歩いてもそんなに時間はかからなかった。


義巳に道を覚えるように言われたが、京の都の道は噂に聞いていた通り碁盤の目のようにきれいに区切られていて覚えやすい。


「よかった。まだいらっしゃっていないようだ」

義巳が周りを見て言った。


少し待つと向こうから歩いて来る二人の人影が見えてきた。


まさかとは思いながらも葵亥が目をこらして見ていると、そのうちの一人は昨日宮廷で会ったばかりの菊悌(きくてい)親王だ。


歩いている姿だけでもとても美しい所作に見えるお方だ。


しかし、皇族というのは輿(こし)に乗って移動するものだと思い込んでいたので、正直驚いた。


ふと横を見てみると、義巳も少し驚いた表情をしている。


菊悌親王たちは葵亥たちの近くまでやってくると、うれしそうに微笑んで声をかけてきた。

「義巳殿、葵亥殿」


葵亥と義巳は丁寧にお辞儀し挨拶を交わした。


「菊悌様。…まさか歩いて来られるとは思いませんでした」


葵亥は思わずそう言ってしまってから、ちょっと失礼だったかなと思ったが、当の菊悌親王は全く気にしていない様子だった。


「ははっ。私は自分で歩くのが好きなんですよ」


菊悌親王はどこか楽しそうだ。


親王の連れの人物はその様子をおもしろがって見ている。


この人物は葵亥や菊悌親王より少し年上に見える。


葵亥の視線に気がついて菊悌親王が連れを紹介した。

「こちらは私の護衛です」


「菊悌様の護衛の咲倉導仁(さくらみちひと)です」


護衛の道仁は確かに強そうだ。おまけに男前だ。


「導仁殿」

葵亥が確認するように名前を言うと、導仁が笑顔で頷いた。


そして導仁は義巳の方へ向き直り軽く礼をした。

「義巳殿、久しぶりです」


「お久しぶりですね、導仁殿。お元気そうで何よりです。なるほど、今は菊悌様の護衛をされているのですね」

義巳も丁寧に礼をした。


「はい。護衛と言うより雑用みたいなものですけどね」


おや、と菊悌親王が神社の方に目をやった。

「ちょうど巫女も来たようですね」


菊悌親王の言う通り、神社から巫女が一人、鳥居をくぐってこちらにやって来る。



◇◇◇


「菊悌親王と気織(けおり)葵亥殿だね。付いておいで」

貫禄のある巫女だと思った。


こういう老女には逆らわない方がいいと葵亥は知っている。


巫女に連れられて鳥居をくぐり神社の中に入っていく。


外から見た通りの普通の小さな神社だ。

銀杏の木が何本かあり、そこだけ黄色がぽっかり浮いたように見える。


そしてその銀杏の木の下にだけ、黄色い葉が砂利の上に点々と落ちている様子は風情がある。


拝殿(はいでん)の手前に池が有り、太鼓橋が架かっている。


「あたしはここでいちばん古株の(みちび)きの巫女だ。あたしのことはみんな五姫婆(いつきばあ)って呼んでる」


五姫婆に連れられて社務所の前まで来ると、若い巫女が立っていた。


「あんたたちの祭祀にはあたしじゃなくてこの子が立ち会う事になる」


「私は導きの巫女、稗田(ひえだ)椿嬉(つばき)でございます」


艶のあるきれいな黒髪の巫女だ。


長い髪は後ろで束ねられ、さらりと背中に落ちている。

吸い込まれそうな黒い瞳がとてもきれいで神秘的な雰囲気をまとっている。


椿嬉の後に続いて皆が名乗りあいさつすると、五姫婆が言った。


「この子も最近ここへ来たばかりだから、國造(くにづく)りの儀は今回が初めてだ。まあ皆仲良くやりな。

椿嬉、これが想殿(そうでん)の鍵だ。あとは教えたとおりやっておいで」

五姫婆が古びた鍵を椿嬉に手渡した。


「これから皆様を國造りの儀を行うための場所へお連れします。どうぞこちらへ」



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