焼芋
葵亥が椿嬉と四葉を連れて神社へ戻ると既に火がおこしてあった。
失礼ながら菊守と導仁では心配だったのだが、ちゃんとできたようだ。
「じゃ、薩摩芋を焼いていきまーす」
導仁が手際よく火の周りに芋を置いていった。
しかしどうも雪笹からめらめらとしたオーラを感じる。
なんだか怖い。
「導仁殿がまた雪笹殿を怒らせたんです」
菊守が葵亥の隣に来て耳打ちした。
「いったい何をしたんです?」
葵亥が聞くと菊守は困った顔をした。
「香袋のお返しにと輪島塗の金蒔絵の櫛を渡そうとしたんですが、雪笹殿はそんな高価なものは要らないと突っ返してしまったんです」
「そ、それは大変ですね」
櫛は導仁が雪笹のために真面目に選んだものだろう。
葵亥は少し導仁に同情した。
「高価な贈り物は人を怒らせる可能性があるみたいです。
私たちも気をつけましょう」
菊守が椿嬉の顔を伺いながら言った。
「そうですね」
葵亥は椿嬉に何を贈るのが正解なのか分からなくなったので、しばらくこの件は考えるのをやめることにした。
そのうち何か思いつくだろう。多分。
椿嬉と雪笹と四葉は三人で話していた。
葵亥と菊守が近づいて行くと、四葉が声をかけてきた。
「あの、菊守様は宮廷のお役人をされているんですよね?
桜仁親王をご覧になったことはありますか?
とっても素敵な方だという噂なんです」
四葉の言葉を聞いたとたん、雪笹は何も飲んでいないのに盛大にむせてしまい、菊守が笑い出した。
葵亥は桜仁親王には会ったことがないのだが、菊守からすれば兄にあたる存在なのだから笑えるのも分かる気はした。
「すみません。そんな噂を聞いたのは初めてだったもので、ついつい面白くて。
桜仁様なら何度かお会いしました。
素敵な方だと思いますよ。女性にも結構モテますね」
そう言ってまたくっくっと笑っている。
「四葉、あんまり宮廷の事は聞いちゃだめでしょ。
菊守様だって答えにくいわよ」椿嬉が助け舟を出してくれた。
「そうね。いけないいけない。
そういえば明日から三日間限定で、葉香園で出すお茶菓子に尾木の国で有名な栗きんとんのお菓子もお出しできるんです。
いつもお饅頭を仕入れているお向かいの春栄堂さんが、栗が手にはいると作ってくれるんですよ。」
「栗きんとんですか。ぜひ食べに行きます。
こちらではあまり栗きんとんは食べないんですか?」
「甘煮のものはありますけど、尾木の国の栗きんとんみたいなのはあまりないですね」
「そうなんですか?」
「私も行くわ。栗きんとん食べに。雪姉もいくでしょ?」
椿嬉が言うと雪笹はもう導仁の件は忘れたのか笑顔で頷いた。
「もちろん。春栄堂さんのお菓子は美味しいもの。」
「雪姉は社務所でもたまに一人でこっそり食べてるわね。」
「知ってたのね」
「私の湯呑み割ったでしょう?」
「あ、えっと…そんなことも、あったかしら?」
「あれ気に入ってたのに。まあいいわ」
「今度代わりを買ってくるから」
「もう一つあるからいいわよ。
でも不思議よね、値引きの掘り出し物で適当に選んだやつが全然割れなくてずうっと棚に残ってるのよ。
大切なものはすぐ壊れちゃうのに」
「あ、この辺りならそろそろ食べられそうですよ?」
導仁が焼き芋奉行をしている。
葵亥と菊守か遊んでいる間にちゃんと火の面倒を見ていてくれた。
「はい、四葉殿。椿嬉殿」
導仁が手拭いに包んだ焼き芋を女性たちに配っていく。
「ありがとうございます!わー!ほくほくしてる!」
四葉が嬉しそうに芋を二つに割った。
湯気が立ってとても美味しそうだ。
「これは雪笹殿と、五姫婆の分です。はい、どうぞ」
社務所の中にいる五姫婆の分もちゃんと用意していた。
二人分の焼き芋を満面の笑みで雪笹へ手渡している。
導仁は全然めげていない様子だ。
雪笹は小さい声でありがとうございますと一応のお礼を言い、五姫婆の芋を持って社務所の方へ行ってしまった。
「葵亥殿、菊守殿。はいどうぞ」
「ありがとうございます」
葵亥は礼を言って焼き芋を受け取った。
二つに割ってみると湯気が立ち、優しく香ばしい芋の香りがした。
「いい匂いですね」
菊守も葵亥と同じようにして芋を割っていた。
「あ、菊守殿。熱いので気をつけてくださいね。やけどしますよ」
「あつっ!!!」
葵亥の忠告は手遅れだった。




