表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚界少女  作者: sara
虚界呼唤
25/74

救贖

  「あなたは虚界の少女なの?」遠山凛は鞠子の手元に浮かぶ印を見つめながら尋ねた。


  「どうして虚界の少女のことを知っているの?もしかして、あなたも虚界の少女なの?」鞠子は遠山凛の右手を見つめたが、そこには黄い印が見当たらなかった。黄印が消えた虚界の少女は決して生きてはいられない——なのに、目の前の遠山凛は無傷で立っている。それは、彼女が虚界の少女ではない証拠だった。


  「あなたは虚界の少女じゃないのに、どうやって虚界に入れたの?」と鞠子は問いかけた。


  「それは長くなる話だけど、とにかく急いで何とかしてあなたを救わなきゃ!」そう言って、遠山凛は鞠子の手を引き寄せようとしたが、その瞬間、自分にも何もできないことに気づいた。印は彼女に『蝕刻の姬』を探す能力だけを与えてくれたものの、虚界の少女を救う手段までは与えていなかったのだ。さらに、鞠子の頭には厚く包帯が巻かれていることに気付いた。


  「宮野さん、あなたの頭……?」


  「そんなことより、放っておいて!」鞠子は素早く手を引っこ抜くと、今度は自分の頭を押さえながら言った。「私なんか、あなたに助けられる資格なんてない。こんな人間、救われるべき存在じゃないの!」


  「なぜ?一体何があったの?」と遠山凛は困惑しながら尋ねた。


  「『王』から頼まれて、あなたと蕭珊雅さんを殺すように命じられたの。それが、私の二度目の命を与える方法だって言われたから……誘惑に負けてしまった……」


  鞠子が打ち明けた衝撃的な事実に、遠山凛の胸は激しく揺さぶられた。これまでの鞠子の温かな行動が、実は自らの殺意を隠すためのものだったという事実に、彼女は言葉を失った。


  そう言うや否や、鞠子の手から再び一握りの砂がこぼれ落ちた。それはまるで、彼女の命がもうすぐ尽きようとしていることを告げるかのようだった。鞠子はそっと背を向け、遠山凛に自分の惨めな姿を見せまいとするかのように。


  「遠山さん、もういいから。あなたと出会えて本当に嬉しかった。あなたは本当に優しい人よ。最後にひとつお願いがあるの。私がこの世を去った後、優子ちゃんのこと、よろしくね。」鞠子の声は震え、すでに諦めの色が濃かった。それは、彼女にとって最後の言葉だった。


  もうすぐ命が尽きようとしている鞠子の前で、遠山凛は何も言えずに立ち尽くしていた。しかし、彼女はただ黙って鞠子が消えてしまうのを見届けるわけにはいかなかった。これまで何度も目の前で多くの命が消えていくのを見てきた彼女は、思わず鞠子の肩をつかんで振り向かせると、力強く叫んだ。


  「あれは『王』があなたに強制させたことでしょう?彼女は、あなたが生きたいという気持ちを利用して、こんな望まない行動を取らせたんです!」


  「でも……私は美空まで殺しちゃった。あの時、彼女は生き延びるために私を襲ってきたから……だから私は……」鞠子は泣きながら、さらに別の衝撃的な事実を打ち明けた。


  「それもまた『王』の策略でしょう!彼女はあなたと美空の、生きたいという気持ちを利用し、この殺戮ゲームに参加させたんです!あなたも美空も、本当は被害者なんですよ!」


  「絶対にあなたを救います!そして、もう一つ決めました!」遠山凛は真剣な眼差しで鞠子を見つめ、力強く宣言した。


  「何を決めるの?」


  「『王』を倒すことです!」


  遠山凛のその発言に、鞠子は思わず立ちすくんでしまった。目の前の少女が勇敢なのか、それとも傲慢なのか、彼女には判断がつかなかった。王の姿を見たことはないが、その力は常人では到底抗えるものではない——そんな予感が、彼女の中に確かにあったからだ。


  「もしもこの戦いを『王』が仕掛けているのだとしたら、『王』さえ倒してしまえば、こんな底なしの殺戮はもう二度と起こらないはずですよね!」


  遠山凛の言葉は理にかなっているのに、なぜか鞠子は、彼女が自分を救えるとも、王を倒せるとも信じられなかった。ゆっくりと口を開き、こう尋ねる。


  「救う……私を……そして……王を……倒す……それが本当にできるのかしら?」


  「やってみなければ、できるかどうかなんて分からないでしょう!絶対にあなたを救いますから!」


  そう言うやいなや、遠山凛が握る刻印から、これまで見たこともないほど眩しい光が一気にほとばしった。その光の中には、まるで聖なる天使の羽根が舞い降りてくるかのような輝きさえ感じられた。さらに、彼女の胸元から巨大な光の球体が湧き上がり、鞠子を完全に包み込んでしまう。


  光に照らされ、鞠子の心はかつてないほど穏やかな安らぎに包まれた。すると、頭に生えていた角が徐々に小さくなり、ついにはすっかり消え去ってしまった。同時に、頭に巻かれていた白い布も地面に落ちてしまう。


  彼女の生命力が目に見えて回復し始めると、今度は手の甲に、無限と再生を象徴するメビウスの輪の紋章が浮かび上がった。しかし、それは瞬く間にまた手の甲へと溶け込み、跡形もなく消えてしまった。


  宮野鞠子、彼女は確かに生まれ変わっていた。手の甲に残っていた黄色い印も、王の殺戮ゲームから解放された証として、すっかり消え去っていたのだ。


  天使の羽根は次第に小さくなり、遠山凛はそっと手元の紋章に目を落とした。すると、そこには以前の元素の記号に加え、新たに一対の羽根が描かれていた。


  「私……これって……治った……のかしら?」


  体内に再び満ちる生命の力を実感しながら、鞠子は信じられない気持ちでつぶやいた。


  「間違いなく、治ったわよ!」と遠山凛は嬉しそうに答えると、そのまま鞠子をギュッと抱きしめた。


  「宮野さん、よかった!」


  突然の抱擁に、少し戸惑いながらも、鞠子は自分の命を救ってくれた小さな女の子を優しく抱き返した。


  「ええ、本当に良かった……!」


  ほんの一瞬の温もりの後、遠山凛はそっと鞠子から身を離し、再び遠くに立つ蝕刻の姫へと視線を向けた。今まさに、あの怪物は蕭珊雅と激しく闘っている最中だった。ここで自分が動かなければ、一刻も早くこの怪物を退治しなければならない。


  「宮野さん、すぐにどこか安全な場所に隠れていてください。私が向かいますから、あの怪物を倒します!」


  鞠子は慌ててその場を離れ、遠山凛は地面から聖剣を抜き放つと、素早く戦場へと駆け出した。


  二人三脚で進むうちに、ついにあの蝕刻の姫も、完全に撃破されたのだった。


  すぐに鞠子の元へと駆け寄った遠山凛は、彼女に優しく語りかけた。


  「宮野さん、これからはしっかり生きていってくださいね。でも、あの怪物のことだけは、絶対に誰にも話さないでください。お願いします。」


  「……はい」


  鞠子は何かを言おうとしたが、その瞬間、目の前が暗転し、意識を失ってしまった。


  「宮野さん!」


  鞠子が再び目を覚ますと、自分が病院のベッドに横たわっていることに気づき、隣には遠山凛が立っていた。


  「遠山さん、どうして私がここにいるの?」


  「宮野さん、さっき何があったか、もうおわかりですか?」


  鞠子は呆然と首を振りながら答えた。「私は不意に気を失って病院に運ばれたみたい。それで、突然いなくなった親友のことを思い出して、悲し過ぎて貧血もあって倒れちゃったのかなって……」


  しかし、記憶はまたしても改ざんされていた。


  「先生、こちらです!」看護師さんが駆け寄り、メガネをかけた医師を連れてきた。


  「宮野さん、もう目を覚まされましたね?」


  「ええ、ありがとうございます、看護師さん。」


  「本当にびっくりしましたよ。散歩に誘ったら、突然地面に倒れているのを見つけたんです。でも、ちょうどその場にいたこの子がすぐに助けに入ってくれて、二人で一緒に病室まで運んだんです。それから、私も急いで医師を探しに行きました!」


  そのとき、医師が鞠子のベッドに近づき、静かに言った。「宮野さん、特に問題はありません。ただ少し貧血ぎみなので、今後は体調に気をつけていただければ大丈夫ですよ。」


  どうやら奇妙な力が、虚界の少女を取り巻く人々の記憶をすべて書き換えてしまったようだ。一体、こんな不思議な力を持つのは、どんな人物や存在なのだろう?


  遠山凛は、鞠子と彼女のそばにいる看護師さん、そして医師の様子をじっと見つめながら、心の中で疑問を抱かずにはいられなかった。だが、たとえ真相を知っていたとしても、あえて鞠子には伝えない方がいいと思った。


  なぜなら、鞠子は王の殺戮ゲームから無事に脱出し、あとは健やかに生き続けるだけなのだから。


  「宮野さん、これで用事が済んだら、私は帰りますね。」と遠山凛が言うと、


  「じゃあ、気をつけてくださいね。」と鞠子が微笑んで答えた。


  遠山凛は病院の玄関まで歩きながら、心の中では大きな安堵を感じていた。今回もまた、蕭珊雅と一緒に大切な命を救うことができたのだと。


  ただ、自分は虚界で蝕刻の姫を倒した後、なぜか蕭珊雅が忽然と姿を消してしまった。その後、彼女は看護師さんと一緒に鞠子を病室へと運んだのだ。


  「なぜ毎回、戦いが終わった後に蕭珊雅は姿を消してしまうんだろう?彼女は一体、何を求めているの?」と遠山凛はふと考えた。


  しかし、そんな謎は解けなくても、彼女はこの神秘的なパートナーに対して、どこか不思議な信頼感を抱いていた。それはまるで、かつて祖母が語ってくれた言葉を思い出させるようなものだった——「同じ道を歩むのは、ただの仲間だ。違う道を歩みながら、手を携えて進む者こそ、真の友だ。」と。


  たとえ蕭珊雅の目的が何であれ、少なくとも蝕刻の姫との戦いにおいては、彼女たちが最強の味方として肩を組んで戦っていることは確かだった。


  同時に、遠山凛は心の中で固く誓った。必ず闇の中に潜む王を見つけ出し、その手にかかる無意味な殺戮ゲームを止めることを——


  街の反対側、薄暗い路地で、蕭珊雅は現実世界へと戻った。彼女は自分の手の甲に残る、すでに色あせてしまった印を見つめながら、自分だけに聞こえる声で冷たく言った。「また空振りか、あの怪物よ。必ずお前を見つけ出してみせる。絶対に、お前の口から姫玥の居場所を聞き出してやる!」


  突然、路地の暗がりから一筋のナイフが飛んできた。背中が一瞬冷たくなるのを感じた瞬間、蕭珊雅は素早く振り返った。すると、血まみれの赤いナイフが目の前に迫っているのが見えた。刀柄も刃も真っ赤で、まさに喉元めがけて突き出されようとしている——まさに生死を分ける一瞬だった!


  だが、その危機的瞬間に、蕭珊雅の魔法書がすかさず姿を現した。それはまるで目覚めたかのように両眼を開き、氷の盾となって蕭珊雅の前に立ち塞がった。ナイフと氷の盾が激しくぶつかり合い、「キーン」という鋭い音が響く。


  ナイフは地面に落ち、蕭珊雅はまだ動揺が収まらないまま、そっとその赤いナイフに近づいていった。腰をかがめ、拾おうとしたその時——不思議なことに、ナイフは徐々に溶け始め、最後にはぽたりと赤い血となって地面に染み込み、やがて跡形もなく消えてしまった。


  一体、誰がこんなところで忍び寄り、自分を襲ったというのだろう?


  蕭珊雅は身を翻し、路地の周囲を見回した。しかし、そこは深い闇に包まれ、何の気配もない。彼女は慎重に一歩ずつ、路地の奥へと進んでいった。そしてある曲がり角に差し掛かったとき、ふと人影を発見した。即座に魔法書を操り、空中に浮かび上がらせると、その人影に向かって静かに近づいていく。


  ところが、曲がり角まで辿り着いた時には、なぜか人影はもうどこにもなかった——。


  「また見失っちゃったのか……」と、蕭珊雅は周囲を見渡してそう結論づけた。


  再び体を浮かせた状態から地面に降り立つと、近くに漂っていた魔法書を手に取った彼女は、穏やかな口調でつぶやいた。「今回も助けてくれたね。ありがとう。」


  すると、魔法書はピクッと瞬きをして、蕭珊雅の言葉に応えるように再び目を閉じ、静かに眠りについた。初めて虚界の少女となった彼女が蝕刻の姫に追われた時も、この本が駆けつけ、自らの表紙を硬く変えて盾となり、蝕刻の姫の一撃を防いだのだ。


  蕭珊雅は魔法書を手にとって優しく表紙を撫でると、それを再びバッグの中にしまい込んだ。そして路地を後にしようと振り返ったその時、彼女はふと、今度の襲撃が決して最初で最後ではない気がした。これから先もきっと何度も同じような危険に直面するだろう——だからこそ、常に細心の注意を払わなければならない、と強く思った。


  路地の一角、ちょうどマンホールの蓋の下からは、血の霧がゆっくりと蓋の穴から舞い上がり、やがて暗がりの片隅で徐々に人の形へと変わっていった。しばらくすると、黒いロリータドレスをまとった一人の少女が、ゆっくりと姿を現した。その深紅の瞳は、闇の中でも鮮やかに輝いていた。


  彼女は小さく笑い、蕭珊雅が去った方向をじっと見つめながら、静かに呟いた。「失敗した?でも大丈夫、お姉様。次はきっとあなたにお任せするわ。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ