28 チャリティーイベント
11月の終わり、貴族や豪商が集まりチャリティーイベントを開催される。
場所は王家が所持している庭園で、この日は貧富の差関係なく出入りできる。
開催費用は貴族、豪商たちが出し合っており、残ったら孤児院や治療院などの施設への寄付とされる。
ゴーヴァン公爵家もかなりの金銭を出しておりヴィヴィアの出し物は結構よい場所に確保できた。
場所がいいのと、クレイドル社の宣伝が功を奏して大盛況だった。
100部あった絵本はすぐに売り切れ、後は予約注文となる。
購入できなかった子供たちにも楽しんでもらえるように小さな絵本劇場を用意してある。
紙芝居にして、ケイト、シエル、ノエルで朗読するのだ。
ナレーションはケイトで、こぐまのジジはシエル、ルカ姫はノエルが声担当する。
「わーん、おれはダメなくまなんだ。無理だよー」
こぐまのジジ役のシエルの情けない声に、子供たちは「がんばれー」と声をあげて応援する。
「しっかりしなさい! それでも偉大な山の王の子供ですか?」
おてんば姫のルカ役のノエルはのりのりである。
「無理だよ。悪竜に勝てるわけないよ!」
「もう、いくじなし! いいわ。私だけで行くから」
「わわ、待ってよ。ルカ~」
シエルもノエルも、すごいわ。まさか、声優の才能もあるじゃないの。
ちょっと二人の可能性に夢をみてしまいそうになる。
絵本劇場は終わり、子供たちにお礼のクッキーが配られる。
レディーアンジェが用意してくれたジンジャークッキーだ。
紙の包みには2枚のクッキーが入ってある。
くまの形とお姫様の形。
「ヴィー!」
観衆の中でエレノアが手を振った。
きている衣装は地味めで、気づけなかった。
メガネですぐ気づけばよかった。
「エリー、きていたなら教えて」
別に席を用意したのに。
「ふふ、今日はチャリティーイベントよ。主役は子供と、傷病者。彼らよりもいい場所で観るなんてよくないわ」
エレノアは得意げに言った。
「あなたにこんな才能があったなんて、絵本は久々だけど見入ってしまったわ」
「後援者や、手伝ってくれた人たちのおかげよ」
悩んだが、絵本の著者の名前はそのまま自分の名前にした。
ヴィヴィア・G。
きちんと作品の持ち主は自分だとわかるようにした方がいい。
クララからの強いすすめであった。
「もっと早くくればよかったわ。絵本がもう売り切れだなんて」
残念そうに「Sold out」と書かれた貼り紙をみてエレノアはつぶやいた。
「ここまで人気とは思わなかったの。予約注文も受け付けているわ」
「なら、10部ちょうだい! うちの支援している孤児院に配りたいの」
この物語をあの子達に教えたい。
エレノアは興奮気味に言った。
「こほん」
忘れられているエレノアの付き人を見てヴィヴィアはその場に膝をついた。
「挨拶が遅れて申し訳ありません。殿下にお会いでき光栄です」
「表をあげて椅子に座りなさい。身重の夫人に膝をつけたと知れたら奴に手袋を投げつけられる」
気にしてないと言われ、ヴィヴィアはエレノアに支えられて椅子に腰をかけた。
「お望みなら投げますが」
奥で控えていたクリスが手袋を手にしていた。
「投げるな、絶対に投げるな」
嫌そうな表情を浮かべてリチャード王太子は後ずさる。
「ゴーヴァン公爵夫人が参加しているとエリーに聞いて急ぎ用意したプレゼントがある」
リチャード王太子はエレノアに目配せして、彼女は白い毛皮のマフラーをヴィヴィアの首につけた。
美しい白狐の毛皮で作られたものだ。
「もしかして先日の狩猟祭の」
「そうよ! 殿下が私に捧げたものよ」
エレノアは嬉しそうに説明した。
「いえいえ、私には勿体無いもので」
王太子が婚約者に捧げたものなら、これは婚約者が身につける者だろう。
「いいえ、私が友人にあげたいと言ったものよ。殿下も許可済み。気にしなくていいわ、もっといいものはまだ手元にあるから」
エレノアは笑った。
「遠慮せず受け取れ。エリーの話が合う令嬢はなかなかおらず、心配していたのだがお前がいてくれて安心した。これは、私からの礼だ」
「そんな、エリーならもっといい交流相手がいて」
「エリーの光学うんちくを1時間も聞いた令嬢はお前がはじめてだ」
それを聞いてヴィヴィアは首を傾げた。
てっきりあの会話は学園では普通なんだと思っていた。
ヴィヴィアの理系知識は、高校で止まっている。
それでもエレノアの話は、多分教科書のあのあたりだろうと思いながら聞いていた。
時々疑問があればエレノアが詳しくレクチャーして、行けなかった大学の講義を受けている気分だった。
まさか、あれで好感度があがるとは思わなかった。
「学園に通えなかった身、エリーの会話は学園へ通っている気分を味わえて……私も嬉しいです」
色々いいながらも最後にちゃんと伝えようとヴィヴィアは直接的な言葉を出した。
エレノアは嬉しそうにヴィヴィアを抱きしめた。
「元気な子を産んで! 生まれたらお祝いにくるわ。あなたの大好きなお菓子と、あなたの子の為に可愛い布を用意するから」
ヴィヴィアになってから友達と呼べる存在はいないと思っていた。
でも、エレノアがこうしてヴィヴィアに向き合ってくれる。
もしかしたら小説のヴィヴィアも、王都に出て彼女に会えたら変わっていたのかもしれない。
◆◆◆
チャリティーイベントは午後も続いていた。
別の場所では貴族後援の演劇があったり、貴族が作った小物類販売、貴族が支援している絵画の展示などさまざまだ。
ベザリーは修道院の出し物で、訪れた傷病者に治癒魔術を施している。
確か、お昼前に広範囲の治癒魔術を使い一気にたくさんの人を救う。小説ではそういうシナリオだった。
お昼が過ぎたのに静かである。
「きっと、アーティファクトを手に入れてなかったからだろう」
クリスはそう結論づけた。
元々彼女の魔術は大した者ではない。
今はただこまめな治療活動をするしかないのだろう。
そうなのかもしれない。
何だか、心がざわつく。
ベザリーが静かで不気味だった。
「奥様、挨拶したい方が来ていますがどうしますか?」
ケイトが声をかける。
「今は休憩中だ」
クリスがそういうが、ケイトでは押さえつけられない相手のようだ。
公爵家の方だろうか。
「ごめんなさい。どうしても挨拶がしたくて」
美しい令嬢だった。
着ているドレスから品がみてとれる。
淡いピンクの髪、ウェーブがかかっている。瞳はクリスと同じ空の瞳。
「あ、お兄様!」
令嬢は顔を明るくしてクリスの方へ駆け出し、抱きついた。




