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捨てられた悪役はきっと幸せになる  作者: ariya
第二部

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19 狩猟祭

 狩猟祭は秋の風物詩と呼ばれる程の国内の一大イベントであった。

 王室の領地内の森を利用して、潜んでいる獣や魔物を狩る。

 参加するのは貴族の令息、騎士たちが多い。

 そして貴婦人たちは彼らを応援する。彼らの無事を祈り手作りのお守りを捧げるのだ。それを受け取った彼らは、狩った獲物を貴婦人に奉げる。

 得られた獣、魔物のポイントで勝者は決まり、登壇するのは奉げられる令嬢であることが多い。


「ゴーヴァン公爵閣下だわ」


 若い令嬢たちはクリスの到来に浮き出したっていた。

 結婚したとはいえ、それでもクリスの人気は衰えることはない。

 既婚したとはいえ、どうしても自分の気持ちをお守りという形で贈りたかった。

 今、ヴィヴィアは妊娠中で狩猟祭に参加できていない。

 それならお守りくらい渡す隙はあるだろう。


「あの、公爵様。どうか受け取ってください」


 勇気を出した一人を皮切りに次々と令嬢たちが押し寄せてくる。


 それらにクリスはにこりと笑った。


「すみませんが私は既に先約済です。その気持ちは受け取れません」


 大事そうにみせるのはヴィヴィアが制作したブレスレットであった。

 金の糸、蒼の糸、白の糸で織りなしたものはクリスのイメージにピッタリだった。

 悔しいことだがセンスが良いと認めざるを得ない。


 諦める令嬢たちを横目にみながらクリスになおも近づく令嬢がいた。


「ゴーヴァン公爵様」


 ベザリー・モカ令嬢であった。

 白いレースに紅葉色のドレスは秋の色どりに相応しい。


「日頃お世話になっておりますので受け取っていただきたいです。刺繍は苦手なのですが、よくできたと自負してます」


 彼女が差し出すのは真っ白なハンカチであった。

 ハンカチにはゴーヴァン公爵家の家紋のモチーフが刺繍に施されていた。


「何度も言いますが、私には大事なお守りがあり受け取れません。どうかその想いは別の方へ」

「これは公爵様を想い刺繍したものです。他の方に譲れません。公爵夫人が来れない為、代わりに公爵様の無事をここで祈ります」


 周りの令嬢たちはひそひそと噂をする。


「公爵夫人は今回参加していないのでしょう?」

「なら受け取ってもいいのではないかしら。狩猟祭に参加した令嬢の想い程強いものはないのに」


 大事をとり参加を控えているヴィヴィアのことを指摘して、ベザリーのハンカチを受け取るくらいしてもいいのではと周りは囃し立てる。


「思い上がらないことです」


 その言葉には苛立ちがみてとれた。


「私の妻の想いが他の者に負ける訳がありません。現に私は今日はやる気に満ち溢れています」


 クリスははっきりと声に出していった。

 それに令嬢たちは震えて、そそくさと視線を逸らす。


「モカ令嬢、確かに私はあなたの奨学の面倒をみています。仕事の斡旋も……多少のことは大目に見ていましたが、今回ばかりは不愉快だ」

「申し訳ありません。ですが、この森は公爵様が昔怪我をした場所だから……心配で」


 さりげなく自分がクリスを救った少女だとベザリーは誘導しようとした。


「余計なお世話です」


 はっきりとした拒絶の言葉。


「私の為に傷を負ったようなので治癒魔術師を手配しましょう。あなた程の能力者であれば必要ないでしょうがね」


 ベザリーの傷だらけの手に関して暗に言っている。

 治癒魔術である程度綺麗にすることができるだろうに、それをせずクリスに見せびらかすなど何という神経だ。


「治癒魔術は安易に使用できません」

「ですが、ここは狩猟祭が行われる場所です。何かと土ほこりが舞うこともある。獣の血にも触れてしまうかもしれない。手はある程度清潔を保てるように治癒した方がいいでしょう」


 クリスの言葉にベザリーはうぐっと口ごもった。

 彼の言っていることは間違いではない。


 ここに参加するというのであればある程度のリスク管理はすべきなのだから。


 クリスはガエリエ卿に声をかけて、彼女を治癒魔術師たちがいるテントへ案内させた。


「あれが、ベザリー・モカ令嬢ねぇ」


 後ろから声がしてクリスが振り向いた。

 クリスと同じ世代の黒髪に空の瞳の青年が立っていた。

 全く雰囲気の異なる二人であるが、よくよく見てみると共通点がみられ兄弟ではないかと疑う程である。


「殿下にはご機嫌麗しく」


 リチャード・アルバニウム。

 この国、ブライタン王国の国王ルキウス3世の長子にして、王太子であった。

 拝礼するクリスに彼は笑って制した。


「今日の私は王太子の身は忘れ純粋なる宿敵としてここにいる」


 そして彼は右腕をみせた。彼の右手首には編み物のブレスレットが。

 クリスとは別のデザイン、色合いのものである。


 宣戦布告だ。


 クリスは対抗するように自身の右腕をみせた。

 周りの参加者たちは遠巻きに見ている。何を話しているかはわからないが、きっとライバル心剥き出しでお互い牽制し合っているのだろう。

 傍にいた騎士から見ればどうみてもお守りの自慢大会であるのだが、世間ではまだまだ二人は不仲とされている。

 王妃も来ている手前、気軽に話すのはできないのだろう。


「母上が、『シュヴァルツ』を連れてきている」


 ぼそっとリチャードが呟き、そのまま彼はどこぞへと言ってしまった。

 『シュヴァルツ』という単語にクリスは一瞬表情をこわばらせながらもすぐに平静を取り戻した。


 『シュヴァルツ』――王妃の実家、コンスタン公爵家の暗部組織である。

 一部の者たちしか知らない組織で、諜報、暗殺部隊として暗躍している。


 あまり大々的には報じられないが、コンスタン公爵家は建国時には多大な貢献をしている。

 コンスタン公爵家の祖――騎士アルウィンは表向きは執政でアルトス王を支えたことになっている。

 裏では諜報により敵の動向を事前に察知して動くことができた。彼らがいなければアルトスが命を落とす場面はいくらでもあったことだろう。


 クリスがその組織に警戒しているのは、昔彼らの手で死にかけたからだ。

 12歳の頃、父を無くしたばかりの公爵家主人として参加させられた。その時に『シュヴァルツ』に消されそうになった。

 木の陰で隠れていたが毒にやられて助けを求めようにも間に合わない。絶望しているときに現れたのがヴィヴィアだった。


 彼女の言葉がどれだけクリスをこの世に繋ぎ止めてくれたか。

 

 昔の記憶に想いを馳せていると、国王夫妻の登場したようで場は盛り上がった。

 高台に上がった国王ルキウス3世は挨拶とはじまりの合図があがる。


 参加者たちは武具を手に馬に乗り森の奥へと駆け出した。


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