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捨てられた悪役はきっと幸せになる  作者: ariya
第二部

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15 動向観察



 ベザリーの部屋は館の隣にある別館に配置された。


 本館のモリス秘書官の部屋近くをはじめは予定していたが、ベザリーが黒幕と接触しやすい程度の自由は必要だと判断された。


「ベザリー様、お食事をお持ちしました」


 ベザリーは部屋のソファに腰をかけて涙を流していた。くすんくすんとすすりなく声もか弱く切なく感じられる。

 メイドは慌てて彼女のそばで膝をついた。


「私、夫人に嫌われてしまったかもしれません」


 せっかく準備した薔薇の紅茶を喜ぶどころか迷惑そうにしていたと語る。


「そんな」

「私が公爵様のすすめでモリス秘書官の助手に雇われたからきっと疑っているのかも。どうしよう」


 メイドはゆっくり息を吐き、ベザリーの手を握った。


「ベザリー様はお仕事の為に呼ばれたのです。やましいことはないのですから堂々としてください」

「でも、夫人が……」

「奥様は妊娠中なので気が立っておいでなのでしょう」


 しばらくしてベザリーの涙が止まる。


「さぁ、食事が冷めてしまいます」


 メイドは食事の配膳をすすめた。


「あなた、名前は確かコリンナよね」


 ベザリーの呼びかけにメイド、コリンナは嬉しそうな声をあげた。


「はい。覚えてくださり嬉しいです!」

「覚えているわよ。私があげた薔薇のローション使ってくれているのね」


 どうやらモリス秘書官の案内で館を出入りしていた時に会話した仲のようだ。


「はい、お肌のつやがよくなり愛用しています。先程は奥様の前で遠慮していましたが」

「あら、何か使っちゃいけないの?」


 ベザリーの質問にコリンナは困ったように俯いた。


「実は奥様の妊娠が判明してから匂いが強いものをつけるのは禁止されました。それに反抗した先輩が解雇されてしまい、残ったメイドたちはローションを捨てさせられました」


 思わず「ひどい!」とベザリーは叫んだ。


「いくらなんでもやりすぎだわ。個人の持ち物を捨てさせるなんて」


 ベザリーはヴィヴィアを批判した。


「私が今つけているのは隠し持っていた分です。ベザリー様の世話役になったのでこれから楽しんで使うことができます」


「また作るからなくなったら教えてね。捨てられたというメイドの分もすぐ作るわね!」


 材料はあるからというベザリーの言葉にコリンナは笑顔で応対した。

 実はコリンナはモリス秘書官に用意されたスパイである。毒のことは事前に知らされて定期的に解毒茶を飲み対策する予定である。ベザリーの動向を観察する為に、コリンナは用心していた。


 ◆◆◆


 クリスは目の前にある袋を眺めた。

 ケイトが届けに来たベザリーからヴィヴィアへの贈り物だった。


 記憶の中にある回帰前の出来事、ベザリーがヴィヴィアに挨拶した折に渡そうとして拒否されたものと同じだろう。


 あの時、すっかり洗脳されていたクリスはヴィヴィアのことを冷たいとののしるばかりだった。

 赤子の世話で夜も寝られずに不安定な日々を送っていたヴィヴィアに何ということをしてしまったのか。


「ヴィヴィアはこれの内容を何と?」


 ケイトが聞いた答えにクリスは拳を握りしめた。




 精神科の薬として利用されるが、副作用にいらいらや消化器症状がある。妊娠中には胎児に心奇形を誘発するリスクがある。授乳中も、赤子への影響があり服用できない代物だ。


 回帰前のヴィヴィアはこれが何かうまく答えられなかった。ただ、授乳中の子に影響すると反射的に拒絶したのだ。


 今回はヴィヴィアは何とか抑えて、ケイトを介して受け取った。


 ――今回も拒絶して良かったのに。


 ベザリーが騒いだとしても逆に批判してやる。

 匂いに過敏な悪阻を経験したヴィヴィアに匂いが強いものを贈るのはどうかしている。


「引き続き、ベザリーのことは注意しよう」


 クリスは立ち上がり、ケイトを伴いヴィヴィアの部屋へ訪問した。


 ここ最近は夕飯はヴィヴィアの部屋で過ごしている。


「ダイニングルームまで行くのは問題ないですよ」


 ヴィヴィアは何度も言うがクリスは首を横に振った。


「夕暮れ後は廊下が薄暗い。照明があっても転んだら大変でしょう」


 クリスの心配性にヴィヴィアは苦笑いした。


 悪阻ももうほとんどなくなったので多少匂いがある料理も食べられるのだが、あっさりしたメニューで統一されている。


「明日出版社へ行く予定でしたね?」

「はい、作品の反応は悪くなくほぼ出版は確定です。色々契約について話し合いたいと招待されました。チャリティーに出すまでに間に合えばいいのですが」

「私が支援して出版を急かします」


 クリスの発言にヴィヴィアは笑った。


「そこまでしなくていいですよ」

「私が応援したいのです」


 明日の話までは何とも言えない。

 とにかく話題をそらす。


「そうだ。もうすぐ狩猟祭でしたね。参加はされますか?」


 秋になると狩猟祭がある。

 貴族家門、騎士の方々が参加して森に棲む獰猛な獣や魔物を狩り競うのだ。


 優勝者には豪華賞品があり、それを敬愛する貴婦人に贈るのが慣例になっていた。


「招待状は届けられましたが、私が参加する予定はありません。騎士団の何名かは個人で参加しますが……まさか、賞品が欲しいのですか? もしくは絵本をそこでお披露目するなど」

「あ、いえ……もしクリスが参加するならお守りを作ろうと思いまして」


 実はと、ヴィヴィアは机の上にあるものを見せた。編み物で作ったブレスレットであった。


「私はこのお腹で祭に出れませんが、クリスも参加するならどんなのが良いかなと思って」


 ブレスレットをクリスに見せながらヴィヴィアは苦笑いした。


「でも、クリスが参加しないのなら」

「参加します」


 突然の変化にヴィヴィアは首を傾げた。


「え。でも、先程」

「すみません。参加するか悩んでいたのです。今決めました。参加します」


 クリスはぎゅっとヴィヴィアの手を握りしめた。


 参加するならもう少し色々考えて作ろう。


 話している間にケイトがデザートを持ってきてくれた。


 梨のシャーベットである。


「これは、もしかしてレディーアンジェの商品では?」


 その言葉にクリスは笑った。


「これから週3はレディーアンジェのパティシエがあなたのためにデザートを作りに来てくれます」

「そこまでしなくていいのに。彼もお店を切り盛りしながらは大変でしょう」

「他でもないあなたのためならと彼は喜んで来てくれましたよ」


 何故そこまでしてくれるのだろうか。


「もしかして私は彼に会ったことある?」


 ヴィヴィアがそれとなく聞いてみる。

 クリスは頷いた。


「彼も元はルフェル子爵家のシェフだった。シシリア嬢の我儘に振り回されて、彼も毒を飲まされた」

「シシリアの我儘というのは」

「シシリア嬢のお茶会で出すように言われたナッツ菓子です」


 ナッツの入ったお菓子はシシリアの大好物だった。彼女は自分の誕生日パーティーには必ずそれをリクエストしていたのを覚えている。


「お茶会に参加していた令嬢がアレルギー発作を起こしました」


 それを聞いてヴィヴィアは思い出した。


 ヴィヴィアはシシリアがお茶会をするときは必ず準備をさせられた。

 招待状の手配、お茶会の飾り付け、必要な食器と料理の手配、シシリアは最終チェックだけして後は遊んでばかりだ。

 ヴィヴィアは招待客の中にアレルギーの子がいたのを確認した。ナッツ類は外してメニューを作った。当然アレルギーの子がいることも伝えた。


 アレルギーを好き嫌いだと思ったシシリアは新しい命令を出した。ナッツが入っているとわからないように菓子を作れと。

 後で「ナッツを問題なく食べられたでしょう」と好き嫌いを指摘するつもりだったようだ。そしたら令嬢の親に「うちの子の好き嫌いを直してくれた」と褒められると満面の笑みを浮かべた。


 結果、令嬢はアレルギー発作を引き起こして命を落とすところだった。

 せめてナッツが入っているとわかるようにしてくれていればよかったのに。


 責任追及されたルフェル子爵家は慰謝料を払わされた。同時に犯人はシシリアに嫉妬したヴィヴィアの仕業とされてヴィヴィアは杖打ち10回を受けた。


 おかげでしばらく外出はできなかったな。


 ヴィヴィアは苦笑いした。


 背中の痛みがつらかったが、兄ルークから逃げる為に庭の中で隠れて過ごした。兄が治癒魔術で癒してやると言ったが、見返りは性的なものとわかっていた。


 ヴィヴィアは痛い背中を我慢しながら庭師の倉庫や、馬小屋に逃げ込んだ。移動している時に、小屋の中で苦しんでいる男を見つけた。

 もしかしたら中毒かもとヴィヴィアは男に触れて毒魔術で原因を取り除いた。

 少しだけ呼吸が安定しているのを確認してヴィヴィアは立ち去った。


「ナッツ菓子の罰で毒を飲まされて隔離させられていたようです。病死で処理される予定だったところをヴィヴィアに助けられて、そのまま身ひとつで逃げ出したとのことでした」


 そして逃亡途中にクリスに拾われて、代わりの身分を与えられて店を持った。

 ヴィヴィアが救い主と知っていたパティシエは、彼女に食べてもらいたいと今も新メニューを模索していたという。


「いえ、彼にはお世話になっていたから……助けられるかもわかりませんでしたし」


 ヴィヴィアは過去を振り返る。


 ヴィヴィアを下にみていた使用人たちの中には彼女に同情的な存在はいた。

 例のパティシエはこっそりヴィヴィアにパンを渡していた。栄養が少しでもとれるようにとシチューの残りを入れた惣菜パンを。とてもおいしかった。


「それでも彼はあなたに感謝していました。あなたを残して自分だけ逃げたことをずっと悔やんでいて」

「いえ、……彼が無事でよかった」


 それにしてもケイトといい、レディーアンジェのパティシエといい――クリスは何故ヴィヴィアが関わった人を拾えたのだろう。


「よく私に関係する方を拾えましたね」


 とても偶然とは思えない。

 聞いてみるとクリスは大したことないように笑った。


「ヴィクター卿の能力のおかげです。彼は魔力の匂いを感知することができます。私たちがはじめて出会った時、あなたの匂いも覚えていました。王城に戻った時はひたすら王城中で匂いを探させましたよ」

「そ、そうなの?」


 ヴィヴィアは屋敷外で毒魔術は滅多に使用してなかった為、ヴィクター卿は目的に直接辿り着けなかった。ヴィヴィアが毒魔術をかけたばかりの彼らを見つけるのが精一杯だったようだ。



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