13 今後の活動
ヴィヴィアの妊娠が周知されてから、食事の工夫をしてもらえてヴィヴィアはだいぶ食事をとれるようになった。
モーガンから呼び出されたシエル、ノエル兄妹がヴィヴィアの側についてくれている。
「奥様、何でもおっしゃってください」
ケイトとヴィクター卿が側を離れざるを得ない時、子供でも頼りになる。
階段を使う時など、シエルが手を握ってくれるのもありがたかった。
「奥様。これを」
ノエルは箱をヴィヴィアに見せた。
中に入っているのは手紙で、ヴィヴィアが訪問した孤児院の子供たちからのものであった。
「ありがとう」
「また来てください」
「おうたをがんばります」
慣れないながらも必死にかかれた文字でかかれた手紙はとても微笑ましい。
「あと、こちらは執事長からの手紙です」
何かしらとヴィヴィアは中身を確認した。
◆
敬愛なる奥様へ
お体の方は大丈夫でしょうか?
奥様が留守の間モーガンの屋敷のことは私にお任せください。
どうか元気なお子が生まれることをお祈り申しております。
シエル、ノエルはまだまだ幼いとはいえしっかりした子達です。何よりも奥様を第一に考えておりますので、新しい使用人を準備するよりも頼りになるでしょう。
話は変わりますが、以前ノートンの土地について土の研究員を派遣して調査を行いました。
ヒ素に伴う鉱山、ロズモンド前男爵の事業による土壌汚染は少なからずあり土魔術師に依頼して浄化作業を始めています。
以前奥様がお茶を栽培できないかという言葉を思い出し、土魔術師に調べてもらったところヒ素による汚染された土壌でも茶園の栽培ができたという論文を見つけました。
どうやら茶木は根の部分ではヒ素を蓄積しますが、その先の茶葉や茎にはヒ素は移行しない性質があるようです。まだ未開発ですが土壌浄化の研究をしているという話であり、ノートンの一部の土地で試験的に茶葉の菜園を行う予定です。
土魔術師がこの研究に意欲的になっており、予算意見書を作成、同封しております。旦那様にも同様のものを送っており、奥様から旦那様に了承印をお願い出来ないでしょうか?
まだ本調子ではない為、無理なお願いをしているのは重々承知の上です。
ですが、ノートンの領民のためにどうか奥様のお力をお貸しください。
奥様のご多幸とご健康をお祈り申し上げます。
エドワード・グレン
◆
ヴィヴィアの体を気遣う文言と共に領地開発の相談であった。
ノートンのヒ素汚染はあるが、茶の栽培でヒ素浄化を図れるかもしれないというもの。
確かに前世でそんな話があったけど、まだ研究段階だったような。
それよりもヴィヴィアの言葉から茶園による再開発を検討中という文面が気になる。
ヴィヴィアは首を傾げた。
私、そんなこと言ったけ?
しばらくして思い出したのが、盆地だからお茶の栽培できないかなと呟いたくらいだ。
この時はヒ素による汚染など考えてもいなかった。
ただの思いつきから出た独り言でここまで話が広がったのか。
でも、この世界でも実践しているところがあるなんてどこだろう。
おそらく海外のことと思うけど。
魔術がある世界だから日本とは色々効果が違うのかもしれない。
いずれはこの土地をこのままにすることはできない。
ヴィヴィアは早速クリスの部屋を訪れることにした。
「あ、旦那様に言伝してきます。奥様は部屋でお待ちください」
シエルはさっと部屋を出てクリスの執務室へと向かった。
10分もしないうちにクリスが訪れてヴィヴィアは驚いた。
「忙しいでしょうに」
「ヴィヴィア以上に大事なものはありません」
はっきりという言葉にヴィヴィアは顔を赤くする。
こんなことをサラッと言われるのはいまだに慣れない。
要件についてついて伝えると、クリスは何も質問せず承認するとのことだった。
「え、いいのですか? うまくいくかわかりませんよ」
ヴィヴィア自身、前世で中毒に関する勉強をしているがほとんど独学で曖昧なものもある。
土壌汚染の浄化作業に関しては全く考えず独りごちた内容を執事長が拾ったにすぎない。
「茶の木での浄化作業の報告例は海外に3件ありました。土魔術も併用して試す価値はあるでしょう。他にもヒ素を吸収する植物の情報もあります」
「たった3件です。それに茶葉とかどうしますか? 全くヒ素を吸収しないわけではないのでリスクが全くないという訳ではありません」
茶葉にも全くヒ素が移行しないわけではなく、根の100から1000分の1は移行することがあり適宜ヒ素濃度のチェックは必要と思う。
「すぐには茶園をメインの生産物にするつもりはありません。一応ヒ素濃度は調べて許容範囲内であった時に着手します」
さらにクリスは考えを述べていく。
「私はあそこに研究所を作ることを考えています。ヒ素中毒患者が多いので医療研究もできますし、同時進行で汚染された土壌の浄化についての研究も。領民には研究に協力してくれた謝礼をだします」
麦もヒ素を吸収しているかもしれないと出荷停止中、ヒ素を利用した染料は禁止されている。領民の当面の生活費にも着手する必要がある。
クリスの話を聞いて、執事長の提案はそれほど悪くないような気がしてきた。
はじめは私の独り言から話が広がって不安だけど、クリスがこうして計画案を出してくれて安心した。
「そうだ。あの件はどうします? あなたが参加予定だったチャリティーには間に合わないですが」
あの件?
ヴィヴィアは首を傾げた。
チャリティーという単語を元に記憶を呼び起こし、顔を赤くする。
ここ最近、実家のことや、妊娠で忘れていた。
「私としては冬にも王都でチャリティーイベントがありますからそこに合わせてもいいと思います」
「いえ、王都はさすがに。せめて地方から開始したいです」
ヴィヴィアは両手で頬を押さえた。
王都はさすがに参加者規模が違いすぎる。
「私はいいと思いますがね」
クリスは持参していた資料をヴィヴィアに見せた。
出版社のリストだった。
絵本制作に携わっている企業がずらりと並んでいる。
「いっそ、印刷機を購入して自家出版もいいと思います」
「い、いえ、私の作品だけの為にわざわざそこまでしなくても」
「あなた以外の絵本作家を開拓するのもいいでしょう」
何がなんでも絵本を出版に持ち込みたいクリスにヴィヴィアは必死にリストを見つめた。
「あら」
ひとつの会社をみる。
確かここは有名な文庫本の会社だった。
「そうですね。そこは子供向けの絵本シリーズを多く出版している会社ですね。小物売りと連携してグッズを売っていてなかなか商売上手です」
「よくご存知ですね」
「回帰前のノエルの部屋にあった絵本です。確か、こぐま騎士シリーズだったかな」
回帰前、何もかも失ったクリスはヴィヴィアとノエルの部屋に入った。
ベザリー用の部屋に改装するために全て処分するように命じ、メイドが落とした絵本をなんとなく覚えていたという。
ヴィヴィアがノエルの為に購入した絵本シリーズで、人気作だったそうだ。
特に育児中の貴族夫人も読んでいてグッズの需要が高かった。
「お茶会で有力な貴族夫人に近づける為にベザリーが集めたいと言っていましたよ。作者が行方不明になり、再版できず入手困難でした。あの時ノエルの部屋にあったものを捨てなければよかったと悔しがってました」
そのままこぐま騎士シリーズは既刊のもので完結したらしい。
その話を聞いてヴィヴィアはお腹を撫でた。
他にもノエルが好きそうな絵本があるかもしれない。
ヴィヴィアはここに相談することにした。




