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捨てられた悪役はきっと幸せになる  作者: ariya
第二部

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9 忘れられていた出会い

 昔の記憶が呼び起こされる。――


 ヴィヴィアがまだ毒魔術の鑑定を受ける前に、家族と参加した狩猟祭のこと。

 確か6歳くらいだった。


 国王が主催する狩猟祭では多くの貴族、騎士らが参加して森に生息する獰猛な獣や魔物を狩り競う祭りである。


 貴族夫人、令嬢はその間に彼らの無事を祈ったり、薬草摘みをしたり、お茶会を開いて待つ。


 ヴィヴィアは母に連れられてあるお茶会に参加していた。

 ヴィヴィアのリボンを可愛いと褒める淑女がいて、ヴィヴィアは少し照れた。


「お姉様のリボンが欲しい」


 一緒に来ていたシシリアが急にヴィヴィアのリボンを欲しがった。

 シシリアは青いリボンで髪をお団子にしていた。


「シシリアのリボンの方が可愛らしい」


 そう褒めてもヴィヴィアのリボンを欲しがった。


「その赤いのがいい!」


 狩猟祭が終わったらあげるとヴィヴィアが言ってもシシリアは「今がいい! お姉様の意地悪!」とわんわん泣き出した。


 苛立つ母が、ヴィヴィアに言った。


「リボンを譲ってあげなさい」


 ヴィヴィアはなかなかリボンを差し出せなかった。いつも大事にしていたリボンだった。

 ドレスもリボンもいつもシシリア優先で、このリボンはヴィヴィアが欲しいと願い買ってもらえた数少ないものだ。


「ヴィヴィア!」


 母に叱られて、ヴィヴィアがようやくリボンを解こうとしたらシシリアはぶちっとヴィヴィアのリボンを無理に奪った。

 その瞬間に何本かヴィヴィアの髪が抜かれて「痛い」と叫んだ。


「まぁ、大袈裟な。シシリアに早くあげればいいのよ。ほら、もう片方もあげなさい」

 

 母から言われた言葉が悲しくなりヴィヴィアはその場から走り出した。


 泣きながら森の中へ入る。

 どこへ行く訳でもなく、ヴィヴィアはただ逃げ出したかった。


「若様!」


 少年の泣き出しそうな声がした。


 そういえば随分奥まで来てしまった。


 森の奥には獰猛な獣、魔物が多く潜んでいて危険なのに。


 戻ろうにも足がすくみ、誰かいるなら側にいたいと思い声の方へ近づいた。


 声の方は、黒髪の端正な顔立ちの少年だった。


 兄と同じくらいか。

 12歳くらいに見える。

 そんな若さで狩猟に参加できたんだ。


 ヴィヴィアは少年の方へ近づくと、少年は警戒した。

 明らかな敵意にヴィヴィアは震えた。


「助けて! うっかり迷い込んで帰れなくなって」

「誰が信じるか。こんなところにこんな幼い子供がいるわけないだろうっ!」


 少年の側にうずくまっているもう1人の少年がいた。


 金髪の美しい少年が、ひどく苦しんでいた。


 その姿をみてヴィヴィアは咄嗟に近づいた。

 彼に触れると黒髪の少年が噛み付かんばかりに叫んだ。


「離れろ!」

「この人から悪いものをとらないと!」


 少年が逆にたじろぐくらいにヴィヴィアの剣幕は凄まじかった。


 毒という単語がわからないが、ヴィヴィアは毒におかされていることを悪い状態と認識できた。


 ヴィヴィアの声に反応して苦しんでいた金髪の少年は目を開ける。


 ヴィヴィアは安心するように声をかけた。


「大丈夫よ。わたし、治癒魔術を使えるから」


 当時のヴィヴィアは自分の毒魔術を治癒魔術と考えていた。

 父から口酸っぱく当家は由緒正しい治癒魔術の大家だと教えられていた為だ。


 使用していた相手は動物と病で暇を出された使用人だけ。

 しかも使用人に何をしたとは伝えていた。


 ルフェル子爵家では誰もヴィヴィアが使える魔術を知らない。

 鑑定の日に親をあっと驚かせる為に魔術の腕を独学であげていった。


 今から宿営地に戻っても、治癒魔術がたどり着くのに時間がかかる。

 少年を抱えて宿営地に戻っても同様に。

 悪いものを取り除く、できなくても悪いものの勢いを削ぐのだ。


 大丈夫。

 血の巡りをたどって体のどこでこの悪いものを排除できるか見つけて、そこにひたすら応援をするんだ。


 ヴィヴィアが黒髪の少年にいい、金髪の少年の手を触れ続けた。


 しばらくしてヴィヴィアは黒髪の少年に言う。


「あの、お水をなるべく飲ませてください」


 血流を良く巡らせるには水分が必要だ。

 その巡らせで、悪いものを排除できる場所まで誘導する。


 ヴィヴィアの魔術をみて少年は頷いた。

 彼女が本当に主人を助けようと伝わったからだ。

 はじめは黒髪と思ったが、よく見たら金のメッシュが入っている。


「若様、飲んでください」


 持っていた水筒を金髪の少年に近づけた。

 金髪の少年は荒い呼吸の中で必死に水を飲んだ。


 途中、ヴィヴィアはリボンを解いた。

 確か、狩猟参加者に女性はお守りを贈る。

 それはタッセルだったり、ハンカチだったり、リボンだったり。

 参加者が身につけやすいものを渡す。


 意図は違うが、少しでも励ましになるようにとヴィヴィアは金髪の少年の腕にリボンを巻きつけた。


 実は不安だった。

 うまくいかないかも。


 それを振り切る為にヴィヴィアは願掛けをした。


「大丈夫。助かる。大丈夫」


 ヴィヴィアが何度も呟き続けて、魔術を使い続けた。


 随分と時間が経過して、少年たちのお供の騎士たちが見つけ出した。


「若様っ、助かりましたよ」


 少年たちは騎士に抱えられて宿営地へと向かう。

 宿営地に戻り、すぐに治癒魔術師が集まり少年を治療室へと運び出した。


 ――よかった。


 騎士たちと戻ってきたヴィヴィアは安心した。

 みんな、主人の少年のことが心配で治療室に注意している。


 ヴィヴィアはこっそりと抜け出して、家族の元へ戻った。

 酷く怒られたが、この時はヴィヴィアは気分が良かった。

 自分の魔術で完全に少年を助けられたわけではないのはわかっている。

 でも、治癒魔術師の元へ送られるまでの時間稼ぎには貢献できたはずだ。


 その数ヶ月後に、ヴィヴィアは鑑定を受けた。


「毒魔術?」


 治癒魔術ではなくて?


 鑑定結果にあまりのショックを受けた。

 両親からの落胆、兄からの嘲笑、そこから一気家族の期待はヴィヴィアからシシリアに移された。

 この時、ヴィヴィアは家門の恥と烙印を押された。


 治癒魔術ではないのに優れた治癒魔術と豪語した自分を滑稽に感じた。

 ただ恥ずかしくヴィヴィアはあの狩猟祭の出来事を必死に忘れようとした。


 それから10年以上の月日が経った。――


 クリスの持っていたリボンに触れて、ヴィヴィアは思い出した。


「ヴィヴィア、私を救い出してくれたのはあなたです」


 まさか。昔のクリスを救った治癒魔術の少女は。


「私?」


 確かに、金髪の少年を助けた覚えがある。

 今まで忘れていたけど。


 小説ではベザリーと書かれていたのに、実際はヴィヴィアだった。


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