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捨てられた悪役はきっと幸せになる  作者: ariya
第一部

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28 シシリア劇場

 参加者たちがダンスや星空に心奪われている中、ヴィヴィアは出入り口の方へ向かった。


 小説の進行の妨げになることを避けて、目を背ける為に馬車で待機しようと考えた。


 馬車の並ぶ場所近くで待機している使用人に声をかければ、クリスとは後で合流ができるだろう。


「お姉様!」


 明るい声と共に後ろから力が加わるのを耐えた。

 参加者の中に紛れていたシシリアがヴィヴィアを見つけ出して声をかけてきたのだ。


 ヒールの高い靴でバランスが崩れそうになり冷や汗をかいた。パーティーで転ぶなど公爵夫人の姿に相応しくない。


「久しぶりね。シシリア」


 ヴィヴィアは彼女の方へ振り向いた。


「はい! お姉様に久々に会えて嬉しいです」


 屈託のない笑顔、周りの目があるから実家で向けてきた蔑みの色が見当たらない。


 この笑顔に騙された男性はどれだけいただろうか。


 婚約破棄される時に言われたことを思い出す。


「いくら何でも妹に嫉妬して妹をいじめる女性を愛せそうにない」


 婚約成立できたとしてもいつ出会ったのやら相手はシシリアに心奪われ、彼女の嘘をまんまと信じ込んでいた。


「デビュタント、おめでとう」

「ありがとうございます。でも、お姉様も酷いです。お返事を全くくださらないなんて」


 ぷんぷんと頬を膨らませる。


 クリスがルフェル子爵家からヴィヴィアに何かしら言ってくるのを排除していたな。

 契約金がよかったのか、父母兄は何もして来なかったけどシシリアは何度か手紙を書いていたと聞かされた。

 内容があまりに酷く、クリスが全部処分していた。


 ゴーヴァン公爵家へ遊びに行きたいから招待しろ。一緒に買い物もしたいから一流店を集めておけ。

 ゴーヴァン公爵家の庭園でお茶会を開きたいから、手配しろ。


 まるでゴーヴァン家の持ち物を自分のもののように振る舞う内容にヴィヴィアは呆れた。

 ヴィヴィア自身、公爵家で良い生活をさせてもらっているがそれはクリスのおかげである。


 これでもヴィヴィアははじめは遠慮していた。


 それなのに全く躊躇せずに当然の権利のように主張するシシリアに何と返事をすれば良いかヴィヴィアは頭を抱えた。


「返事など必要ありません。すでにあなたと妹君は立場が異なります。それを理解せず相応の礼儀をわきまえない者に割く時間はありません。手紙の内容はどんどんひどくなっていっておりますし、責任監督者に文句を言っておきます」


 クリスがそう言ってくれてヴィヴィアは全て彼に任せた。


 だが、何も返さないのも気が引けるので一回だけ手紙を書いた。


 花のブローチを添えて。


 それからは彼女からきちんとした手紙が来るまでは返事を書かないと決めた。


「返事は一度送りました。入学祝いも兼ねて」

「やだ、あんなお堅い説教くさい文章のこと? お祝い? あの安いブローチのこと?」


 シシリアとしては不満だったようだ。


 安いブローチと言われたが、モーガンで最も腕の良い職人にお願いしてオーダーメイドした一点ものである。


 小さいがエメラルドが嵌め込まれていた。


 実はヴィヴィアがデザインして職人に手直ししてもらいかなり気に入っていた代物だった。


 それをさもたいしたものでないと言われるとは。


「あまり好みのものじゃなかったのね。残念だわ」

「好みとか、それとは別問題。あんな小さな石で誤魔化して、ゴーヴァン公爵領は石がとれなくなったのかと心配しました」


 シシリアの言葉に棘がある。


 彼女はじっとヴィヴィアの全身を見つめた。


「お姉様はそんなに綺麗な宝石、ドレスで飾りたてているのに私には何もしてくれないのね」


 私のデビュタントなのに。


「デビュタントは基本的に母親や、シャペロンが手配してくれるものでしょう?」

「そのシャペロンにどうしてなってくれなかったのよ」


 恨みがましい言葉。


 シャペロンになって欲しいという依頼はきていなかったし、ヴィヴィアから名乗りあげる気にはならない。


「準備に苦労したのですよ」

「あなたにはちゃんとお母様がついているでしょう。ブティックだって行きつけがあったのだし」

「もうあの店は飽きたの。お姉様ならもっと良いお店を紹介できたじゃない。アリエルとか。その衣装はアリエルでしょう?」


 はぁ。


 何を話しても、ヴィヴィアはシシリアの為に動くのが当然という話にいきつく。

 疲れてしまった。早く馬車に戻りたい。


 シシリアは苛立ちを覚えた。

 いつまでも思う通りに言ってくれない、動いてくれないヴィヴィアに。


 何よ。お姉様は公爵夫人になって生意気になったわ。

 わからせてあげないと。


 シシリアはヴィヴィアの腕にしがみつき、引っ張る動作をした。

 引っ張ったと同時にシシリアは手を離して、床にわざと転ぶ動作をした。


「きゃぁぁっ!」


 シシリアの悲鳴に参加者たちは一斉に注目する。


「ひどいわ。お姉様」


 その一言で、舞台上のヒロインになりヴィヴィアが悪役になる。


「私が学園のことを話したら、突き飛ばすなんて。確かにお姉様は学園に入れなくて悔しいのはわかりますが」


 周りの反応をみながらシシリアは少しずつ舞台背景を作っていく。


「あー、やっぱり彼女は相変わらず意地悪な姉のようだ」

「ちょっと綺麗だなと騙されていたが、やはり内面は変わっていない」

「嫉妬深い無能者。嫌われ者」


 ざわざわとヴィヴィアを悪く言う観客にシシリアはほくそ笑んだ。

 涙を流して可哀想なふりをすればいつだって私が可哀想になる。


 ほら、お姉様。あなたの本来の役目を思い出して。

 私に謝ってくれたら、アリエルのドレスを1着で許してあげる。


 シシリアがヴィヴィアの方をみる。

 いつものようにヴィヴィアは諦めてシシリアの望む役に当てはまれば良いのだ。


 ヴィヴィアの表情をみてシシリアは同様した。


 そこにはいつもの俯いている姉の姿ではなかった。

 背筋を伸ばし、立つ姉の姿は凛としている。


 どうして。お姉様のくせに。


 シシリア自身、ヴィヴィアの姿を美しいと思ってしまった。



 クリスに言われたことを思い出して。


 ヴィヴィアは馬車の中でのことを思い出した。




「悪意に晒されても私がついているのだからあなたは堂々としてください」



 今はクリスはそばにいない。

 ヒロインとのイベントを進めている。


 ヴィヴィアからヒロインへ向かうクリスを想像しながら、それでも今はクリスの妻はヴィヴィアである。


 今の私を悪く言うものは決して許されない。


 私が彼らの評価で顔を下に向ける必要はない。


 ヴィヴィアの堂々とした姿に、彼女を悪く言っていた者たちは口をつぐんだ。


 今の彼女が、どこの誰かにようやく気付いたのだろう。


 仮に愛のない結婚だったとしても、誇り高い騎士たるクリス・ゴーヴァン公爵が妻を粗末にするはずはない。


 私はヴィヴィア・ゴーヴァン。


 クリスの妻で、ゴーヴァン公爵家の女主人だ。

 今の私の誇りは誰にも汚されない。


 そう言わんばかりの彼女の姿に参加者はどうしていいかわからなかった。

 

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