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捨てられた悪役はきっと幸せになる  作者: ariya
第一部

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25 星河祭のパーティー

 星河祭のパーティー当日、朝起きるとケイトに誘導されて入浴した。

 香りの良い石鹸、シャンプーで全身隅々まで洗われる。

 お風呂からあがればオイルマッサージでついうとうとしてしまう。

 ぼんやりとしたヴィヴィアにケイトは丁寧に顔のケアをしていた。


 お昼になるとお腹が空いてくる。

 小腹を満たす程度の軽食を運んでもらい、でも手で触れることは許されずケイトがヴィヴィアに合わせて軽食と飲み物を与えてくれた。


 ドレスに袖を通した後は髪のセット、化粧が進んでいき気づいた頃には日が傾いていた。

 まだ明るいのは夏の季節が訪れるからだろう。


 ここまで入念な準備は結婚式以来だ。


 モーガン家門の者だけしか参加していない小規模な結婚式であったが同じくらい大変だった。


「最後にこの首飾りをおつけします」


 ケイトはヴィヴィアに開けた箱をみせた。クリスが贈ってくれた星屑を模したような首飾り。


 改めてヴィヴィアの姿をみて、使用人たちはうっとりした。


 やり遂げたと達成感のある表情をしている者もいる。


 好まれにくい赤髪であるが、それすらヴィヴィアの美しさを際立たせていた。


 まるで夜空から舞い降りた妖精のよう。


「旦那様も準備が整い、馬車の方へ向かわれました」


 ケイトに案内されて、ヴィヴィアはどきどきした。


 クリスは、どう思ってくれるかな。


 屋敷の出入り口、玄関先の階段の下にクリスが待っていた。

 ヴィヴィアのドレスに合わせた深い藍色に赤のアクセントを取り入れた衣装に身を包んでいる。髪をあげているためいつもと違う雰囲気にヴィヴィアは胸の高鳴りを一層覚えた。


 ヴィヴィアを見たクリスは目を見開く。


 しばらくして手を差し出した。


「とても、綺麗です」


 一緒に馬車に乗り込み、王城へと向かう。


 馬車の中、ヴィヴィアは何を話せばいいか悩んだ。


「ヴィヴィア、今日のパーティーですが貴族令息令嬢のデビュタント以外に新しい学園長のお披露目があります」


 ヴィヴィアはこくりと頷いた。


 確かにそうだった。


 雨の季節、女子学生が命を落とす事件が毎年起こり、ヒロインはクリスの協力を得て解決する。


「たいへんな事件でしたね」


 何より酷いのは加害者がオーサ侯爵の庶子で隠蔽されていたこと。


 その侯爵の力を押さえつけたのはクリスであった。


「私はモリスの報告を聞いて、オーサ侯爵の卑劣な力を押さえただけだ。実際動いたのは女子学生と、彼女の相談を受けたモリス、直接護衛した騎士見習いです」


 ということは手紙のやり取りはしていないのだろうか。

 ヒロインとのイベントにぎりぎり間に合ったのだろうか。


「ですが、閣下のおかげで事件の真相は明るみになりました」


「全くモリスが戻ってこいとしつこい中、戻れば侯爵家と学園長の権力の押さえつけ。モリスでもできたことだろうに」


 確かモリス秘書官は伯爵だった気がする。それなりに立ち回れそうだが、クリスの公爵の力の方が圧倒的だろう。


 色々経過は変わっているけど、最終的にクリスがヒロインを助けたことになるよね。


 今日のパーティーではヒロインがクリスにお礼を言い、そのままダンスを一緒にするはず。


 それを考えたら気分が重くなった。


「ヴィヴィア」


 クリスはじっとヴィヴィアを見つめた。


「すみません。久々のパーティーなので緊張してきたみたいです」


 取り繕うヴィヴィアにクリスは言った。


「あなたは私の妻です。私の隣にいる限りあなたを悪くいうものは誰であろうと許しません」

「そんな、相手が王太子だったらどうするのです」


「決闘します」


 冗談ではないクリスの面持ちにヴィヴィアは動揺した。

 確か私と結婚したのは王太子から疑念を払うためのものでは。


「あなたの立場が悪くなります」

「あなたに恋焦がれる私の姿を見れば王太子も安堵するでしょう。でも、あなたを侮辱するのであれば許しません」


 めちゃくちゃだ。


「ふふ、そうなると私が注目されてしまうからやめてください」


 つい笑ってしまうヴィヴィアにさらに言い続ける。


「私の側にいればいいです。悪意に晒されても私がついているのだからあなたは堂々としてください」


 そうね。

 今はどうあれゴーヴァン公爵夫人なのだ。


 おどおど怯えては相手に舐められる。

 謙虚さは必要だが、卑屈になってはいけない。

 クリスが選んだ妻の姿を見せなければ、クリスに女をみる目がなかったと思われる。


 侮られてはならない。


 ◆◆◆


 星河祭のパーティーは星空がよく見えるように庭園で開催される。


 雨が降らず天候もちょうどよく予定通り行われた。


 煌びやかな照明の中、デビュタントを迎える令息令嬢たちのお披露目が行われる。

 国王の挨拶が終われば、照明の数が減り美しい星空を堪能できるようにする。

 その中で荘厳な音楽と共にダンスが繰り広げられるのだ。


 本日は新しいカリバー王立学園長のお披露目も追加される。


 今回はカリバー王立学園に入学できた平民も招待されていた。

 奨学金支援をしている貴族の助けで参加に必要なものをそろえてもらえる。予算がないものは申請をすればドレスレンタルの補助、斡旋もしてもらえた。


 平民ではないが孤児同然のベザリーも参加していた。


 ベザリー・モカ。

 今日のパーティーで最も注目されている令嬢だ。


「あれが噂のモカ令嬢か」

「没落したモカ伯爵家の令嬢。物心つく前にご両親を失い、修道院に預けられて苦労していたらしい」

「確かゴーヴァン公爵家の奨学生だったな」

「雨の幽霊の事件も彼女が勇敢に立ち向かい、心打たれたゴーヴァン公爵が守り抜いたとか」


 学園で起きた事件解明の功労者であることもあり、周囲はベザリーに視線を集めた。

 そしてベザリーの理想の令嬢像そのものの姿に心奪われる。


 美しい金の髪、結い上げずに見事に波打つ長い髪はそれだけで上品に見える。

 穏やかな碧眼は湖の底を覗きこんだ心地にさせられ、彼女に姿を留め置きたいと願う殿方は少なくなかった。


 下心を隠しながら、好奇な視線を残して近づく者たちにベザリーはにこやかに対応していた。距離が近すぎるとパートナーが前へ出る。


「ガエリエ卿がいてくれて助かります」


 ベザリーはパートナーに笑顔で対応した。


 アルバート・ガエリエ。


 ゴーヴァン公爵家門に属するガエリエ伯爵の嫡男であった。

 父はゴーヴァン公爵家のオーラヴ騎士団の幹部であり、彼も卒業後はオーラヴ騎士団に入団予定である。

 整った顔立ち、均整のとれた筋肉。

 短く切り揃えられた銀の髪は美しく、伸ばしてしまった方が見栄えがいいのにと周りから言われていたが、ガエリエは短い髪を好んだ。

 それが彼の真面目さを示しているかのようである。


 デビュタントの令嬢を守る騎士に相応しい姿にも見えて、令嬢はベザリーを羨んだ。



「きっとゴーヴァン公爵に任されてパートナーになったのよ」

「ゴーヴァン公爵夫人がいる手前、自分がエスコートするわけにもいかないから信頼できる家門の者を選んだのよ」

「ゴーヴァン公爵がモカ令嬢を大事にしているのは明白だわ。例の事件だって彼女に害がないようにオーサ侯爵の権力を押さえつけたのだもの」

「王城で力を持っていたオーサ侯爵をね。今まで派閥貴族とのいざこざは避けていたのに」


 ベザリー・モカ令嬢はゴーヴァン公爵の大事な淑女ではないか。


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