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捨てられた悪役はきっと幸せになる  作者: ariya
第一部

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24/59

24 メイドたちの違和感

「いやぁ、いやぁあああっ!!」


 メイド仲間たちの心配の声をよそに、肉料理を食べたメイドは叫び続けた。

 あまりの光景に一同はどうしていいかわからない。


 一体何が起きたのか。


 ヴィヴィアは錯乱するメイドに近づき、彼女の手を握った。


「っ!!」


 思ったよりも早く症状が出ていることにヴィヴィア自身も内心動揺していた。

 毒魔術を急いで発動して、彼女の中に入り込んだナツメグ……ミリスチンが代謝された成分を見つけ出しその排泄を促す。


 何で、こんなものが?


 ヴィヴィアは同時に見つけた成分に眉をひそめた。

 もしかしたらこれの影響で予想より早く症状が起きてしまったのかもしれない。


「水を持ってきて……なるべくたくさん」


 ヴィヴィアがそういうと瞬時にケイトは動き、厨房から飲み水をボトルごともってきた。


「飲みなさい。ただの水だから大丈夫」


 水が入ったコップを受け取ったヴィヴィアはメイドに水を飲むように促した。

 メイドは言われるままに水をごくごくと飲んだ。


「落ち着いて……呼吸を繰り返して、吸って、吐いて」


 ヴィヴィアはメイドの背中を撫でて何度も彼女の状態を確認した。


 ようやく落ち着いた頃に、メイドはあたりを見渡した。

 そして目の前のヴィヴィアをみて一気に青ざめる。


「あ、申し訳ありませんっ」


 メイドはその場に膝をつき、両手を組んで懺悔の姿勢をとった。

 先ほどの悪態から想像できない程の別人であった。


「奥様に何という不敬を……それどころか奥様の健康を害する真似をしてしまいました。どうか、どうかお許しください」


 全身震えて許しを請う姿にヴィヴィアは複雑な表情を浮かべた。


 ヴィヴィアはくるりとメイド長に振り向いた。


「メイド長。お医者様を呼んでちょうだい。紹介状を書きたいの?」

「紹介状ですか?」


 新しい雇用先の紹介状に医者の記録が必要なのかとメイド長は首を傾げた。


「私が強要してナツメグを大量摂取させてしまったから治療を受けさせるべきだわ。できれば中毒の専門家の方がいいのだけど」

「医者に連絡します」


 ヴィヴィアは再度メイドの方を振り向いた。


「暇を出すわ」

「もちろんでございます」

「病院へ行き治療を受けなさい。私のせいで怖い思いをさせたのだから治療費と慰謝料を払います。そして治療が終わったら改めて勤め先を紹介します」


 メイドは大粒の涙をこぼした。


 危害を加えたヴィヴィアにここでむち打ち、杖で叩かれる罰を受けても文句は言えない。

 紹介状など書いてもらえないのが当然のはずなのに、何という配慮か。


 実家には腰を痛めた母がいる。

 父も体調を崩しやすい為、ここで自分が職を失ってはたいへんなことになってしまう。


 ヴィヴィアの配慮はありがたかった。


「ありがとうございます、ありがとうございます」


 メイドは頭を下げてヴィヴィアに謝罪とお礼を繰り返した。


「さて」


 ヴィヴィアはちらりと他のメイドたちをみた。

 その視線にメイドたちはびくっと震えた。


 今の様子で気づいたことがある。

 ヴィヴィアはこのゴーヴァン公爵家の女主人である。

 メイド長とのやりとりから彼女には使用人たちの采配の権利を、公爵夫人の証を持っている。

 自分たちの雇用を自由にすることができた。


 女主人はにこりとほほ笑む。


「紹介状を書くわ。ただし、私の手を握って先ほどの無礼を謝ってちょうだい」


 先ほどまで軽蔑していたヴィヴィアに頭を下げるなど嫌だと感じた。

 それでも自分たちにも生活があり、ここで紹介状なしで解雇されるのは大変なことだ。

 生活の為なのだと自分に言い聞かせてメイドたちは順番にヴィヴィアの手を握って謝罪のポーズをとった。


 しばらくして、夢が覚めたかのようにメイドは顔色を変えて頭を下げた。

 肉料理を食べて錯乱したメイドほどではないが、自分の口にしてきた無礼な発言をおおいに恥じてヴィヴィアに謝罪を繰り返した。


 ヴィヴィアは具体的な内容を聞かず、謝罪を頷いて受けていた。


 何と言うこと。


 ヴィヴィアは内心穏やかではなかった。

 ここにいるメイドのほとんどが薬物中毒に汚染されていた。

 その内容は医療では難病の鎮痛剤として利用されるものだが、量を間違えれば後遺症を残してしまう恐れがある。

 彼女たちがそれを使わざるを得ない程の難病をかかえているとは思いにくい。


 となると不法に薬物を利用していたことになる。


 後でメイド長にいってここにいるメイドたちも同じく治療を受けさせておこう。


 それよりこれは、さすがにクリスに報告した方がいいよね。


 館の中での大事、ヴィヴィアだけでは対処の判断が難しい。


 ケイトにお願いして今の時間を確認する。


 もうしばらくしてからクリスとの約束の時間であった。

 ダンスの練習をするために彼はホールに待っているはずだ。


 後はメイド長にお願いしてヴィヴィアは急いでホールへと向かった。


「ヴィヴィア」


 ホールで待っていたクリスは素敵な笑顔で出迎えてくれた。


 うぅ、眩しい。


 先ほどの惨事の中で、彼の笑顔はあたりを明るくする太陽のようだった。

 顔が良い男というのはそこにいて笑うだけで雰囲気を変えてしまうのだな。


「その前に閣下、報告したいことがあります」


 ヴィヴィアは極めて真剣なまなざしで彼を見た。

 クリスは首を傾げて、彼女の話を聞くことにした。


「……ということがありました。さすがに使用人たち全員に薬物利用者がいるとは思いませんが、まだ何人かいるかもしれません。入手ルートも確認しなければ根本的な解決には至らないと思って」


 クリスはじっと動かず、手を顎に当てて考え込んだ。


「閣下」

「あ、ごめん。そうだね……ヴィヴィアの言う通り、後のことは私で何とかしてみよう。薬物に触れるのはヴィヴィアにも危険だし」


 まだ何か言いたげなヴィヴィアにクリスはどうしたのと聞いてみた。


「あの、罰を受けたくて」


 罰という単語にクリスは疑問を浮かべた。


 何故ヴィヴィアが罰を受けるのか。


「閣下が雇用したメイドにナツメグを大量に食べさせて故意に有害事象を起こしました。勝手な判断であり、倫理的にも問題があり、罰を受けるべきと」


 ぷっくく、とクリスは笑ってしまった。

 真面目すぎるだろう。


「罰など必要ありません。むしろあなたがあのメイドに危害を加えられようとしていたのですよ。あなたが動かなければ私が処分していましたし」


 処分という単語にヴィヴィアは青ざめた。


 クリスは自分の領域内で起きたことを裁判を通さずに罰を与える権利を持っている。

 剣でメイドを切り捨てたりしても問題にならない身分なのだ。


「私は嬉しいです。あなたが、公爵夫人の証を使ってくれたことを。でも、そうですね。薬物乱用していたかもしれないメイドに対峙した時は護衛騎士を伴ってください。その為にケヴィン卿をあなたにつけたのですから」


 お咎めがなかったことにヴィヴィアは安心したが、同時に気をつけようと自身に言い聞かせた。


 これからどう小説の内容につながるかわからない。


 ヴィヴィアの些細な出来事すら、後で悪事と言われる可能性があるのだ。


「ヴィヴィア、あなたには私がいます。何も恐れないでください」


 クリスがそう言ってくれてヴィヴィアンは胸が苦しくなった。

 頼りになる夫、今自分を大事にしてくれるひと。


 嬉しいが、これからの不安を考えると彼に頼りすぎてはならない。


「さぁ、そろそろ私と踊ってください」


 クリスは笑顔でヴィヴィアに手を差し伸べた。


 ヴィヴィアはこくりと頷き、彼の手をとった。

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