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捨てられた悪役はきっと幸せになる  作者: ariya
第一部

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15/58

15 ヴィヴィアの前世

 薬は投与の仕方を間違えれば毒になる。


 その解釈で毒と認識すればヴィヴィアの能力は発揮される。

 ヴィヴィアの能力、毒魔術はある程度の毒に関する知識があれば解析することができた。知識がなければふんわり悪いものと認識すればできなくはないが、時間と労力が違う。


 その知識は現世で身に付けることはできなかった。毒の本を読んでいると親からばれれば大変なことになったから。その知識は前世の日本の社会人だった頃に身に付けたものがほとんどだ。


 ヴィヴィアの前世は総合病院のソーシャルワーカーであった。

 医者でも看護師でもなかったが、病院に保管されているあらゆる医学書を借りて読むことができた。


 ヴィヴィアの前世で特に興味をひいたものは中毒学であった。


 それを理解するためには化学や生物学の知識が要り、市の図書館へ向かい高校のときに放棄していた勉強をやり直したこともあった。


 そうしているうちに薬学への興味、関心が高まっていきもう少し高校時代に勉強を頑張って薬学部に挑戦すればよかったなと後悔していた。

 とはいえ、自分の仕事にもやりがいを感じていた。

 いつものように図書館へ通い帰りがけに命を落とす結果となった。


 その原因が自分が担当していた患者の夫に刺されるというもの。


 ヴィヴィアが最近対応した妊婦がDVを受けており、彼女は入院中にようやく夫の束縛から逃げる決心をしシェルタープログラムを利用した。

 丁度それを見送った後のことで、行方がわからなくなった妻の居場所を吐かせようと夫は脅しかけてきてそのまま手に取っていた包丁で刺されてしまった。


「お前が余計なことをしたからだ! お前が悪い! お前が!」

「やめろ! その人を傷つけるな」


 男の怒りの声、男を止める若い少年の声が聞こえる中意識が遠のいた。


 あのまま自分は冷たく命を落としたのだろう。

 仮に戻れるとしても、自分がされた刺し傷の数を考えると地獄である。


 すっごく痛かったのよね。


 刺された箇所は一か所だけではない。

 妻に晴らせなかった鬱憤を爆発させたようで何カ所も刺された。

 顔も刺されたので突然神様が現れて「蘇れるよ」と言われても首をぶんぶん横に振りたい。


 ヴィヴィアの人生は不遇なものであったが、転生していた影響か無意識に恩恵を預かることができた。


 前世の社会人の知識のおかげでプロブレムリストを作成、アセスメントを作ることができ、それが意見書作りに役立っていた。

 見やすい、わかりやすいと評判でヴィヴィアの情報整理の仕方を参考にしたいと執事長に言われる始末。

 初老の彼に尊敬のまなざしを受けた時はちょっとまんざらでもなかった。


 趣味で読んでいた毒の本も現在役に立っていた。

 前世の記憶を覚えていない頃でも無意識に毒への理解力が高く分析してどのように無毒化すればいいか魔力を操ることができるまで成長していた。


 多分小説内のヴィヴィアはここまではできなかったでしょうね。


 自分の毒魔術を恥と感じていた。


 その恥と感じた毒魔術を使って、ヒロインを亡き者にしようと企てるまでに追い詰められた。

 誰でも知っていそうな単純な毒で。


 小説であそこまで追い詰められたヴィヴィアの気持ちがわかってしまう。

 ヴィヴィアは心よりクリスを慕って彼の役に立とうと彼女なりに努力していた。

 クリスが認めてくれなくても唯一の彼の夫人だという立場だけが彼女の拠り所だった。

 クリスに愛されなくても、義務として接せられているとわかっていても、妻としての務めを果たせばいつかは報われる。

 そう信じていたはずだったのにクリスが愛したのは自分ではなかった。


 最期はクリスへの想いはなくなり、ただただ残される子供のことを気にしていた。


 それを想うと胸が苦しくなる。

 ヴィヴィアはぎゅっと左手を握った。胸の苦しみをごまかすようにまだひりひりと痛む左手に刺激を与える。


 初対面は最悪なものであったが、嫁いできた頃からクリスは優しかった。


 ヴィヴィアが好きになったように、自分もクリスを好きになっているかもしれない。

 記憶を取り戻したばかりの頃はそんなことはありえない。浮気者は許さない。絶対に愛するものか、好きになるものかと思った。


 でも、裏切られる。

 私の子すらも簡単に切り捨てられてしまう。


 好きになってはダメだ。


「奥様」


 ケイトの真剣なまなざしがみえた。


「痛むのですか?」


 心配そうにいう言葉にヴィヴィアは手をぱっと放した。


「いえ、色々考えてしまって」

「ノートンのことですか? あれから領主代理が色々と改善をはかっておいでです。必要な予算に関しても旦那様はためらわず出すとおっしゃっていますのでどうかご安心ください」


 考えていることは別のことであるのだが、ヴィヴィアは困ったように微笑んだ。


「そこで奥様……新しい奥様付の希望者をご紹介したいのですが今よろしいですか?」

「私に? 既にケイトがいるのに……」


 しかし、ケイトは自分の世話以外にも役割がいくつかあるようである。

 時々出られないときは代理のメイドが世話を焼いてくれていたので特に問題はなかった。


「はい。見習いなのですが、是非奥様の傍で仕えたいと所属を希望しました。奥様がよろしければ、ですが」

「わざわざ私に仕えたいの?」


 ヴィヴィアは首を傾げた。

 クリスがヴィヴィアに公爵夫人の証を持たせた影響だろうか。

 打算的な目的で自分付きになりたいというのであればやめて欲しい。

 ベザリーが現れればどうせ元のお飾りの公爵夫人に戻るのだし、そのまま公爵家を立ち去る予定なのだからヴィヴィア自身彼らに何か良い目を合わせてやることはできない。


「奥様に御恩をお返ししたいとのことです」

「私に、御恩?」


 ますますわからない。この公爵家の屋敷で恩を売った覚えはないのだが。


「ロズモンド孤児院のシエルとノエルです」


 その名前を聞きヴィヴィアは飛び跳ねた。


「え、二人が……」

「あれから領主代理に直談判されたようで、是非奥様にお仕えしたいと希望され、紹介状を作ってもらったそうです。旦那様もヴィヴィアの為に動く人材であればと了承済みです」

「わ、私でいいのかしら」


 せっかくならもっと良い勤め先を斡旋してあげてもいいのではないか。


 と内心思ったが、このゴーヴァン公爵家以上に良い勤め先はなかなかないだろう。


「失礼いたします」


 ノートンで出会った頃よりもしっかりとした衣装に身を包んだ少年少女がヴィヴィアの前に並んだ。


「見習いのシエルです。奥様の靴の管理をさせていただきます」

「見習いのノエルです。ケイトさんの手伝いをして学ばせていただきます」


 二人とも顔色がよくなっている。

 特にノエルの顔色がよくなっていたことが感動的であった。


「もう体はいいの?」


 ヴィヴィアが質問すると二人とも笑った。


「俺は大丈夫ですが……妹は」


 何か問題があるのだろうかとヴィヴィアは不安になる。

 確かにノエルはひどい脱水状態であった。まだ体の負担は残っているだろう。


「実は旦那様の計らいでお屋敷のお医者様に定期的に診ていただけることになりました。恩返しの為志願しましたが、かえってさらに恩を受けることとなり申し訳なく」

「子供がそんなこと気にしなくていいのよ」


 ヴィヴィアははっとしてこほんと咳払いした。


「閣下に感謝をしましょう」


 その言葉に二人は勿論と頷いたが同時に付け加えていった。


「旦那様のことももちろんですが、私たちを助けてくださったのは奥様です」

「私は……」


 ただ現場を掻き回して感情のいくまま院長に悪態をついただけの記憶しかない。


「私が酷い状態の中……奥様は汚れることも構わず抱きしめてくれました。嬉しかった」


 ノエルはうるっと目を潤ませてヴィヴィアを見つめた。


「奥様に感謝を……この命は奥様の為にささげたいです」


 少女の言葉にヴィヴィアは胸が熱くなるのを感じた。


 まだ10歳を超えるかどうかの少年、少女がここまで来てくれたのが嬉しかった。


 この感覚は覚えている。前世でも似たことがあった。

 自分が担当した患者が退院後に挨拶しにきてくれた時の喜びと一緒だ。


 ヴィヴィアは二人を自分付きにすることを受け入れた。

 少しでも二人の今後の為になることを身に着けて欲しい。

 教育に関してはケイトが行ってくれると言う。シエルの教育はケイトだけではなく執事も教えてくれるという。


 後でわかったことだが、シエル・ノエル双子は12歳であった。

 10歳に満たないと思っていたのは栄養状態が悪かったからで、ヴィヴィアはなるべく彼らにお肉が行き渡るようにとケイトに念を押した。

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