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捨てられた悪役はきっと幸せになる  作者: ariya
第一部

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1/7

1 小説の悪役

 海と山に囲まれたブライト王国。

 広大なサンベル地方を治め、国王に信頼を得ているゴーヴァン公爵家に新しい風が吹いた。


 かつて当主を治癒魔術で救ったといわれる命の恩人が大事な客人として迎えられた。


 ベザリー・モカ令嬢。


 没落した伯爵家の令嬢で、幼くして両親を亡くし修道院で育った。

 治癒魔術を使える為、幼い頃から奉仕活動に従事していた。

 彼女は勉学をして多くの人を助けたいとゴーヴァン公爵家の奨学制度を利用しカリバー王立学園へ入学した。

 入学した時より優れた治癒魔術で活躍し、実地訓練でも目覚ましい活躍をみせた。

 彼女の活躍はそれだけではない。

 学園内での事件を解決して、その犯人の教員、手助けしていた学園長の不正を暴いた。

 新たに赴任した学園長にその才能を認められ、彼の指導の元多くの論文を出して入学2年目で博士号をとる快挙を達成した。


 その折に、ゴーヴァン公爵が彼女こそ長年探していた命の恩人だったことを発表し新聞業界ではベザリーの話題で持ちきりであった。


 そのベザリーが博士号を得た年の夏の頃、彼女はゴーヴァン公爵の状態で領地都市モーガンの屋敷へ招待された。


「はじめまして、公爵夫人」


 ベザリーはカーテシーをとり、ゴーヴァン公爵夫人に挨拶した。


 ヴィヴィア・ゴーヴァン。


 ベザリーとは対象的な雰囲気の女性であった。

 この国で最も人気の金髪碧眼を持ち何をしても愛くるしい少女のベザリーに対して、ヴィヴィアは最も嫌われる赤髪をしていた。

 貴族女性で赤髪は嫌がられ、染める者もいるが彼女は赤い髪をそのままにしていた。

 瞳の色も、宝石を思わせるベザリーの碧眼と違い、水底に生える苔を彷彿とさせる。

 目元はきつく、そこ意地の悪さが感じられる。


 彼女にきつくあたられたメイドは多く、彼女付の使用人は次々辞退するため執事長は頭を抱えているとか。

 彼女のそばにはメイドと護衛騎士しかいない。

 乳母すらクビにして自身の子に直接乳を与えているとか。

 ベザリーが彼女に挨拶する際にメイドが心配していた。ヴィヴィアが何を言おうと気にしないで欲しいと。


「夫人に贈り物があります」


 ベザリーは緊張しながら綺麗な布とリボンで包んだ袋を見せた。


「私がブレンドした薔薇の紅茶です。最近育児で疲れていると伺い、少しでも夫人の疲れを癒してくださればと思います」


 そう言いながら差し出すそれにヴィヴィアは眉をしかめながらも受け取ろうとした。

 わずかに指が触れた瞬間、ヴィヴィアはその袋を手で払った。


 ぽとりと投げ飛ばされた袋は床に落ちた。


「失礼します。奥様は今は食べるもの、飲むものにも気をつかっているのでこちらはお受け取りできません」


 そばに控えていたヴィヴィアのメイドが袋を拾い、ベザリーに手渡した。


「それに、贈り物をするならば事前に相手の事情を把握すべきでしょう」


 乳母が不在でヴィヴィアがまだ生まれて数ヶ月の赤子に乳を与えている。食べ物、飲み物にも気を使うヴィヴィアに自家製のものを贈るのは非常識だ。


 そう非難しているようだった。


「ごめんなさい。私、少しでも夫人の力になれればと思っ……」


 涙をこぼすベザリーの姿はとても可哀想に感じられる。

 ベザリーの案内役で彼女の世話役を任されたメイドはキッとヴィヴィアを睨んだ。


「あまりでございます。ベザリー様は奥様の為に思って一生懸命作ったものですのに!」


 ガチャと扉が開く音がした。


「だ、旦那様っ」


 クリス・ゴーヴァン。

 ゴーヴァン公爵家当主、国王の姉の子で幼少期から国王に目をかけられ、それにこたえるように数々の戦果をあげた英雄でもあった。


「何の騒ぎです?」


 少し苛立った声にヴィヴィアはびくりと震えた。


 ベザリーのメイドが先に話す。


「奥様がベザリー様の贈り物をはたいて捨ててしまわれました。いくら気に入らないものでもそこまでしなくてもいいじゃありませんかっ!!」


 クリスはじろ、とヴィヴィアを睨んだ。

 ヴィヴィアは必死に考えているようだが、言い訳が決まらないようだ。


「ベザリーを部屋へ案内してくれ」


 クリスの言葉にメイドはベザリーを大事そうに支えて部屋を出た。


「いい加減にして欲しい。あなたが他人にきつくあたるから屋敷の雰囲気は最悪なことにまだ気づかないのですか?」

「恐れながら、奥様が今まで注意した使用人たちは皆職務怠ま」

「君に発言を許した覚えはない」


 ヴィヴィアのメイドをクリスは釘を刺す。


「何か言ってみてください」


 ヴィヴィアはクリスを見上げて言った。


「あの贈り物の中に変なものが入っていました」

「何故それがわかるのだね? 変なものとは何だい?」

「それは」


 ヴィヴィアは口籠る。


「彼女は私の命の恩人だ。変なことを言わないで欲しい」


 不愉快だ。


 クリスはそう言い残し、部屋を出ようとした。


「あー、ふぎゃー!」


 部屋の奥から幼い子供の声がした。


 まだ1歳にならない赤子の鳴き声。


 その声にクリスは眉根を顰めた。

 ヴィヴィアは奥へ行き、子供をあやそうとした。


 それを見ても、クリスは反応を示さずに扉を閉めた。

 彼が去った後、一瞬ヴィヴィアは俯いた。

 赤子がヴィヴィアの髪を掴みひっぱる。すぐにヴィヴィアは顔を上げた。赤子をみて、笑顔であやした。


「ご本を読みましょうか?」


 ケイトは児童向けの本を取り出した。

 子供が生まれた時にヴィヴィアが揃えたこぐま騎士シリーズの絵本。

 それにヴィヴィアは照れたように笑った。


「お願い」


 それからクリスは本邸ではなく別邸で過ごした。ベザリーの為に用意した部屋があるからだ。


 仕事も生活もほとんど別邸で過ごして、ほとんどの使用人はそちらに出入りしていた。


 ベザリーとクリスの関係が恋仲だと触れ回るのは間も無くのこと。

 見目麗しい男女の姿は誰もがうっとりするほどのものであった。

 ベザリー自身、優しく気立がよく使用人たちの間で評判だった。


「ベザリー様が公爵夫人だったらよかったのに」


 ヴィヴィアの耳に届くほどのメイドの会話に、ヴィヴィアは頭を抱えた。


 2年後にヴィヴィアは裁判にかけられる。


 ベザリーに嫉妬したヴィヴィアは彼女の活動を邪魔するだけではなく、亡き者にしようと企てたためだ。



 冷たい視線がちくちくと刺さる。

 同時に牢獄で受けた拷問の傷が疼いた。

 それでも崩れずに済んだのは子供がいたからだ。


 せめて子供だけは守りたい。


 その願いも虚しく裁判で、自分の子は不義の子と認定された。

 彼女の実家がヴィヴィアの不貞を公表したからだ。


「実家にいたときから品が悪く、男と遊んでいた。実の兄にも色目を使う娘でした。まさか公爵様まで欺き、不義の子を産むなど」


 嘆き悲しむ兄の姿にヴィヴィアは青ざめた。


 違う!


 必死に否定しようにも、誰も私の声など聞く気もない。


 悪役に相応しい惨めな姿を求めるばかりだ。


 裁判が終わり、絞首刑が決まり執行まで過ごすことになる牢獄に放り込まれ、ヴィヴィアは子のことを願うしかなかった。

 最期の時、絞首刑の場でおこる罵詈雑言。


 刑場の観客席にいたのは元夫の姿。

 彼が最後の慈悲として子の未来について教えてきた。


「ヴィヴィア、お前の子はロズモンド孤児院で養育されることとなった」


 夫の領地のはしにある修道院、夫が寄付している修道院だ。

 今まで公爵家嫡男として育てられた3歳の子が環境の変化に耐えられるのだろうか。


「ノエルはあなたの子です」


 かすれた声で訴えるが、元夫は眉を顰めた。


 ここまで往生際が悪いとは。


 そんな言葉が聞こえてきそうだ。


「ノエルはあなたの子です!」


 それでもヴィヴィアは声を張り上げた。

 処刑人に顔を袋に覆われてもなお言うのをやめない。

 絞首台にたたされて足をささえる床がなくなるまで私は叫び続けた。


 苦しげに喘ぐその姿を人々はただ冷たく眺め、時には罵声を投げかける。

 それが「小公女ベザリー」の悪役ヴィヴィアの最期だった。


 ◆◆◆


 ゴーヴァン公爵領で、突然の雷が鳴り響いた。それは公爵家の屋敷に直撃したものの、屋敷は燃えることなく無事であった。

 使用人たちは大慌て、それをとりしきる執事長の声で少しずつ冷静さを取り戻していた。


 近くの敷地に駐在している騎士団たちが、屋敷へと集中してくる。被害がないかを確認しにきたのだろう。


 屋敷に主人たるクリス・ゴーヴァン公爵は不在である。しかし、女主人がいた。


 ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人が。


「奥様、大丈夫ですか?」


 先程の雷の光と音によろめいた女性である。

 メイドが彼女を支えて椅子の方へと案内した。

 顔面蒼白のヴィヴィアを心配してメイドは医者を呼ぼうとする。

 それを必死にヴィヴィアは止めた。


「ねぇ、私は……ヴィヴィア、よね」

「そうです。奥様はゴーヴァン公爵家の女主人、ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人です」


 雷の衝撃で混乱しているようだ。


 メイドは必死に彼女の名前、立場を説明した。


「お水をいただける?」


 ヴィヴィアの頼みにメイドは頷き部屋を出た。

 部屋の中でヴィヴィアは自身の名を呟いた。


「私はヴィヴィア・ゴーヴァン」


 最期まで見苦しくあがく小説の悪役。


 まさか、小学生の頃に読んだ小説「小公女ベザリー」の悪役に転生してしまうなんて。


 ヴィヴィアとして生まれてなんとなく感じる違和感を感じていた。

 既視感を感じ、時にはどうしようもない切迫感ともどかしさに苦しんだことがあった。

 前世で読んだ小説の事件の伏線を感じ取っていたからだろう。


 なーんで、結婚した後に思い出すかなー。


 ヴィヴィアは頭を抱えた。

 もっと早く思い出していたらよかったのに。

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