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6話目 幼馴染は意外と

「なに、そっちから話しかけてくるなんて珍しい」

 とつぜん、どこかから聞こえてきたノコミの声に対してアテラが唇を動かさずに返事をした。

「お姉さまが楽しんでいる姿を見るのも退屈なのでこちらも独自に動くことを伝えておこうかと」

「わざわざ報告してくれるなんてりちなことで」

 ノコミの笑い声が聞こえる。

「さっそく仕掛けるつもりなので、死なないでくださいね。お姉さま」




「才藤さん?」

 もたれかかってきたアテラの両肩をつかみ、心配そうにツクヨが正面から白髪の彼女の顔をのぞく。

 恥ずかしがるような様子もなくアテラはツクヨに支えられたままで堂々としている。

「失礼。昨夜はきんちょうで眠れなくて……ついつい」

 アテラが目をこすり、身体をふらつかせていた。

「肩を貸したほうが良いかな」

「ありがとう、でも大丈夫。それに肩を貸してもらえるのなら同じ女の子よりも殿方とのがたにおんぶとかされたいものですし」

「だってさ、どうするの? ツクヨ」

 にやつくヒトミがツクヨを見上げる。

 アテラの顔色をあらためて確認していた。色白でわかりづらいが白髪の彼女の体調が悪そうだと判断したらしく銀髪の彼がしゃがみこむ。

「ナツよりは軽そうだし。才藤さんが迷惑じゃないのであれば、よろこんでやらせてもらいますよ」

「では、お言葉に甘えて」


 しゃがみこんだツクヨの背中にちゅうちょをすることなくアテラが抱きついた。

 ヒトミが口を閉じて、ほおを赤くする。

 同年代の女の子をおんぶすることなど問題ないと言っているかのように、銀髪の彼が立ち上がった。

「あまりくっつかないほうが良いんじゃないかな。ツクヨも一応は男の子なんだし」

「忠告をどうも。だけど、わたしは気にしないのでご心配なく。木下くんもヒトミみたいなわいらしい女の子と接しているのでこれくらいでは動揺しないと思いますよ」

 そうですよね、木下くん……と同意を求めるようにアテラがささやく。

役得やくとくなんで文句は言いませんが、できることならからかわないでほしいかと」

「そう怒らないでくださいな。わたしが思っていたより殿方の背中がとても上質なベッドだったことに興奮している影響で」

 アテラの声が聞こえなくなってか、ツクヨが首を動かす。白髪の彼女が寝息を立てていた。


「変なことしたら怒るからね。アテラは優しいからゆるしてくれているっぽいけど」

「わかっているよ。悪いけどさ、おれの鞄も持ってくれないか」

 ツクヨに言われ、ヒトミが彼のスクールバッグを拾い上げる。思っていたよりも重かったのか赤髪の彼女が驚いている様子。

「なんか重くない?」

「教科書やノート以外にグラビア雑誌とかが入っているからな」

「ツクヨも女の子に興味があったんだ」

 どれどれ、わたしが審査してあげようじゃないかという顔つきをしているヒトミがツクヨのスクールバッグを開ける。

 銀髪の彼が大声を出しかけるも、アテラの存在を思い出してか赤髪の彼女がグラビア雑誌を取り出すのを眺めていた。

「グラビア雑誌は平気なのか」

 頬を赤らめることもなくグラビア雑誌のページをめくるヒトミにツクヨが言う。


「グラビア雑誌にのっている女の子たちは水着姿になるのが好きなんでしょう。わたしがその気持ちを否定するのはお門違い」

「正しい考えかただと思うが、ナツがエッチなことに関して否定したからって問題ないだろう」

「だとしても、わたしはなんとなく嫌なの」

「変なところが真面目だよな」

「ほめるんだったら、もっと聞こえるように言ってくれれば良いのに」とヒトミが唇をとがらせた。

 なにかを見つけたようでヒトミがグラビア雑誌のページをめくるのをやめる。

「この女の子さ、わたしに似てない?」と目をかがやかせているヒトミが聞いてきたがツクヨは返事をしなかった。

「さっきみたいにほめろよ。わたしもアイドル的な存在になれるってことでしょう」

「わかったから、はやく帰らせてくれ」

「まったくツクヨは変なところで照れるから彼女ができないんだよ。肯定してくれるだけで良いのに」


 軽くののしり、ヒトミがグラビア雑誌をツクヨのスクールバッグの中に戻す。

「才藤さんの鞄も持てそうか」

 ツクヨの心配もよそにヒトミがアテラのスクールバッグを持ち上げて肩にかける。

「頼んでおいてだが、大丈夫か?」

「平気。そっちこそアテラを起こさないように慎重に歩いてあげてよ」

 廊下の窓から差しこむ夕日の光にヒトミがまぶしそうに目を細めた。ツクヨの背中で眠っているのであろうアテラの白髪がきらきらとかがやいて。

「素朴な疑問なんだけど大きいほうが良いの?」

 普段よりも歩くスピードをゆるめているツクヨがヒトミの顔をまっすぐに見つめた。

「なにがだよ」

「女の子の胸とかお尻とか」

「個人の趣味によるとしか言えないな。一般的には大きいほうが好みのやつが多いかと」

「ツクヨは?」

 表情を変えることなくヒトミが質問をしている。


「どんな種類の罰ゲームだよ。幼馴染おさななじみとはいえ年齢の近い女の子にそんなこと暴露できるか」

「ツクヨも大きいほうが好きなんだね」

「テレパシーを発動するなよ。プライバシーの侵害だぞ」

 と言いつつ、また曲がり角があったからかツクヨの足がとまる。銀髪の彼の隣を歩いていたヒトミも不思議そうな表情をした。

「さっきも曲がり角があったような」

「だよな。そこから歩いてきたんだから曲がり角がまたあるわけがないはず」

「器用ですね。学校で迷子になってしまうなんて」

 ツクヨにおんぶされているアテラが上半身を起こして、大きなあくびをする。

「迷ったのであれば、サッカー部の更衣室のほうに戻ってみませんか」

「アテラの言う通りにするのが一番良いのかもしれないね。なんか変な感じもするし」

「変な感じがするのなら動かないほうが良いんじゃないのか」

「じっとしていても帰れないんだから動くしかないと思うけど」

 この世界には自分のこわいものなどないと言わんばかりにヒトミが引き返していった。

 顔をしかめるツクヨを見てかアテラがにやつく。


「男前な幼馴染さんでうらやましいわね」

「まったくです。ところで歩けそうですか、見た目と違って体力がないほうでして」

「この校舎を出られたら起こしてくださるかしら」

 ツクヨの言い分を聞くつもりがないらしくアテラがはっきりと言う。

「忠告というか、おれも一応は男なんで」

「変ですね。このていどで木下くんの理性がなくなるのであればとっくの昔にヒトミを手に入れていると思いますが」

 グラビア雑誌にのっている幼馴染さんにそっくりな女の子なんかをつかわずに、とアテラにささやかれてかツクヨが脱力をしている。

「どこへなりと才藤さんの望むがままに」

「では、よろしくお願いしますね。そうそう、お礼でもないですが。わたしが眠っている間に木下くんの邪悪な気持ちが暴走してしまったとしてもかまいません」

「本気にしてしまいますよ」

「わたしのお尻も触れない木下くんがそんなことを言っても説得力なんてありませんね」

 ヒトミを追いかけつつ……しばらくの間ツクヨはアテラと会話をする。白髪の彼女の声が途切れて、再び寝息が聞こえると銀髪の彼はゆるやかに歩いていた。




「また元の場所に戻ってきているっぽいな」

 三人分のスクールバッグを持ち、すばやく階段の上り下りをした直後にもかかわらずヒトミは平然としている様子。

「ナツ。あまり動き回るなよ」

 足音とともにツクヨの声が聞こえてか、ヒトミが振り向く。

「動かないと校舎から出られないし」

「なにか変なことが起きているんだから考えなしに動くなって言っているんだよ」

 ツクヨの言葉に驚いてかヒトミが目を丸くする。

「ごめん」

「こっちこそ大きな声を出して悪かったよ。とりあえず」

「校舎の外に出られれば良いんだから窓を開けたり破壊をしちゃえば」とヒトミが廊下の窓を動かそうとするがびくともしない。

「代わろうか?」

 ヒトミがまた危ないことをしていることに怒りを覚えてかツクヨが声を鋭くする。

「ムダだと思うよ。ツクヨの言った通り、変なことが起こっているみたいだね」

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