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5話目 幼馴染とはそうならないの

「つまり、感知能力の弱さをおぎなうためのオートマチックな攻撃システムということですかね」

 アテラから聞かされた白い翼を生やしたカニたちが真っ二つにされたことについて聞き終わると……ノコミの声がどこからか響いた。

「デスサイズちゃんが自ら構築こうちくした技術というより才能の部分が大きそうだけどそんな感じでしょう。感知能力の弱さをあえて利用をしてくるなんて」

 唇を動かさず、自分のすぐそばにはいないノコミにアテラが返事をしている。

「ところで転校生ごっこはまだ続けるつもりで?」

「むしろ本気で遊ぶほうが良さそうだと、わたしは思っていたりするんだけど」


 デスサイズちゃんの弱点をさぐるにしてもつくるにしても転校生として彼女の近くにいるほうが便利だとも思うんだけどね、とアテラが続ける。

「精神攻撃もほとんど効果がなかったのではありませんか。今のオートマチックな攻撃システムも異常なしだったとか」

「デスサイズちゃんが精神的に幼いからこそ影響が少ないとわたしは判断したわ。風間くんとの関係が深まるほど攻撃システムや闘争とうそうにも支障が出てくるはず」

「お姉さまにしては珍しく、長期的な手段を選ぶんですね」

「相手がデスサイズちゃんだからこそよ。不意打ちをするにしても入念な準備が必要だと今回の」




「アテラ、眠っているの?」

「目を閉じていただけよ。今日はぽかぽかしているから太陽の匂いがいつもよりも強いし」

 まぶたを開いて、自分の席に座るアテラが近くに立つヒトミを横目で見た。回転音が聞こえる方向に白髪の彼女が視線を向ける、手のひらサイズの鎌が浮かんでいた。

「わたしに対して怒っている?」

 アテラにそう言われ、慌ててヒトミが自分のほおに両手で触れる。クラスメイトの男子に見られていることに気づき、赤髪の彼女が隠れるようにしゃがみこんだ。

「怒っているように見えるの? 笑っているつもりなんだけどな。アテラには今からその、女の子同士にしかできない秘密作戦を実行してもらうんだし」

 しゃがみこんだまま自分の頬を触っているヒトミを気にせず、アテラは空中に浮かぶ手のひらサイズの鎌を赤髪の彼女に気づかれないように観察する。


「ヒトミの頬はやわらかくて美味しそうね」

「お腹がすいているの」

 アテラが右手で頬杖ほおづえをつき、ヒトミとまっすぐに目を合わせた。

「みたいなことを風間くんが言っていたとかクラスメイトの誰かが言っていたわ」

「イオリでしょう、そんな冗談を言うのは」

 ヒトミが声を荒らげる。

「どうだったかしらね」

 腹を立ててそうなヒトミをにやついた顔でアテラが見つめていた。赤髪の彼女が動揺をして、回転のスピードが落ちてしまったからか空中に浮かぶ手のひらサイズの鎌がぐらつく。

 立ち上がったアテラが教科書やノートなどをつめこんだ重そうにスクールバッグを左肩にかけた。

かざくんはどこにいるの?」

「部室だと思う」

「では……恥ずかしがり屋のわたしをそこまでエスコートしてくださいな」

「オッケー。こっちこっち」


 ヒトミについていき、サッカー部の男子更衣室に到着するもカケルはそこにはいなかった。

「グラウンドの整備とかでサッカー部の練習ができないとか言っていた気がする」

「風間くんのいきそうなところに心当たりはないんですか。部活が終わったあとに立ち寄るコンビニの場所とか」

 目をつぶり、しばらく悩んでいたが確実にカケルがいる場所は思いつかなかったようでヒトミが首を横に大きく振っている。

「うぬぼれかもしれないけどさ……わたしのためにデートプランを考えてくれているとかだったり」

「まだ風間くんとは付き合ってなかったのでは」

「本物じゃないデートだったら、したことある」

 昨日カケルと一緒にサッカー部の雑務をこなしたことをヒトミから聞いたからか、アテラがうなり声を上げる。


「ヒトミの言うようにデートプランを考えているかまではわからないけど、リサーチぐらいはしてそうね。風間くんからしてみれば接待せったい相手のようなものですし」

「そんなに悩んでくれなくても風間くんとだったらわたしはどこでも楽しめるのに」

「風間くんはヒトミが安上がりなことを知りませんからね」

 アテラの言葉のとげには気づかなかったようで、ヒトミの表情に変化はなかった。

「デートプランにしてもリサーチにしても、ヒトミを楽しませるために努力しているのを邪魔するのも悪いですし。わたしたちの例の秘密作戦も明日の朝にでもしましょうか」

 嬉しそうな様子のヒトミも賛成らしくサッカー部の男子更衣室から離れた。廊下を歩いている赤髪の彼女が曲がり角の前でとまった……連動するようにアテラも足をとめる。


 不穏なものを感じていてか、ヒトミが鋭い目つきをしていたがすぐに元の状態に戻った。

 目の前に現れた銀髪の男子生徒のととのった顔をヒトミとアテラが見上げている。

「ツクヨか。びっくりさせないでよ」

「別に驚かせるつもりなんてなかったんだけどな。ところで、そちらの美人さんは?」

「お上手ですね」と言って、アテラがツクヨに軽く頭を下げた。銀髪の彼も白髪の彼女とまったく同じ動作をする。

「うわさの転校生の才藤アテラちゃん、帰国子女で経験値は少ないけど恋愛の達人。こっちはわたしの幼馴染おさななじみの木下ツクヨ。漢字はね、まず才藤は」

 ヒトミの自己紹介が終わるとあらためてアテラとツクヨはあいさつを交わす。

 ツクヨがちらりとアテラのれいな顔を見下ろす。とつぜん銀髪の彼が顔を近づけてきたからか白髪の彼女が不思議そうにしている。


「幼馴染がずいぶんと迷惑をかけているようで……なんかすみません。ナツのことを訴えたくなったらいつでも相談してください」

「大変貴重な経験をさせてもらっていると個人的には思っていますのでご心配なく。それよりもなんとお呼びすれば良いでしょうか?」

「なんでも良いですよ。問題なければ、おれは才藤さんと呼ばせてもらうつもりだったりします」

「ヒトミのようにニックネームでもわたしはかまいませんのに」

「幼馴染でも恋人でもない女の子相手に特別な呼びかたはさすがに恥ずかしいですよ」

「意外と正直者なんですね。それではこちらは木下くんと呼ばせてもらいます」

 楽しそうに会話をしているアテラとツクヨを交互にヒトミが見る。赤髪の彼女が口角こうかくを上げた。

「意外とお似合いじゃない」

 ツクヨの横腹の辺りをヒトミがひじでつつく。

「才藤さんにも選ぶ権利があるんだから、変なことを言って困らせるな」


 繊細せんさいさのかけらもなさそうな雰囲気をただよわせる、ツクヨのヒトミへの応対おうたいに驚いているようでアテラが目を丸くした。

「本物のきょうだいのようで楽しそうね」

「えっへん」

「違う違う、どう考えてもナツが妹だろう。こんな姉がいたとしても頼りなさすぎるわ」

「それこそ偏見だね。ツクヨはわたしの大人っぽいところを知らないからそんなことを言えるんだよ」

「お互いさまだ。そもそも中学生はまだ子供だし」

 アテラはどっちが大人だと思う、というヒトミの質問に対して白髪の彼女はツクヨを選ぶ。

「女の子は若く見られるほうが勝ちなんだからね」

 ヒトミが悔しそうな表情をしながら言う。

「中学生よりも若いと小学生になるんじゃないか」

「うぐぐ……口が上手いだけのかっこいいやつめ」

「今の悪口?」


 確認をするようにアテラがツクヨに聞いた。

「らしいですよ。見た目通りのわいいやつなんで、これからも仲良くしてやってくれると助かります」

 きゃんきゃんといぬのようにほえるヒトミを半ば無視して、ツクヨがそばに寄ってきたアテラと目を合わせる。

 内緒ないしょの話でもしようとしてかアテラが爪先つまさきちをしてツクヨの左耳に白髪の彼女が唇を近づけた。

「木下くんは本気でヒトミを口説かないの?」

 かすかにツクヨが動揺したのを感じ取ったからかアテラがにやつく。

 からかわないでくださいよ、とでも言いたそうな顔をツクヨがする。

「自分が好きだとわかっている相手以外には興味がないようですからね。時間はたっぷりあるので風間との恋をサポートしつつ眈々《たんたん》って感じです」

けななことですわね、木下くんも」

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