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3話目 日本刀好きの転校生は聞き上手

 紫色の煙に包まれていた白髪の少女。才藤アテラがとつぜん真っ暗な部屋に現れた。

 電気をつけようとするが途中で面倒になったのかアテラがベッドの上にあおけで倒れる。さっきまでビルの屋上でヒトミと命のやりとりをしていたことを思い出してか白髪の彼女が笑う。

「久しぶりに楽しいバトルだったようですね」

 暗闇の中から声が聞こえた。

「デスサイズちゃんに殺されないようにするだけで精一杯よ。楽しむ余裕なんてなかったわ」

 アテラは驚いた様子もなく返事をしている。

「今からでも遅くはないと思いますよ。イロハニのたまを返せばゆるしてもらえるでしょう」

「ゆるしてもらうにしても、最高傑作だと呼ばれるデスサイズちゃんを倒してからでも遅くないんじゃない」

「理屈はわかりますが、勝てるんですか」


 口をつぐんだままでアテラが目を閉じた。

「どうなんですか」

「文句があるのなら、イロハニのたまを奪ってくれてもかまいませんよ。ノコミはわたしに巻きこまれただけなんですし」

「お姉さまが勝算もなく、わがままでこんなことをやっているのかどうかを知りたいだけです。裏切るつもりなんてさらさらありません」

 眠ってしまったのかアテラが動かない。しばらくの間、真っ暗な部屋がしんとした。

「勝てなくはないかと思いますよ」

「起きていたんですね」

「眠ったとは伝えてないはずですが?」

「寝てしまったのなら唇を動かせないでしょう」

 それもそうね、とでも言いたそうにアテラがにやついている。


「デスサイズちゃんの通っている学校……不可視の学園と呼ばれる場所に転校しようと思うんだけど」

「弱点とかをさがすためにですか」

「正確には、デスサイズちゃんに意中の相手がいるようだからちょっかいをかけてみたくなっただけ」

 上手く利用をできればノコミの言うように、デスサイズちゃんを弱体化できるかもしれないわね……とアテラが続ける。

「逆にパワーアップさせる場合もあるのでは。感情の変化で戦闘能力が上がるというデータもいくつかあったような」

「多少のリスクは承知の上。そういう打算を抜きにしても学校とやらにも興味がありますし……新しいインスピレーションの種にもなるかと」

「だったらアドバイスを一つ。自己紹介の時には」




「アドバイスではなくてイタズラだったようね」

 しんとした、なんとも言えない空気を感じ取ってか黒板の前に立つアテラがつぶやく。

「というのは冗談で……帰国子女のようなもので、話しかたやらギャグセンスとかがズレてしまう時がありますので。学校の勉強とともに学ばせてくれると助かります」

 あらためてアテラがヒトミと目を合わせた。

 赤髪の彼女のほっとしたような顔を見て、自分の存在に気づいてないと確信してか白髪の彼女が右手で口元を隠しながらにやつく。

 拍手を聞き流しつつ、担任にうながされるがままアテラはあいている席に座った。

 隣の席のヒトミに向かって白髪の彼女が軽く頭を下げる。

「これからよろしくね」

「こちらこそ、わたしは常夏とこなつヒトミ。漢字はね」

「もしかしてつねに夏で……常夏とか?」


 アテラの言葉を聞いてかヒトミが口を開けたままで動きをとめた。

「正解! なんでわかったの」

「小さい頃からそういう勘がかなり鋭いの。なんとなく常夏さんって太陽みたいなイメージがあるし」

 常夏さんは意外とくさりがまとかが似合いそうね、とアテラに言われてかヒトミが戸惑っている様子。

「ごめんなさい。また変なことを」

「ううん、そんなことないよ。わたしも才藤さんは日本刀が似合いそうだなとか思っていたし」

 頭をかき、笑いながらヒトミが返事をする。

「常夏さんも勘が鋭いようですね。わたしが日本刀が大好きだと見抜いてしまうなんて」

「そうかな? あとかたくるしいからヒトミで良いよ」

「では、わたしもアテラと呼んでくれれば……これからヒトミともっと仲良くなっていきたいですし」

 笑みを浮かべながらもどこか目つきの鋭い印象のあるアテラに違和感を覚えたらしく、ヒトミが首を傾げていた。




 ホームルームが終わり、アテラの周りに生徒たちが集まってきた。自分がどのように見られているか理解しているかのように白髪の彼女の目つきは冷ややかだった。

 たいとは裏腹うらはらに質問攻めにも真摯しんしに対応したからかチャイムが鳴るたびに生徒たちは満足そうな様子でアテラのそばから離れていく。

 転校生のためにわざわざポニーテールにする必要がなかったとヒトミも思ってか昼休みにはヘアゴムを外して元のセミロングに戻していた。

「ヒトミ、良かったら校舎を案内してくれない」

 机越しにイオリと向かい合わせに座ったヒトミが紙パックのオレンジジュースをすするのをやめる。

 そばに立つアテラの顔を赤髪の彼女が見上げた。

「わたしで良いの?」

「ヒトミが良いのよ。一番下心がなさそうだから」

「下心って……アテラがれいな女の子だから友達になりたいだけだと思うけど」

「個人的にはそういう考えかたも下心。友達になるのに容姿の良し悪しはまったく関係ないでしょう」

 ぴしゃりと言い切るアテラに対してか、ヒトミが苦笑いを浮かべた。


「なかなか手厳しいね、才藤さんって」

「こら」

 ヒトミに軽く注意されて、イオリがアテラに簡単な謝罪をする。別に気にしていませんよ……と白髪の彼女は答えていた。

「どちらかというと、竹中さんのように本音をぶつけてくれるほうが仲良くなれそうな気がしますね」

「見た目通りのサディストちゃんだね。思っていてもそんなことは言えないよ」

「意外とわたし自身はマゾヒストだと思っているんですけどね。自分のつくったものを破壊されるのも悪くないと考えてしまいますし」

 イオリの目がかがやき、興奮しているのか鼻息を荒くする。

「才藤さんのマゾヒストなところについて、もっと具体的に」

「校舎の案内だったね。こっちこっち」

 不思議そうに首を傾げながらもヒトミに手をひっぱられるがままアテラは移動していく。教室を出て廊下をしばらく歩いたところで赤髪の彼女が白髪の彼女のほうに振り向いた。


「イオリはちょっと変態っぽいところがあるから、真面目に質問に答えないほうが良いよ」

「了解。ちなみにヒトミは自己判断でサディストかマゾヒスト……どちらだと」

「わたしはノーマルです」

「いじめがいのありそうなことで」

 アテラが意地悪そうに笑うも、白髪の彼女の個性なのだと受け入れたのかヒトミはなにも言わない。

「気になっている場所とかあるの」

「校舎の案内を頼んだんでしたね。ごめんなさい。ヒトミと二人きりで話をするための嘘だったの」

 ヒトミに対してそれほど悪いとは思ってないようでアテラの表情はほとんど変わらなかった。

「素直に言ってくれれば良かったのに」

「わたしにとっては意中の相手に告白できないのと同じようなものなのよ」

「だったら仕方ないね。気持ちはよくわかる」

 アテラの黒く染めてある目が、さっきのイオリと同じようにかがやく。


「とつぜんだけど恋愛に関する話をしましょうか」

「本当にとつぜんだね。クールそうだけど、意外とアテラって恋愛系の話とかが好きなの?」

「まったくですわ。この国の女子中学生は恋愛の話が大好きだと本で読んだ記憶があっただけのこと」

「それじゃあ本好きのアテラにも好きな男の子とかがいたりするの? 相談だったらいつでも」

「そもそも、これまでにいたことがありませんね」

「前提が破綻をしている気がするんだけど」

 戸惑った様子のヒトミがつっこんでいる。

「わたしはともかくヒトミにはいるんじゃない? 好きな男の子とか、ついつい顔を見てしまう好きなクラスメイトとか……サッカー部に所属しょぞくをしている大好きな」

 ヒトミが顔を真っ赤にした。

「せめて場所を変えさせて」

 会話の内容は変わらなさそうなのにとでも言いたそうな表情のアテラがヒトミの背中を追いかけた。

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