26話目 一時閉幕
ヒトミの果たし状に書いてあった場所。いつぞや赤髪の彼女と闘争した廃ビルの屋上へと続いている扉をアテラが開けた。
赤髪の彼女が立っている。満月を見ていてか白髪の彼女が到着したことに気づいてない様子。
「ロマンチックなことをするわね」
とアテラに声をかけられて、ヒトミが驚いたような顔をつくった。
「不意打ちしてくれても良かったのに」
「無意味なことはできるだけしないほうなので」
苦々しそうにアテラが舌をのばす。
「ありがとう……アテラ。わたしのわがままに付き合ってくれて」
「ヒトミの願いを叶えたわけではありませんよ」
鳴上さんは? と質問をされてヒトミが首を横に動かしている。
「やる?」
「鳴上さんがくるまで我慢できないの」
「時間がないんだもん」
「わたしはこのまま時間切れのほうが良かったんだけど仕方ないわね」
一瞬で距離を縮めてきたヒトミの持つモルテプレディオンを、白銀の一切でアテラは受けとめた。
「卑怯じゃないかしら」
「アテラだったら、このくらいは大丈夫でしょう」
「勝手な言い分」
文句を言いながらもアテラは笑っている。
縦横無尽に振り回してくるモルテプレディオンをすべてアテラは防いでいく。
「攻撃しないの?」
「できるだけ闘争を楽しみたいようだから、ペース配分しているのよ。まだ鳴上さんもこちらに来ないと思いますし」
「アテラって自分が死んじゃいそうな時も、冷静になにかを考えてそうだよね」
「演じているだけのこと。本当の中身はどこにでもいる女の子と変わらないわ」
「ふーん、だったら……わたしに勝てたらツクヨを諦めてあげても良いよ」
嘘が下手ね、という顔をアテラがした。
「わたしに負けたていどで諦められるのなら、風間くんもほしいなんて考えないでしょう」
「ツクヨを死ぬ瞬間まで好きでいられるかはわからないしさ。別れる場合だってあるかもしれない」
「その時はわたしがツクヨくんをなぐさめてあげるのでご心配なく」
「良いなー、ツクヨ」
とヒトミがつぶやく。
我慢の限界か、赤髪の彼女の目が黒く染まる。
「なんで、この子を好きになったのかしら」
「好きになったからじゃないですか」
アテラのぼやきに、返事をしたツクヨのほうへとヒトミが視線を向ける。
黒く染まっていた目が元に戻り……赤髪の彼女が動揺している様子。無防備になる瞬間を待っていたのか白髪の彼女が白銀の一切を振り下ろす。
「やっと勝てた」
アテラがモルテプレディオンを真っ二つにした。
「あーあ」とでも言いたそうにモルテプレディオンを見つめながらヒトミが口を大きく開けた。
「ちぇっ、終わりか」
「充分でしょう。これだけ暴れたんだから」
なおせるのか不安なのか転がっている貯水タンクをアテラが見つめる。
ヒトミがモルテプレディオンの刃を自分の首元に当てた。赤髪の彼女の両手が震えている。
「さすがのヒトミも自分の首を切ることは躊躇をするようね」
「どうだろう……手をふるわせているほうが普通の女の子っぽいからそうしているだけ。ツクヨに嫌われたくないし」
と、アテラにだけ聞こえる音量でヒトミが言う。
近づいてきたツクヨのほうに赤髪の彼女が視線を動かす。
「わたしにほれているくせにアテラの手伝いをするなんて反則すぎない」
「ナツが最強なんだから、アーティスちゃんを勝たせようとするのはとうぜんだろう」
「アーティスちゃん?」
ヒトミがアテラの顔を見た。
「アーティスちゃん……アテラが。ぷっ」
ヒトミが大声で笑う。モルテプレディオンを落としてしまい、赤髪の彼女が腹を抱える。
「美人なのに、アーティスちゃんって! ツクヨに可愛いニックネームつけられるなんて」
「変なところに笑いのつぼがあるようね」
不満そうな顔をしたアテラに、呼吸をととのえて笑うのをやめたヒトミが謝っている。
「これからわたしもアーティスちゃんって呼んでも良いかな?」
「ヒトミが覚えていられたら、いくらでも」
「相変わらず意地悪だなー。アーティスちゃんは」
拾い上げたモルテプレディオンの刃を再び、首元に当てながらヒトミがツクヨに笑顔を向ける。
「どっちでも良いよ」
モルテプレディオンを真一文字に動かしたが……ヒトミの首はつながったまま。
気絶をしたのか倒れこみそうになる赤髪の彼女をツクヨが抱きしめるように支えた。
「どうして、わたしの可愛いニックネームをヒトミが知らなかったんでしょうか? と聞きたそうね」
「アーティスちゃんは知っているんですか」
「わたしの想像でしかないけどモルテプレディオンによる記憶の消去が、今回だけじゃなかった」
おそらく世界の空気清浄の仕事が終わるたびに、正常な自分を保つために記憶をリセットしていたんでしょう……とアテラが言う。
「躊躇がなかったのも」
「つまり限界がきてしまったので、完璧に壊れる前にモルテプレディオンから解放してくれたと」
「怒る?」
「結果オーライなので、今回だけはゆるしますよ」
まぶたを閉じ、動かないヒトミをお姫さま抱っこしたツクヨが廃ビルをあとにする。
赤髪の彼女を家に送るまで、銀髪の彼とアテラはなにもしゃべらなかった。
「甘えても良いとは言いましたが、ずいぶんと大胆ですね」
ツクヨに抱きつかれて……ベッドに押し倒されてしまったアテラがつぶやく。
銀髪の彼の頭をなでつつも、同居人であるノコミに見られてないかと不安なのか白髪の彼女の両目が慌ただしく動く。
「落ち着きましたか」
「なんとか。考えてみれば、どうしようもなかったと思いますし」
返事はしなかったがアテラは覆いかぶさるように密着するツクヨの頭をなでている。
「後悔をしているのであれば、その分だけこれからヒトミを甘えさせてあげれば良いのでは」
「アーティスちゃんは?」
「ヒトミの話でしょう。わたしは関係ないですし、そもそもモニデカは人間のためにがんばる存在なんですから気にする必要なんてありませんよ」
「もしも、アーティスちゃんも人間だとしたら」
アテラが首を横に振った。
「わたしはモニデカですよ。仮に竹中さんの仮説の通り人間だったとしても問題はありません」
わたしはわたしをモニデカだと信じているんですから……とアテラが言う。
「おれが」
「時間切れです。どうせ抱きついたんだからこの胸を触っておけば良かったのに、ツクヨくんはいつも優しいですね」
白銀の一切でツクヨが首を切られた。
痛みがあったからか銀髪の彼がつながったままの自分の首に触れる。
「おやすみなさい。ツクヨくん」
まぶたを閉じかけるツクヨの顔を両手でつかみ、アテラが唇にキスをする。
「わたしが勝手にやっただけなので、ヒトミもゆるしてくれますよ」
ぐったりしているツクヨを抱きしめながらアテラは言いわけをしていた。
「わからないな。記憶を操作できるんだから苦しむたびにナツちゃんと同じようにツクヨくんも利用をしてあげれば良かったのに」
そのほうがツクヨくんとしても満足だったんじゃないのかい、とニアが口にする。
「わたしが嫌だったのよ」
「だったら仕方ないね。まだまだアーティスちゃんは泣きたいだろうし、ツクヨくんはわたしが運んであげ」
「ほっといて」
ニアが人差し指で自分の頭をかいた。
また、わたしはなにかを間違えてしまったらしいとでも言いたそうな顔をしながら……茶髪の彼女は部屋を出ていく。
泣き声が聞こえた。
ノコミのものだった。
「起きたか」
「悪い。デート中に」
「別に良いよ。今日はあたたかいし、わたしも眠りそうになっちゃったから」
公園のベンチでヒトミに膝枕をされているツクヨの姿が面白かったのか、近くを通りすぎる子供たちがけたけたと笑う。
「そういえば、さっき奇麗な白髪の女の子がこっちを見ていたけど……わかる?」
「今はナツとのデートだし。ほかの女の子のことは知っていても言えないよ」
ヒトミが頬を赤くしたが、すぐに不満そうな顔をする。
「知り合いではあるんだね」
「心配しなくても、おれが一番好きな女の子はナツだけだよ」
「だったら別に良いけど」
ツクヨが自分の首をなでつける。
「痛かったな」と銀髪の彼はつぶやいていた。




